幼なじみ彼女と年越し
「今年はありがとうございました。来年も、どうぞよろしくお願いします」
「こちらこそ。良いお年を」
だいぶ時間が経ち、いい頃合となったので、香織とご両親は自宅に帰ることになった。
「優斗、後で電話してもいい?」
「もちろん。待ってるな」
家に戻り、それぞれお風呂等を済ませたあと、リビングでくつろいでいると、スマホが震えた。
『優斗、今大丈夫?』
『大丈夫だぞ。電話するか?』
『さっきはそう言ったんだけど、せっかくだから、会って話したいな。暖かくして、家の前で会わない?』
『そうだな。そうしようぜ』
俺としてもせっかく一緒に居たのに、2人で話す時間がほとんどなかったこともあって、会いたい気持ちがあったので、喜んで返信しつつ、両親に一言伝えてから、家の外に出る。
「あっ、優斗、さっきぶりだね」
「待たせちゃったな。冷えてないか?」
玄関先で段差に座っている香織の隣に座り込んで、香織の両手を取って、暖めるように握り込む。
「うん。大丈夫だよ。それより、無理言ってごめんね?お風呂も入ったのに」
「それはお互い様だろ?気にするなって」
香織の服装は厚手のコートを着ているので分からないが、髪は綺麗に下ろされている。
「それもそっか。今年、終わっちゃうね」
「そうだな。あと少ししかない」
「なんだか、あっという間だったなぁ〜」
そう言って星が僅かに見える、夜空を見上げる香織。
「色んなことがあったな」
「ね。優斗は何が1番思い出に残ってる?」
俺は今年、というか、5月からの約半年を思い出した。放課後の帰り道に香織と再会し、困惑しながらも文化祭行って、本当のことを知って、香織の相談に乗って、夏休みにこれでもかと言うくらい遊んで、付き合い始めて。
本当に色々なことがあったが、一番の思い出と言われたら、あれかな。
「俺は、香織の誕生日かな。多分、一生忘れない」
「ほんと?私の誕生日、そんなに楽しかった?」
「もちろん。すっげぇ思い出に残ってるよ。来年は今年を越えられるように頑張るよ」
嬉しいという気持ちが溢れ出ているのが感じられる笑顔の香織。
「香織の一番の思い出は?」
「そうだな、私はね。夏休み前に、優斗に助けて貰ったことかな」
先輩とのいざこざのことだな。
「あの時ね。信じてた人に酷いことされて、もしかしたら、誰も信じれなくなってたかもしれない。けど、優斗が、私は同じようなことをしてしまったことがあるのに、助けてくれたから。私にもう一度、信じる勇気をくれたから」
香織は俺の手とぎゅっと繋いで続けて話す。
「それだけじゃなくて、美咲ちゃんやお義母さんたち家族や、桃ちゃんや谷本くんっていう、友達を通じて、信じていいんだよって、教えてくれた」
「俺は何もしてないよ。香織は……」
「ううん、優斗のおかげだよ。だから、ほんとに、ありがとね」
俺の方が、と思いながらも、いい言葉が見つからず、続けて香織が口を開いてしまった。
「実はね?」
香織は俺の方をしっかり見て、話し始める。
「お風呂入ったり、寝る準備したりしてる時に、去年の今頃のこと、思い出して。こうして優斗と仲良しに戻ってるどころか、付き合ってるなんて、去年の私が知ったらびっくりするだろうなぁって、思ったんだ」
「それは俺も同じだよ。まさか、トラウマの相手と、付き合ってるなんて」
「あはは、そのことについては、ほんと、ごめんね」
今、自分でトラウマと言葉にして気づいたが、確かに、俺は中学から高一までの約4年間、香織とのことで、トラウマを背負っていたが、今となっては。
「??」
俺が視線を向けた先で、きょとんと首を傾げる香織。
俺の、香織についてのトラウマは、香織が取り払ってくれた。香織と再開して、香織と仲直りして、香織とたくさんの時間を過ごした。
この時間がなければ、俺はきっと、今もクラスでは落ちこぼれ、谷本にも見捨てられていたかもしれない。
「さっきさ、香織は俺のおかげだって、お礼を言ってくれたけどさ。俺も同じだよ」
どう言葉にすれば、きちんとこの気持ちが伝わるのだろうか。言葉を選び、紡いでいく。
「俺も、香織と再開して、勉強教えて貰ったり、一緒に遊んだりして、沢山のものをもらったよ。もう、香織無しの人生なんて考えられないくらい」
「もう、なにそれ」
笑いあってから、そっと口付けを交わそうとした、その時。
香織のスマホから、アラームが鳴り響いた。
「あっ、今年が終わっちゃった」
「そっか、もう新年かぁ」
年が変わる前と、何も変わらない夜空を見上げながら、香織と話す。
「今年は何が待ってるかな」
「楽しいことがいっぱいだといいな」
「大変なことがあっても、私たちなら大丈夫だよ」
微笑む香織にそう言われると、そんな気がしてくる。
「あけましておめでとう。香織」
「うん。今年も、よろしくお願いします」




