幼なじみ彼女と文化祭 準備編
香織と文化祭を回る約束をして数日が過ぎた。
香織の当日の予定を聞いたり、決めたり。
谷本や青原さんとの待ち合わせについて話したり。
家族に休みの午前中から、家に友達を呼ぶことを話したり。
そんな数日を過ごし、無事に文化祭当日を迎えた。
谷本からの連絡を受けて、朝から駅で2人を待つ。
「おっはー!」
「よう、橋崎」
「朝から元気だな」
合流し、我が家へと歩いていく。
「それにしてもさ、私たちが言ってといてなんだけど、よく朝からお許しが出たね」
「それは家族に感謝だよ。けどまぁ、両親も妹もいるから、程々にしてくれな」
「失礼な。ちゃんと分かってるぞ」
そんな事を話しているうちに、家に着いた。
「ただいま」
「「お邪魔します〜」」
俺たちの声に反応して、家族がやってきた。
「いらっしゃい。あら、女の子もいるのね?」
「ほんとだ。まさかお兄ちゃんに香織お姉ちゃん以外の女の人の知り合いがいるなんて……」
美咲が失礼な反応をしているけど、ツッコミ入れるのもめんどくさいので、無視して2人を紹介する。
「こっちが話したことある、谷本大智くんだ」
「どうも、お世話されてます。谷本です。朝早くからすみません。よろしければ、こちら、どうぞ」
「あら、どうもご丁寧にありがとう。こちらこそお世話になってます」
なんか谷本の言ってることに違和感があったけど、次だ。
「そんでそちらが」
「青原桃と言います。橋崎くんとは2年生になってから知り合って、香織ちゃんとも仲良くさせてもらってます」
「そうなのね〜。それはそれは、お世話になったでしょう?」
たったそれだけの言葉で、母さんは俺が色々相談してたことを察したらしい。話がややこしくなる前に、切り上げさせる。
「ほら、時間ないし、入った入った」
「改めて、お邪魔します」
「「ゆっくりしていってね〜」」
美咲と母さんから、どこかで聞き覚えがある定型文を受け取って、部屋へ向かう。
「へぇ〜、ここが橋崎の部屋か」
「あんま物色すんなよ」
「しないしない。それで、言ってたのは用意した?」
事前に、鏡やらテーブルやらを用意しておいてと、2人から言われていたのだ。
「あぁ、ちゃんとあるだろ?」
「申し分なし。谷本くん。持ってきた?」
「あぁ、あるよ。そんじゃ、始めるから、まずは座ってろ。見て覚えろよ?」
「わ、わかった」
そう答えると、谷本と青原さんはテキパキとカバンから様々なものを取り出して、テーブルに並べ、準備を整える。
「俺が眉の整え方を教える。今度から道具は貸してやるから、ちょっと見てろ」
谷本は器用に、俺に見えるように工夫しながら、自分の眉を整える。あっという間に周りが綺麗になり、長さが整えられる。
「これだけで清潔感とか、印象が変わる。校則じゃ眉剃りダメってなってるけど、社会に出たら、むしろ整えてないとマナー違反って言われることもあるし、この程度なら大丈夫だ。ほら、やってみ」
谷本にああだこうだと言われながら、谷本の真似をしつつ、眉を整える。
「まぁ及第点だろ。ちょっと貸してみ。仕上げだ」
谷本はササッと少し歪な所を無くしていく。
「おけ、次だ」
「はいはい、メガネ外して、コンタクトにしよっか」
「お、おう」
谷本から青原さんにバトンが渡され、青原さんが指示役になった。
「コンタクト入れるのが怖いのは凄くわかるけど、こればっかりは慣れるしかないよ。はいこれ」
「なんだ、これ?」
「コンタクト入れるのを補助してくれる道具。こうやって使うの」
青原さんは俺の目にそれを当てて、使い方を示してくれる。
「はい、頑張って!」
「わ、わかった」
ここまでお膳立てされて、逃げてばっかりもいられない。震える手を抑えつつ、何とかコンタクトを入れた。
「うぅ、相変わらず変な感じだなぁ」
「よく頑張りました。うーん、やっぱりメガネ焼けしてるね。ちょっとじっとしてて」
俺の顔を見て、青原さんはそういうと、カバンからお化粧道具と思われるものを取り出し、俺の顔につけ始める。
「安心してね、メガネ焼けが目立たないように、ちょっと隠すだけだから」
「う、うん。了解」
青原さんも手際よく、けれど慎重に、手を動かし続けて、直ぐにメガネのあとが分からなくなった。
「はい、完成。うん、いい感じだね」
「おっ、やっぱメガネからコンタクトにするだけで印象全然違うな」
「俺は違和感がすごいぞ」
メガネをかけている時間の方が長いのだから、当たり前ではある。
「よし、それじゃ行くか」
「もう出るのか?香織との待ち合わせは昼だし、まだ大丈夫だろ?」
「まだまだ、行かなきゃ行けないところがあるから。行くよ」
有無を言わさぬ様子の2人に引っ張られ、準備していた荷物を持って家を出る。
「もう出かけるの?行ってらっしゃい」
「ありがとうございます。また遊びに来させてください」
「妹ちゃんも、今度は遊ぼうね」
挨拶を済ませ、駅へと向かって歩いていく。
「それで、行くところって?」
「いわゆる、ヘアサロンだな。俺の行ってるとこでもいいんだけど、ここからだと遠いんだ」
「そういうわけで、私の行きつけを紹介してあげる」
「何から何まで、ありがとな」
「「橋崎 (くん)は知らなすぎなんだよ」」
2人に言われ、自覚はあったものの、もう少しこだわって行くべきだと再認識する。
電車に揺られること数分、電車を降りて、美容室へと向かって歩いていく。
「こんにちは〜」
「いらっしゃいませ〜。おや、桃ちゃんじゃないか。最近来たばかりだろう?」
「前話してた人を連れてきました。この人の彼女が驚くくらい、かっこよくしてやってください」
そう青原さんが話すと、店員さんは俺を見て話す。
「OK。それじゃ、こちらに来ていただけるかな?」
「分かりました」
「行ってら〜」
店員さんに連れられ、俺と青原さんはお店の奥へと向かう。
少し打ち合わせのような話を店員さんを含めて3人で話したあと、青原さんは待合室的なところに戻って行った。
その後は、俺自身のことやら、青原さんとの関係やら、香織のことやらの話をしているうちに、テキパキと髪にハサミが入っていき、シャンプーをして、髪がセットされた。
「どうでしょうか」
店員さんは鏡を持ってそう聞いてくるが、自分で似合ってるのかどうか、分からなかった。
普段目元を隠すかどうかくらいの前髪は上の方でセットされてるし。
なんせ今まで髪をセットしたことないから、正解が分からないし、似合ってる髪型も分かってないからな。
そこまで考えて、自分が情けなくなりつつも、店員さんを信じて「いい感じです」と答え、 2人のところへ戻る。
「おかえり。いい感じじゃん」
「うんうん。橋崎くんらしさは残ってるけど、イメチェンは完了だね。いいバランス」
「2人がそういうなら大丈夫か」
店員さんと青原さんにお礼を言って、お店を出る。
「それじゃお待ちかねの、文化祭に行きますか!」
「いこー、いこー!」
楽しそうに歩き出す2人に感謝しつつ、2人と一緒に駅に戻って行った。




