幼なじみ彼女とクリスマス その1
「やっべ、ギリギリになっちまった」
あの後、あれでもないこれでもないと香織へのプレゼントで頭を悩ませる美咲に付き合っているうちに、あっという間に時間が過ぎてしまい、家に帰るのがギリギリになってしまったのだ。
例のキメッキメモードを自分で何とか作り上げ、慌てて家を出た時には乗る予定だった電車は出発してしまっていた。
とはいえ、余裕を持って予定を組んでいたので、約束の時間までには待ち合わせ場所に着くはずだ。日頃から余裕をもった予定を組む癖をつけていて良かった。
ギリギリまで粘ったかいあって、美咲がきちんとプレゼントを選ぶことができたので、良しとする。
プレゼントは美咲が自分で渡したいそうなので、今日は俺の分だけである。
いつもより少し長めに揺られた電車を降り、広い駅を迷わないように気をつけながら、外に出る。
そこには、大きなクリスマスツリーが飾ってあり、イルミネーションが施されている。
雪がちらついている中、同じように待ち合わせをしていたのであろうカップルが多くいるツリーの周りを見回し、香織の姿を探す。
「あっ、いたいた」
クリスマスツリーから少し離れたところで、壁にもたれて待っている香織の姿を見つけた。
駆け足で香織の元へ向かい、声をかける。
「ごめん香織。待たせたな」
「ううん。約束通りだよ。メリークリスマス、優斗」
「ああ、メリークリスマス」
今日の香織は、髪を結わずに下ろしていて、いつものお揃いのマフラーをしていた。白と紺色でまとめられていて、香織のもつ、可愛らしい雰囲気が強調されていて、とても魅力的だ。
「コート、似合ってるな。可愛い」
「あ、ありがと。優斗も、かっこよくしてきたんだね。やっぱり、そっちの優斗も好きだよ」
香織が嬉しそうに答えてくれる姿に、見とれそうになった。
香織が待ち合わせを希望したのは、こういったやり取りがしたいからかな、なんて思ったので、思い切ってやってみた。恥ずかしいし、勇気がいるけど、香織の嬉しそうな表情を見ていると、やってよかったなと思える。
そんな魅力的な表情を見ていて、気づいた。
香織は待っていないと言うが、少し顔が赤くなっているところを見ると、しばらく待ってくれていたことが感じられた。
周りを見渡し、ツリーから少し離れているのが幸いしたのか、こちら側にはほとんど人が居ないのを確認してから、両手を広げ、そっと香織を抱きしめる。
「ゆっ、優斗、どうしたの……?」
「寒かったよな。遅くなってごめん」
俺は今日、コートを羽織っているので、少しは暖かく感じるはずだと信じて、少しの間、香織を抱きしめ続けた。
「あ、ありがと。今日は、積極的、だね」
「香織の誕生日で、こういうことも、求められてるってわかったから。たまに、こうやって応えるよ」
「……もう」
しばらくそうした後、香織が離れ、話し始める。
「もう大丈夫。行こ?とりあえずご飯だよね。この駅の近くに、近所にはないファミレスあるんだって」
「いいな。初めて行くとこだ」
「私も私も」
話しながら移動し、ファミレスに入った。晩御飯にしては少し早い時間ということもあって、スムーズに座ることが出来た。
それぞれ食べたいものを選び、ちょっと食べさせ合ったり、感想を伝えあったりして、食べ終わる。
「そうだ、忘れないうちに、渡してもいい?」
ハンバーグを食べ終わった香織が、そう言ってバッグから袋を取り出す。
「はい、クリスマスプレゼント。この間交換会したけど、私は優斗にあげなかったから」
「ありがとう。嬉しいよ」
パスタが入っていたお皿を片付けつつ、香織から袋を受け取った。開ける前に、俺も香織へプレゼントを渡す。
「橋崎サンタからも、クリスマスプレゼントだ」
「えっ、いいの?私はこの間貰ったのに」
「いいよ。香織に選んだプレゼントは、別物だ」
香織もプレゼントを受け取り、2人でお互いのプレゼントを確認する。
「ん?」
「えっ?」
俺と香織は、驚いて顔を見合わせる。
香織からのプレゼントの中身は、谷本が青原さんに送ったものとは少し違う、手触りのいいブックカバーだった。
そして、俺が今日選んだクリスマスプレゼントは。
「これ、凄い偶然だね!」
香織は俺の選んだブックカバーを、プレゼントの袋から取り出して、微笑みながらそう言った。
そう、俺たちは同じものを送りあったんだ。
「あっでも、よく見たら栞のところだけ違う」
「ほんとだ」
香織の持っているブックカバーは、栞部分が桃色で、俺が持っているブックカバーは、青色だ。
「俺は、昨日谷本のプレゼント見た時に、いい反応してたから、今日買ったんだけど、香織は?」
香織は「ふふっ」と笑いながら、答えた。
「私も。優斗が欲しそうな反応してたから、昨日、こっそり買ってたんだ」
「えっ、いつの間に買ったんだ?」
「優斗と谷本くんが、アニメのグッズを吟味してる時に、こっそりね」
そういえば、その時、いなかった気もする。なんせ久々にグッズを買うか悩んでたから、夢中だったんだろうな。
「同じこと、考えてたんだな」
「だね!お揃い。大切にするね」
「俺も、大切に使うよ」
2人で笑いあった後、会計を済ませて、ファミレスを後にした。
「優斗、ちょっと待って」
ファミレスを出て、イルミネーションを見に、歩いていこうとしたところで、香織に呼び止められた。
香織は俺の前に立ち、マフラーを結び直し始める。
「曲がってたか?」
「ううん、そういう訳じゃないんだけど……できた」
香織は満足そうに微笑み、自分のマフラーをゆびさしながら、続けて話す。
「これで、マフラーも全部同じだね。お揃いだよ」
そう言って笑いかけてくれる香織の表情が、心から幸せそうに見えて、俺も嬉しくなると共に、幸せを感じた。




