幼なじみ彼女と友人の誕生日 その2
テニスを楽しむこと数時間。ペアを変えつつ試合をしていた訳だが、青原さんは軽やかに、谷本は力強く、香織は何故か2人と同レベルと思えるほどの動きを見せたため、俺1人惨敗である。
「……くそう」
「あはは、ごめんね?」
「しょうがないだろ。橋崎、勝負事で手を抜かれるの嫌だし」
「楽しかったねぇ」
意気消沈の俺を尻目に、3人は楽しそうに話す。
「それじゃ、ひとまずちょいと遅めのお昼ご飯としますか」
「沢山動いたからお腹すいたしね」
「ほら、優斗も行くよ〜」
香織に手を引かれ、先を行く2人についていき、近場のファミレスに入った。
テーブル席を4人で囲み、メニューを見る。
「なーに食べよっかなぁ〜」
「桃ちゃんはどれ食べたいの?」
「ハンバーグもいいし、パスタも美味しそう。パフェも食べたいなぁ」
「……太るぞ」
「あー!谷本くん!禁句を言ってしまったね!?」
「やべっ、声に出てた」
言い合いを開始する2人。今のは谷本が悪い。
香織と顔を見合わせ、合図をすると、香織は頷いてくれた。
「まあまあ、沢山運動したし、ちょっとくらい大丈夫だよ」
「さすが香織ちゃんはわかってくれてる!」
「私、パスタにするから、桃ちゃんハンバーグにしたら?一口ずつ交換しようよ」
「さんせーい!」
その話を聞きながら、タブレット端末で注文を入力していく。谷本にも聞き、それぞれの選んだ料理を確認してから、注文ボタンを押す。
「それにしても、香織ちゃんほんとになんでも出来るんだねぇ。逆に苦手なこととかないの?」
「そんな、なんでもは出来ないよ。虫とか苦手だし」
「そこは想像通りなんだな」
「そこはってなんだよ」
ついツッコミを入れてしまった。
「いや、今日のテニスとか、こないだのボーリングとかさ。俺らの想像を軽く超えてきたからさ。想像通りなところがあって安心したってだけだ」
「香織の場合、吸収が早いんだよな。上手い人の動きを見よう見まねでこなすから」
「褒めてもなんにも出ないよ」
「そんなこと言って。橋崎くんへの愛はいつでも出てるじゃーん」
青原さんはすすっと隣に座る香織に近づいて、そんなことを言う。
「もう、桃ちゃん。あんまりからかうとお仕置きするからね」
「わー、ごめんごめん。ご勘弁」
そう話す2人を尻目に、谷本は俺に小声で話しかけてくる。
「なぁ、どのタイミングで青原の誕生日のこと仕掛けるつもりなんだ?」
「俺に考えがあるから、ちょっと待っててくれ。あと上手く合わせてくれ」
「また無茶なことを……」
大丈夫大丈夫。谷本なら反応できるって。多分。
そんなことを話しているうちに、軽やかな音楽とともに、配膳の猫ロボが俺たちのテーブルの前で止まった。
「おっ、全員分一度に来たぞ。すごいな」
通路側に座っていた俺と香織で料理をテーブルに置き、猫ロボに戻るようボタンを押す。
「いただきまーす!」
それぞれパクパクと頼んだ料理を頬張る。
「うまっ」
「ね、おいしい」
それぞれそこそこ食べ進めたところで、香織と青原さんによる一口交換会が始まる。
「それじゃ、お皿交換しよ」
「うん、どうぞ」
その様子を見ていた谷本がふざけ始める。
「なあ、俺らも交換するか?」
「ん?スープパスタ食べたかったのか?」
「いや、そういうわけじゃないけど、流れに乗っかってみた」
「なんじゃそりゃ。まあいいや、ほいよ」
セットでついてたバゲットに軽く具材とスープをかけて谷本に渡す。
「いいのかよ、サンキュ!」
「ええ~谷本くんだけずるくなーい?」
「香織からもらってたろ」
「そうだけどさ~」
まあ誕生日くらい好きにさせてあげようと、同じように用意をして、最後の一枚のバゲットを青原さんに挙げることにする。
「はい、青原さん」
「えっ?ほんとにくれるの?」
「そっちが言ってきたんじゃん。ちゃんと新しいスプーン出したし安心してくれ」
「別にそこは気にしてないけど……ありがと」
谷本も青原さんもおいしそうに食べていたので、シェアしがいがあるってもんだな。
「それじゃ、お返しだ」
「はい、私の分」
2人からハンバーグを分けてもらい、食べつつ、みんなのお皿の状況を見つつ、タブレットを操作する。
