家族と年末
「にぁ〜、年末だねぇ〜」
「猫かよ」
いつもは新年開けて、家に戻ってきてから、出されるが、今年は年末に合わせてリビングに用意されたコタツに、まるで猫のごとく、ぺたーんと伸びている美咲。
「猫なら可愛いからいいや〜」
「いいのか」
「それに、お兄ちゃんも似たようなもんでしょ〜」
俺は俺で、ソファーに足まで乗せてくつろぎ、毛布にくるまっている。
「こんな年末もいいもんだね〜」
「そうだなぁ」
今日は12月30日。大晦日に向けて、テレビ番組がちょっとずつ普段とは変わっていく頃だ。
いつもなら、もう祖父母宅なので、手伝いやら正月の準備やらで動き回るのだが、今年は家での年越しなので、早くもぐうたらモードである。
「ねぇ〜、お兄ちゃん。暇〜」
「なんだ、ゲームでもするか?」
「もうやったじゃん」
ぐうたらモードになったはいいものの、年末って何したらいいんだろうな。美咲はゲーム飽きたらしいし。
両親は年末年始に向けて、食料の確保やらお餅やらで、出かけて行ったけど、「たまにはゆっくり過ごしなさい」と2人から言われたら、甘えちゃうよな。
「香織お姉ちゃん呼ぼうよ〜」
「無理だよ。香織の家は毎年、親戚で集まってたはずだろ」
小学校の頃から、お隣の中村さん達は、年末年始忙しそうにしていた記憶がある。
「そうだけど〜」
「んー、ダメ元で青原さんとか連絡入れてみるか?」
この間仲良くやってたし、いいかなと思ったけど。
「うーん、遠いし迷惑だと思うから、いいや」
「ちゃんとわきまえてる」
「ただのわがまま中学生じゃないのだよ」
そんな話をしながらも、何か行動するでもなく、お互いに猫のようになっていると、両親が帰ってきた。
「ただいま」
「帰ったよ」
「「おかえり〜」」
俺も美咲も、顔だけ両親の方へ向けて、声で出迎える。
両親は両手に袋を持っていて、お酒やらお肉やらが見える。
「なんか手伝うことある?」
「冷蔵庫にしまうの手伝ってくれる?」
「あいよ」
いつまでも猫になっていると、いざ人に戻る時に苦労するので、くるまっていた毛布を剥ぎ取って、台所へ向かう。
「うおっ、カニだ……!?」
「そうよ〜、年末ぐらい贅沢しなきゃねぇ」
豪華な食べ物や飲み物を冷蔵庫にしまうのを手伝ったあと、大掃除後で、ちょっとやりがいのない掃除をしたり、父さんに付き合って車を綺麗にしたりした。
その間、美咲は猫から戻ってこなかった。
その後、各々お風呂を済ませ、晩御飯の時間となった。
「ほら、そろそろ人間に戻ってこーい」
「はぁい」
お風呂から出たあとも、コタツに戻り、ぐでーんとしていた美咲を起こし、いざ晩御飯である。
「お刺身だ〜、美味しそう」
「いただきまーす」
我が家は割と好き嫌いが少なく、魚介系が好物なので、お刺身や焼き魚の時はみんなテンションが高めだ。
「美味しいわねぇ」
「いい刺身だね」
父さんと母さんは、いつもよりも少しお高そうなお酒とともに、お刺身を食べていた。
俺も、20歳になったら、お酒の飲むのかな。香織と一緒に飲めたら楽しそうだけど。
そんなことを考えながら食べていくと、あっという間にお皿が空っぽになった。
美咲がアイスを食べるため、台所に選びに行くのを見つつ、疑問に思ったことを話してみることにした。
「なんか、さっき冷蔵庫にしまった量と、1日に食べる量があってなくないか?」
冷静に、冷蔵庫がパンパンになるくらい買い込んでいたから、どれだけ料理するつもりなのかと思っていたけれど、今日はいつもと同じくらいの量だった。
「あら鋭いわね」
「ちょっと買い物に行った先であってね」
俺の頭にハテナが浮かんでいると、美咲がチョコを纏ったアイスをもって帰ってきた。
「なになに、何があったの?」
「近所のスーパーに買い物に行っていたんだが、そこでお隣のご両親にばったり会ってね。今年は親戚の集まりに参加しないようなんだ」
なにやら仕事の関係で、年末年始を長期で休むのが難しかったらしく、参加を見送ったらしい。
「それで、偶然が重なったし、せっかくなら一緒に過ごしませんかって話になってね」
「えっ!もしかして……!?」
「いやいや、まさか……」
俺たちの頭に過ぎるある予感。
「そう、そのまさかよ。明日の晩御飯はうちで年越しパーティね」
「やったー!香織お姉ちゃんと遊べる〜!」
「マジか」
嬉しいような、香織のご両親に良くない面見せちゃいそうで、不安なような……?
喜ぶ美咲と、楽しみだと話す両親を尻目に、スマホを取りだし、香織に連絡する。
『香織、聞いたか?』
『うん、聞いたよ。明日のことだよね』
『美咲が遊ぶ気MAXだから、そのつもりでいてくれ』
『もちろん大丈夫だよ。優斗も一緒に沢山遊ぼうね』
年末まで香織と一緒に過ごすことになるなんて、去年の俺じゃ考えられなかったなぁ。
今年一年に思いを馳せながら、年末特有の、特番の嵐を眺めて、家族ですごした。




