友人と文化祭の約束
いつもの電車に乗り遅れかけたものの、何とか乗り込み、遅刻せずに学校に到着した。
特に特別なこともなく、授業を受け続け、昼休憩となった。
「橋崎〜」
「今行くよ」
「今日は私もお邪魔しよっかな」
谷本とは、夏休み前からお昼を一緒に食べることも多かったが、佐々木や青原さん、たまに和田さんとも一緒に過ごすようになった。
今日は谷本と青原さんの2人と一緒にお昼だ。
もはや恒例となりつつある、中庭のベンチへと向かう。
今日のお昼ご飯のお供となる話題は、前に相談したこともあって、俺の誕生日のことになった。
「それで、愛しの彼女からは祝って貰えたか?」
「めっちゃ祝って貰ったよ。2人の言ってたように、色々準備してくれてたし、悩んでくれてた」
「よかったねぇ」
2人から色々聞かれては冷やかされる。まぁ、ちゃんと一線引いてくれているから、嫌な気分ではない。
「そうそう、香織のご両親との合同旅行はどうだったのさ」
「旅行って言ってもバーベキューしただけだけどな。面白かったよ。楽しかった」
「へぇー、順調なことで」
その調子で、俺と香織の話が続いていくので、また、相談を持ちかけてみる。
「それが、他のとこで引っかかることがあったみたいで、香織から相談されたことがあって」
「ふむ、また私たちの出番、と?」
「出来れば2人に相談に乗って欲しい」
「仕方ないな。話してみたまえ」
「ありがたき幸せ」
ちょっと合わせてみたものの、なんのキャラだよ。
そうツッコミながらも、朝香織と話したことを、簡単に2人に話す。
「なるほどなぁ。俺も特定の相手がいる人にアタックかけるやつの気持ちはわからんけど、中村さんの言う通り、一緒に文化祭回るしかないんじゃね?」
「私もそう思うな〜。女子の方も含めて」
「そうだよな。俺もそこには異論ないんだけど」
俺は水筒のお茶を口に含んで潤しつつ、話を続ける。
「そういう奴らって、香織に相手がいることを自分の目で確認したとして、止まるか?」
だいたい、正真正銘、付き合ってる相手とはいえ、当日、香織の隣にいるのは、ひょろっとした特に印象のない男なわけで。
「女子の方は、多分高嶺の花的なポジションの香織ちゃんが女の子してるとこ見てキャーキャーしたいだけだと思うから、解決しそうだけど」
「確かに、男の方はなぁ。諦め悪いやつは諦めないし、逆に燃え始めるやつもいるし。理解出来ん」
「こう、香織に悪い虫が寄ってこないようにする方法とかないかな?」
そう聞くと、2人は考え込む。
「うーん、どうしてもゼロにはならないと思うぞ」
「少しでも減らしたいなら、絶対あの2人には敵わない!みたいな雰囲気出すしかないんじゃない?」
「……どういうことだ?」
「分かりやすくいえば、香織ちゃんの隣にいるのが、ムキムキの大男だったら、どう思う?」
「そりゃ、中村さんに近づこうもんなら、身体がどうなるかわかったもんじゃないな!」
青原さんの話を聞いて、ツボに入ったのかゲラゲラと笑う谷本。
「でも、それ俺じゃどう考えても無理だろ」
「ムキムキの大男は無理だろうね。ただ、他にも案はあるでしょ」
「そうだな。筋力的に諦めさせるのが無理なら、別の手札を切ればいい」
そう言って、俺の方を見る2人。
「な、なんだ?俺は何させられるんだ?」
「人聞きが悪いな〜。要するに、橋崎くんが、できる限りの努力をしてかっこよくなって」
「中村さんと仲良いとこをアピールすれば、ちょっとはマシになるんじゃないかってことだな」
「谷本の言うことは何となく分かるけど……。青原さんの言うみたいに上手くいくとは思えないんだけど」
俺も香織の隣に立って、恥ずかしくないような男になろうと筋トレとかを始めた訳だが、まだまだだし。
「なぁ、橋崎。お前、ワックスとか使って、まともに髪セットしたことあるか?」
「ない、けど」
「橋崎くん。コンタクト、家にある?今、ちょっとメガネ外してみてよ」
「コンタクトは、一応あるけど……?」
そう答えながら、メガネを外すと、谷本と青原さんはは立ち上がり、俺の後ろと正面に立ち、前髪を触り始める。
「えっと、2人とも?」
「うん。素材はいいし、ちゃんと整えれば」
「ああ、垢抜けさせれば……」
何やら話しているけど、その意図が掴みきれない。
引き続き、2人で話したあと、谷本が話し始める。
「うし、中村さんのとこの文化祭、今週末だったよな?」
「えっ、そうだけど」
「それ、私達も行っていい?もちろん、私たちと合流するのは、香織ちゃんのお願いを果たしたあとでいいからね」
「そりゃ、みんなで回るのも楽しいだろうし、多分、香織も喜ぶと思うけど」
突然の展開に、戸惑いつつも、何とか答える。
「よっしゃ、そしたら次だな。橋崎、俺たち、橋崎の家に遊びに行ってもいいか?」
「突然だな!まぁ、2人ならいいけど。いつ来るつもりだよ」
「今週末だね。文化祭に行く前」
「へっ?午前中ってことか?」
そう聞くと、2人はなんだか悪い顔をして、答える。
「うん。私たち2人で」
「橋崎をイメチェンさせてやる」




