幼なじみ彼女と文化祭 デート編
美容室から出発して数十分。無事に文化祭が行われている、香織の通う高校にたどり着いた。
香織は自分のクラスのシフトが午前中のため、お昼から合流することになっていたので、時間的にもピッタリくらいだ。
「それじゃ、一旦別行動だな。橋崎」
「ちゃんと香織ちゃんを守ってあげるんだぞ〜?」
「ああ、ありがとな。また後で、一緒に回ろう」
谷本と青原さんと分かれ、俺は香織との待ち合わせの場所に向かう。
何やらパッと見てわかる、銅像があるらしく、その前で会うことになっている。
「多分、あれだな」
何やら女の人の銅像を見つけた。なんで学校の庭ってこういうの置いてあるんだろうな。人が沢山通るとこに置いてあるし。
何はともあれ、まだ香織のシフトは終わっていないようなので、その銅像前で待つ事にした。
それにしても、綺麗な学校だなと思いながら、校舎やグラウンドを見渡す。
「うーん、ちょっとうちの学校に分けて欲しい」
まだ校舎の中は見ていないものの、グラウンドもテニスコートも綺麗に整備されていて、俺はほとんど使ってないけど、羨ましい。
そんなことを考えながら香織を待っていると、前を通り過ぎていく人たちがこちらをチラチラと見ていることに気がついた。特に女子生徒。
冷静に考えたら、文化祭とはいえ、私服の知らない男学校の中で立ち止まって、キョロキョロしてたら怪しいわ。
そりゃ見られるよなと自己嫌悪に陥りかけつつ、スマホを取り出して、平静を装う。
「あの〜、お一人なんですか?」
「いや、ここの生徒と待ち合わせしているんです」
やばいな、1人の女子生徒についに声かけられてしまった。遠目で他の女子生徒もこっちみてるし。そんなに怪しかったかな、俺。
「知ってる人だったら呼んできます。それか、クラスまで案内しますよ」
「ここで約束しているので、動かない方がいいかなと思ってるので、お気になさらず……」
何とか波風立てずに対応しようとする。
とりあえず、怪しまれてる雰囲気ではなさそうだ。ただ、善意から声掛けてくれてるようで、ちょっと断り続けるの、心が痛む。
「まぁまぁ、その人を探しながら、ちょっと一緒に回ってみませんか?」
「探すの手伝いますから!」
遠目で見ていた女子生徒がいつの間にか近づいて来ていて、数人に囲まれてしまった。
ど、どう対応するのが正解だ?わかんねぇ……。
目を回しそうにしていると、話しかけてきている女子生徒の間から、周りを見渡す様子の香織が見えた。
「あっ!待ち合わせしてた人が来たみたいなので、失礼しますね!」
「あっ、ちょっと……」
助かった〜と思いながら、女子生徒の間を抜け、香織の所へ、軽く手を振りながら向かう。
「香織!お待たせ」
「えっ……ゆ、優斗?」
あれ、香織が目を点にして固まってる。
「香織?」
「ご、ごめんね?いつもと、全然印象が違ったから、びっくりしちゃって。今日の優斗は、一段とかっこいいね」
「そう、かな。自分じゃあんまりわかってないんだ」
「いつもの優斗も好きだけど、今日の優斗は背伸びしてる感じがする。かっこいいけど、ちょっと可愛い」
「……褒めてる?」
「もちろん!褒めてる褒めてる」
香織が笑顔でそんな事を言う。香織にそう言われると、ちょっと自信着いちゃうな。
「それで、優斗をかっこよくしてくれた2人は、どこ行ったのかな?」
「俺が香織との約束を済ませてから、合流するってさ。2人は2人で文化祭を楽しんでると思う」
「そっか。じゃあ、私達も楽しまなきゃだね」
「ああ、行こうぜ。案内お願いしていいか?」
そう話すと、俺は香織に手を差し出す。
「うん!行こっか!」
香織は俺の手を取って、ぎゅっと繋ぐ。そして、いつもより少し近く、肩が触れ合うくらいの距離で並んで、歩き始める。
少し驚いたものの、香織の事を知っている生徒たちにわかってもらうためかなと思い直し、香織について行く。
「もうお昼食べた?」
「いや、まだだよ」
「それじゃ、まずはお昼ご飯からだね。こっちだよ」
香織は手を繋いだまま、校舎を歩いていく。
