幼なじみ彼女と雪の日
「すごーい!真っ白だ!」
「降ってるなぁ、寒いわけだわ」
クリスマスから数日たち、両親も年末年始の長期休みに入った。
家の窓から、外の様子を見回す美咲。俺たちの住む地域は、それほど雪が降る場所ではないのだが、テレビニュース曰く、数年に一度の寒波が来たらしく、家の外はうっすらと銀世界である。
「ねぇお兄ちゃん!雪だるま作ろうよ!」
「うーん、満足に作れるほどは積もってないと思う」
ツルッと滑る未来も見える。
「もー、お兄ちゃんのケチ」と言っていじける美咲の相手をしつつ、リビングでゆったりする。
「みんな、ちょっといいかい?」
何やら調べ物をしていた様子の父さんが、部屋から出てきてみんなに呼びかける。
「いつもなら、年末年始はおじいちゃんたちの家で過ごすところなんだけれど、この雪で、道路が通行止めになっていてね。寒波はまだ収まらないようだし、今年は家で過ごすことになりそうだ」
「そっかー、なんだか新鮮だね」
「珍しい年末年始になりそうね〜」
毎年、年明けは祖父母宅で迎えていたため、初めての家での年明けになりそうだ。
「ばあちゃんたちの方、そんなに雪降ってて大丈夫なのか?」
ちょっと心配になり、父さんに聞いてみた。
「ああ。おばあちゃんたちの家の辺りはそれほど酷くないようだが、それまでの道がね。山の方は雪が酷いみたいで、立ち往生してる車もあるようだ」
「なるほどな……。ってことは、高校の方も降ってたりして……?」
「ここよりは降っているだろうね。聞いてみたらどうだい?」
父さんの言葉を聞いて、LINEを開く。
谷本のトークルームを開き、連絡してみる。
『そっち、雪大丈夫か?』
ほとんど間を開けず、既読が着いた。
こいつ、暇してるのかな、なんて思うが、なかなか返信が来ない。
しばらくして、写真と共に、連絡が返ってきた。
『結構やばいぞ。電車止まってるし』
送られてきた写真には、俺たちの方とは比べ物にならないほど雪が積もっていた。雪国程ではないものの、長靴が必要そうだ。
『気をつけてな』
『おうよ』
気遣う連絡を送ったところで、美咲がスマホを覗き込んで聞いてくる。
「お友達は大丈夫そう?って、すごい積もってるね!これだけ積もってたら遊び放題なのになぁ……」
「そうだな。ただ、電車止まってるし、帰ってこれるかわかんないし。さすがに遊びには行けないな」
「だよねぇ……」
そんな話を2人でしていると、父さんが話し始める。
「優斗の高校の方かい?ちょうど近くに用事があるし、送っていこうか?」
「ほんと!?」
「いやいや……」
わざわざ行くか?他の友達と一緒に遊ぶわけじゃあるまいし。
「お兄ちゃんは雪遊びしたくないの?」
「んー、したくない訳じゃないけどさ」
正直たまにしか降らない雪にテンションが上がっているのは間違いない。けれど、寒い中外に出たくない気持ちが勝ってる。
「むー。お父さん、まだ出かけるまで時間ある?」
「お昼済ませてからのつもりだよ」
「じゃあ、それまでにお兄ちゃんを雪遊びする気分にさせたらいいってことね」
何やら勝手なことを言っている美咲。
悪いな。今日は家でぬくぬくするのだ。
美咲がどんな手を使ってくるのか、想像しつつ、リビングでゆっくり過ごすこと数十分。
手元でいじっていたスマホにLINEが届いた。
『これから雪遊びしませんか?』
例の謎解きグループに、香織からの連絡である。このタイミングで、この内容。
もしやと美咲の方を見ると、意地悪な笑みを浮かべて、こちらを見ていた。
「香織を味方につけたな……?」
「ふっふっふ。お兄ちゃんの弱点など把握しているのだよ」
得意げな美咲。だが、まだだ。谷本や青原さんが暇しているとは限らないし、暇であってもわざわざ外に出ようとするかは別問題だ!
『突然だな。どうしたんだ?』
『こっちは結構積もってるけど、香織ちゃん達の方も積もってるの?』
『実はね……?』
そこから香織が雪遊びを提案するに至った経緯を説明しだした。
『そういうことなら仕方ないな!』
『近くの公園が人少ないし、雪も積もってるはずだからそこにしよう!』
こ、こいつら、乗り気だ……!
『おい橋崎!既読ついてんだからわかってるんだぞ!諦めて出てこーい!』
くそう、俺の休日ぬくぬくライフが……。
『わかったわかった。こっちを昼過ぎに出る予定だから、詳しい場所だけ教えてくれ』
『ほいほーい。マップで調べて送っとくね』
青原さんの返信を見た後に、得意げな表情の美咲の元へ向かう。
「お兄ちゃん、何か言うことは?」
「俺の負けだ。準備するぞ」
「やったね!」
ガッツポーズする美咲と共に、雪のチラつく外で遊ぶための、防寒対策を始めた。
しばらくして、お昼を食べ終わった。父さんには事情を話して、香織も一緒に乗っていいことになった。
「それじゃあ、私の用事が終わったら、連絡を入れるから。そうだね、夕方頃になるとは思う」
「わかった。それまでは遊んでいいってことだな」
「くれぐれも怪我はしないように」
「はーい!」
ダウンジャケットに滑りにくいブーツ、雪を触る用の手袋に雪玉作る道具と、準備万端の美咲。
なんだかんだ言いながら、俺も同じくらい準備万端だから、なんも言えないが。
「お待たせしました。お世話になります」
「いやいや、こちらこそ。美咲のわがままに付き合ってくれてありがとう」
隣の家から、白色のダウンジャケットに身を包んだ香織が出てきた。
さぁ、全員集まったところで、いざ出発だ。




