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幼なじみ彼女とクリスマス その2


「わぁ〜、見えてきたね!綺麗」

「こう見るとすごいな」


ファミレスを出て、数分歩けば、様々な光で彩られたイルミネーションが見えてきた。

ここは、大きな道路がある場所にしては珍しく、両サイドの歩道の他に、自然豊かな遊歩道が設けられており、冬場はその場所でイルミネーションが行われている。


「とりあえず、一周してみるか?」

「そうだね、いこっ!」


繋いだ手を引いて、歩き出す香織に合わせて歩みを進める。

しばらく、気を彩るイルミネーションや、子どもが喜びそうな、動物モチーフのイルミネーションを眺めて歩いていると、アーチ状に作られたイルミネーションが現れた。


「光のトンネルってやつかな」

「みたいだな!すげ」


その中は、周りが光で溢れているだけあって、とても明るく感じた。

所々にあしらわれた星や花を見つけてテンションが上がっていると、香織の「ふふっ」という小さな笑い声が聞こえた。


「優斗って、こういうの好きだよね。水族館の時も、トンネル通る時凄くいい顔してたもん」

「なんか、普段は絶対ないだろ、こういうの。だから、何かの主人公になったみたいで、ワクワクするんだよな」


そう答えると、香織はくすくすと笑ってから、微笑んで答える。


「そっか、わかる気がするけど、私にとって優斗は、とっくに主人公だよ?」

「あ、ありがとな。それじゃ、ヒロインは香織だな」

「うん!」


香織はそう言って、繋いでいた手を離し、腕に抱きついてきた。


「おっとと、嬉しいけど、歩きにくくないか?」

「平気だよ。優斗とくっついてる事の方が大事」


香織から魅力たっぷりな笑顔から放たれる幸せオーラをひしひしと感じる。まぁ俺も幸せなのだが。

ふと、2人の世界から、我に返ると、周りのカップルの、男側が香織に目を奪われて、彼女に怒られている様が目に入る。


「香織、恐ろしい子……」

「??」


俺の小さなつぶやきは、香織の耳には届かなかったようで、俺を見て小首を傾げている。

慌ててイルミネーションの話題で誤魔化して、引き続き回っていくことにする。



しばらく歩き、道路を挟んで反対側へとやってきた。

こちら側にはお城をモチーフにしたイルミネーションが設置されている。


「これ、なんの行列なのかな?」

「なんだろ、結構並んでるよな」


これまでも、割と人を見ることは多かったが、こんなに並んでるのは、今日初めて見た。


「ちょっと前に行って、見てみようか」

「そうだね、行ってみよ」


行列の先に何があるのかを確かめるため、横を通り抜けていく。

今更気づいたけど、並んでるのカップルばっかりじゃないか。一体何があるんだ?


「……フォトスポット?」

「みたいだね。囚われのお姫様、みたいな?」


その先には、お城のイルミネーションと、その内側で「助けてー」なんて言ってる女の人と、外側で手を伸ばす男の人がいた。


「確かに、なかなか撮れない写真だけど。香織、どうする?撮りたいか?」

「ううん、ここではいいかな。どうせ撮るなら、2人一緒に並んで映りたいし」

「いいのか?割と憧れのシチュエーションじゃないのか?囚われた私を助けてくれる彼氏、みたいな」


勝手なイメージだが、そういうの好きな女の子が多いと思っていた。実際並んでるわけだし。

香織はキョトンとした後、ほんとに分からないというような表情で、話し始める。


「うん。だって、わざわざここで写真に残さなくても、もし私に何かあったら、優斗は絶対助けに来てくれるってわかってるもん」


1+1=2ですよと、当たり前のことを話すようにそう言葉にする香織。

信頼されていることに喜びを感じ、その信頼に、一切の迷いがないことに、顔が熱くなる。


「も、もちろん、香織が困ってたら助けるけど。香織も気をつけてくれよ?」

「??」


疑問が浮かんでいる様子の香織に、さらに顔が暑くなるのを感じながら、やり返す気持ちを込めて、言葉にする。


「香織はものすごく、とんでもなく魅力的なんだぞ。優しいし可愛いし。だから、香織を標的にした悪意に気をつけてくれ。俺がいる時はいいけどさ」


俺が話していくにつれ、香織の顔に朱が差していく。


「わかった。けど、大丈夫だね」

「ん?ほんとにわかってるか?」

「うん。だって、私は優斗と離れるつもりなんてないもん」


そう言って、腕を抱く力を、ぎゅっと強める香織。


「守ってくれるんでしょ?」

「……ああ、もちろん」


お互いに真っ赤になりながら、そう話して、お城のイルミネーションを後にした。



イルミネーションを楽しみながら香織と歩いていると、あっという間に時間が過ぎていくもので、気づけば、あともう少しで一周が終わる、という所まで来ていた。


「最後にあそこで写真撮ろうよ」


香織の指さす先には、ハート型のイルミネーションがあり、その前に座れるようになっていた。

うーん、さすがに恥ずかしい気持ちが勝っちゃうな。

そんな俺の気も知らず、ハートの前に向かう香織。


「ほらほら、早く」


先に座った香織が、隣をぽんぽんと叩いて俺を呼んでいる。

香織に促されるままに横に座り、香織のスマホで、自撮りする。


「よしっと。うまく撮れたよ」

「いい感じだな」

「後で送ってあげるね」


その写真は、夜でイルミネーションの前ということもあって、綺麗な写真とはいかなかったものの、香織の表情がよく撮れていた。


俺たちはその後、時間も遅くなって来たので、帰ることにし、駅へと戻り、電車に乗りこんだ。



しばらく揺られ、無事に最寄り駅につき、自宅へと向かっていく。

香織との時間に夢中になっているうちに、自宅の前に着いてしまった。


「今日もありがとな。香織。楽しめたか?」

「うん。楽しかったよ。けど、最後に、ひとつお願いしてもいい?」


香織が控えめに聞いてくる時は、だいたい勇気を振り絞っている時だと、わかっているので、できる限り優しい声色を意識して、答える。


「もちろん。なんでも言ってくれ」

「……じゃあ、言う。あのね、橋崎サンタさんからの、プレゼントは貰ったんだけど、私の彼氏の優斗からは、まだ貰ってないと思うの。だから、その……」


はっきりと言葉にしていないものの、香織が話しながら何気なく口元を触ったのを見て、何となく何して欲しいのかを察する。


「香織、気づかなくてごめんな。俺も同じ気持ちだから、安心してくれ」


俺はぎゅっと香織を抱きしめてから、そっと口付けをした。


「んっ……」


数秒間、そうした後、静かに離れると、朱色に染まった香織の表情が見えた。


「香織……」

「優斗……もう、ちょっとだけ……」


そう言って、唇を差し出すように、もう一度口付けをした。

どちらともなく、離れ、微笑み合う。


「メリークリスマス、優斗」

「ああ、メリークリスマス、香織」


俺たちは最後にもう一度だけ抱きしめ合った。



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