その間にも、すごく視線を感じる。香織の存在は学年とか関係なく、学校全体に知れ渡ってるんだなと実感する。
しばらく歩くと、中庭のようなところに出た。屋台のようにテントが並んでいて、様々なものが売られている。
「優斗、食べたいものありそう?」
「うーんと、焼きそばとか、ベビーカステラとか、チュロスとか美味しそうだな。香織は?」
「私もベビーカステラとチュロス食べたいなって思ってたの。それにしよっ!」
俺たちはまず、ベビーカステラを売っているテントに行き、ひと袋買ってから、チュロスを買いにまたテントに並んだ。
「味が何種類かあるっぽいけど、どうする?」
多分、最後にかける味付けが違うんだろう。シナモン、ココア、ストロベリーが用意されている。凝ってるなぁ。
「うーん、私はシナモンかな。優斗は?」
「じゅあ俺はストロベリーで」
香織がシナモンとストロベリーで悩んでいるようだったので、買った後半分くらいあげよう。
チュロスを受け取り、中庭に用意されていたベンチに並んで座る。
「どっちも出来たてで温かいな。どっちから食べる?」
「ベビーカステラからかな。いただきまーす」
香織は1口サイズのベビーカステラを袋から1つ取りだし、ぱくっと食べる。
「うーん、美味しい」
ご満悦な香織。そんな様子を見てると、それだけでおなかいっぱいだな。
「はい、優斗もどうぞ。あーん」
「えっと、香織?」
割と屋台テントが人気なこともあって、人が沢山いるんですけど。校舎内に引き続き、めっちゃ見られてるんですけど!?
「今日は受け取ってくれないの……?」
「わ、わかった。食べる、食べるよ」
香織が差し出したベビーカステラを食べる。
ま、周りからの嫉妬の目線が痛い……。とはいえ、逃げる訳にも行かない。香織と付き合った男として、ちゃんとしなければ。
「どう?美味しくない?」
「美味しい。よくできてるな。しっとりしてる」
「だよね!はい、もっと食べていいよ?」
引き続きベビーカステラを差し出し続ける香織。
「か、香織も食べていいぞ?」
「うん、この後食べるね。はい、あーん」
ダメだ。いつもの事ではあるけど、香織には勝てない。観念して同じようにぱくりと食べる。
うん。美味しいけど、甘すぎる。もはや周りの視線が殺意に変わってる気がする。香織の後ろの方で膝ついて項垂れてるやついるし。
そんなの気にしない様子でベビーカステラを頬張る香織。まぁ、楽しそうだし、目的は達成されてそうだし、いいか。
そんなことを考えながら、手に持っていたチュロスを食べる。
「おっ、チュロスも美味しいな」
「ほんと?私も食べよ……、うん!サクサクもちもちだね」
「だよなぁ」
うちの文化祭に比べてレベルが高い気がする。いや、間違いなく高い。なんなんだろう、この違い。
「ストロベリー美味しい?」
「おう、甘酸っぱい感じで美味しいぞ。ちょっと待ってな」
俺はチュロスのまだ袋に入っているところを折って渡そうとする。
「ううん、いいよ。そのまま食べるから」
「へっ?」
待ってとか、避けるとか、する間もなく、俺の持っていた食べかけのチュロスを食べる香織。
「うーん、ストロベリーも美味しいね!」
「そ、それは良かったよ」
周りからの視線が殺意から諦め、というか遠い目?に変わった気がする。あっ、さっきの人、血涙流してないか……?
「優斗、私のシナモン味も1口あげるから、もう一口貰ってもいい?」
「もちろん。食べたいなら俺は貰わなくても……」
「だーめ。一緒に食べるんだから。はい」
香織はまだあーんし足りない様子。今度はチュロスが差し出されている。さっきよりレベルが高いような、そうでも無いような?
美味しいと感想を言い合いながら、チュロスの食べさせ合いをして、お昼ご飯終了である。
ゴミを捨てて、次のところへと案内しようとしてくれる香織に、手を引かれてその場を後にする。
俺たちの様子を一部始終でも見ていた男たちは、心が折れてしまったようで、ここまで来る時よりも、少しだけ目線が優しい気がした。