「あれ、橋崎くん、なんか頼んだの?」
「まあ、ちょっとな」
しばらくして、例の猫ロボがパフェをのせてやってきた。
「パフェじゃん!おのれ橋崎くん……」
「何言ってんの。これは青原さんの分だよ」
「えっ?私、頼んでないけど……?」
「でも、食べたそうにしてたじゃない?」
「それはそうだけど、えっ!?まさか」
ここまで引き延ばしてたけど、さすがに気づかれたようだ。
「まぁ、思ってる通りだろうよ」
「桃ちゃん、誕生日おめでとう」
「俺たちから、ささやかにプレゼントだ」
「え~、いいとこあるよね~!ありがと!それじゃ遠慮なく……」
ぱくぱくとパフェを幸せそうに食べる青原さんを見つつ、俺と谷本はばれないようにしながら、カバンからきちんとラッピングされた袋を取り出す。
「桃ちゃんはフルーツどれが好きなの?」
「やっぱりイチゴかな~。香織ちゃんは?」
「どれも好きだけど、パフェにのってる中だったら、りんごかな」
「じゃああげるよ!」
俺たちの様子を察した香織が青原さんを引き付けてくれたので、苦も無く準備できた。
「おいしかった~。ほんと、ありがとね」
あっという間に食べ終わり、お店を出る雰囲気の青原さんを引き留め、口を開く。
「さてと、青原さん。ささやかなプレゼントの後は、ちゃんとしたプレゼントだと思うんだよな」
「えっと……?」
「てなわけで、谷本からと、俺と香織からお祝いがあります」
「まだ何かあるの!?」
谷本に目配せすると、テーブルの下からプレゼントを取り出す。
「どうしたの、めっちゃしっかりしてるじゃん……」
「中村さんが、どうせ送るならちゃんとしようって言ってな。しょうがないから包装してもらった」
「嫌々みたいに言うなよ」
「うっせ。中身はあんま期待しないでな」
青原さんは袋を開け、中身を確認する。
「私の好きな夢の国のキャラクターのキーホルダーに、お菓子がたくさん。いつの間に、私の好きなお菓子までリサーチしたのかな?」
「修学旅行も一緒だったし、今年のクラスの中じゃ、いちばん仲良くなったと思うからな。そりゃ自然と情報も集まりますよ」
「次は俺たちだな」
俺もテーブルの上にプレゼントを取り出し、いったん香織に渡してから、香織から渡してもらう。
「2人で選んでくれたんだ~。ありがと!どれどれ?」
青原さんは袋の中身を見て、反応を示す。
「小物入れ?かわい~!」
「桃ちゃんの好みにあってたかな。大丈夫?」
「ばっちりだよ!さすが、センスいい!」
俺たちからはちょっといい小物入れをプレゼントだ。デザインは香織チョイスで、アイデアは俺である。
「私、小物入れほしいなって思ってたけど、みんなに言ったことあったっけ?」
「いや、聞いてないと思うぞ。だって橋崎が小物入れの案出した理由が……」
「谷本、わざわざ言わなくても」
「なになに、気になるじゃん!」
大丈夫だとは思うが、怒られそうな気がする。
「ほら、修学旅行の最初。和田さんの乗り物酔いの時にさ、橋崎の小さいバッグの中身聞いたときに、女子力がどうのこうのって言ってたろ?あの会話からだから」
「……なるほど、橋崎くん。これにいろいろ準備して持ち歩いて女子力あげてってことかな?」
「いや、青原さんに女子力が足りてないとか、そういったことを思ったわけでは断じてない。香織に誓って、ただ喜ぶかなって思っただけだ」
少し圧のある話し方だったので、慌てて弁解する。
「だって。じゃあもし違ったことが分かったら、香織ちゃんからお仕置きね」
「任せといて」
「大丈夫だ。他意はない」
「ほんとかぁ?」
谷本はちょっと黙ってろ。と思ったものの、これはチャンスでは……。
「おや、俺のこの言葉を疑うってことは、谷本、まさか……?」
「谷本くん、私に女子力をつけた方がいいって思ってるのかな?」
「おっと流れが変わったな……会計して次行こうぜ!」
「待て~!逃げるな~!」
ターゲットが谷本に移り変わった。すまん谷本。
がやがやと話しながら会計を済ませ、お店を出た。
まあとりあえず、俺たちのプレゼントで喜んでくれてよかった。考えながら、次の目的地へ歩いて行った。




