幼なじみ彼女と友人の誕生日 その3
次の場所に行くということで、駅まで戻ってきた。
目的地は例のショッピングモールである。青原さんも一緒にもう一度行こうという話になった。
谷本と青原さんは、ラケットバッグを持って動き回るのは大変ということで、荷物を置きに一旦家に帰って行ったので、今は駅で香織と2人である。
「こうしてると、落ち着くな」
「そうだね、私も」
普段学校に行く時に利用している駅よりもさらに2駅分進んだところの駅だし、香織にとってはほぼ初めての場所だ。
それでも、いつもの駅で過ごすように、ベンチに2人でいると、落ち着いてくる。
「ねぇ、ちょっとだけ、甘えてもいい?」
そう言って、香織はいつもよりも僅かにあった距離を縮め、寄り添うように体を預けてくる。
こうして、香織と一緒にいるのは俺にとっても幸せだし、至福の時間だ。
何を話すでもなく、そうしていると、後ろから声をかけられた。
「ひゅーひゅー!お熱いねぇ」
「ちょっと目を離したらこうだからなぁ」
俺たちは驚いて離れつつ、後ろを振り返る。
「お待たせ」
「電車に間に合ってよかったね」
「こっそり後ろから近づくのやめろよ、心臓に悪い」
「いやいや、俺たち話しながら来たからな?気づかない橋崎にも問題あるだろ」
「えっマジで?」
話しながら移動し、ショッピングモールに到着した。
「青原さんは何したいんだ?」
「そりゃまずはゲームセンターでしょう」
当然とばかりに話す青原さん。俺と谷本はともかく、青原さんにはあんまりゲーセンのイメージはないけど、やりたいことがあるんだろうか。
ショッピングモールの中を歩き、ゲームセンターに到着する。
青原さんはお馴染みのUFOキャッチャーや音ゲーなどを通り過ぎ、ある機械の前で止まった。
「プリクラ撮ろう!」
「あぁ〜、確かにゲーセンにあるよな。プリクラ」
「何その煮え切らない反応は!」
プリクラ、別名プリントシール機。日々ゲーセンに遊びに来ているものの、1度たりとも近づくことすらなかった。まさか俺が撮る日が来るとは……。
「橋崎、プリクラとか、選択肢になかったんだろ」
「あぁ、もちろん」
「何がもちろんなのかはさておき、もしかして、プリ撮るの初めて?」
「逆に男で撮ったことあるやつの方が少ないのでは」
「割とそんなこともないぞ……」
な、なんだと……これまで撮ろうという発想すらなかったのに。
「とりあえず、撮ってみようね〜」
「別に嫌なわけじゃないけど、こう、操作とかさ」
「私がやったげるから〜」
青原さんは俺の背中を押して筐体の中へと進む。
少し遅れて、香織と谷本も入ってくる。
「ほら、詰めて詰めて。映らないよ〜」
「香織、こっち」
「あっ、ありがと」
青原さんの隣にスペースを作って香織に入ってもらいつつ、カメラの方を確認する。
「お優しいねぇ、俺にもほんの少しでいいから、その優しさを分けてくれないもんかね」
「十分足りてるだろ」
「どこがだ!」
谷本は俺の肩に腕を回して、グイッと近づいてくる。ついでのように握りこぶしが俺の頭に乗せられた。
「いやガキ大将か!」
「ほら、始まるよ〜」
何やらアナウンスと共に、間を置きつつ何枚か写真が撮られた。写真の確認とラクガキタイムである。
「だっはっは!橋崎、目ぇデカすぎだろ!」
「谷本も人の事言えないだろ!」
出来上がりの写真を見て、大笑いする谷本。確かに俺の絵面も面白いけど、谷本も相当だからな?
「香織ちゃん、こうしたら可愛くない?」
「いいね!じゃあ桃ちゃんにも……」
「ついでに男2人にもやっちゃえ!」
俺たちが言い合っている間に女子2人によってラクガキされ、写真がプリントされて出てくる。
青原さんが笑いを堪えながらプリントシールを見せてくる。
「ほ、ほら、いい感じ、でしょ?」
その写真には、ご丁寧に全員の顔に可愛らしい猫耳とヒゲがあしらわれていた。
「これ、香織と青原さんは似合ってるし可愛いからいいけど、俺とか谷本はお笑いじゃね?」
「ぶっはは!は、腹痛てぇ!」
見事に方向性を間違えた芸人みたいになってる。確かにおもろい。香織たちとの対比がさらにおもろい。
「ほら、みんなで分けて持って帰ろうね〜」
「なんか釈然としない……」
「まぁまぁ、これも思い出だわな」
これ、なんかの間違いで学校のやつに見られたら、その日は笑いの的なんじゃないだろうか。
「さてさて、次どうする?」
「音ゲーとかどうよ」
「いいね、久しぶりかも」
「おっ、中村さんも経験あり?」
「前に優斗と一緒にね」
その調子でゲームセンターで遊んで行った。
あんまり得意じゃない音ゲーだったとはいえ、香織に負け、愕然とする谷本だったり。
「えっ、音ゲーも上手いのか……」
「えっへん」
「谷本、諦めろ……俺らがもっと上手くなるしかないんや……」
バスケのゲームで無双し始める青原さんだったり。
「なんか今日調子いい!」
「すげぇ、ボールが吸い込まれていってる」
「誰にでも才能はあるんだなぁ」
「ちょっと!谷本くん聞こえてるよ!?」
今度は反対に得意な音ゲーで無双する谷本だったり。
「これなら俺の独壇場だ!」
「あれ、足どうなってるの……?」
「俺にもわからん」
UFOキャッチャーではちょっと立場が上がる俺だったり。
「なぁ橋崎、これどこ狙うのがいいんだ?」
「うーん、多分奥側じゃね?知らんけど」
「不安な返答だな!まぁやるけど……ってちゃんと取れるんかい!」
散々遊び、みんなの色んな姿が見れて楽しい時間になった。
お互いの帰りの時間も踏まえて、夕方には解散することになり、駅まで戻ってきた。
「今日も楽しかったな」
「ほんとだね」
「またすぐ遊びたくなるわ」
駅でそれぞれ話しながら、自然と分かれて帰る流れになりかけた時、青原さんが話し出した。
「みんな、今日は色々ありがとね。誕プレ嬉しかったし、ずっと楽しかった!」
笑ってそう話す青原さん。俺たちもきちんと向き直り、答える。
「喜んで貰えて良かったよ。また色々相談するかもだけど、よろしくな」
「どういたしまして。また次もお祝いしようね」
「その前に、みんなのお祝いからだね。ちゃんと祝ってあげるから楽しみにしといて」
そう言って帰っていく青原さんと谷本を見送り、俺達もその後に来た電車に乗り、帰って行った。




