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第53話  三人の宣教師1

織田家による御馬揃えを見ていたのは日本人、ジャポネーゼの黒い瞳だけではない。

鮮やかな青、淡い褐色、そして深沈とした灰色の三つの色の瞳があった。

「どうです、猛々しく見事な軍勢でしょう」

淡い褐色の瞳の小太りの男が言った。

「……」

話しかけられた灰色の瞳の長身の男は答えなかった。

いかにも複雑な思いを抱いているであろう厳格な表情で織田家の荒ぶる武者達を見つめていたが、すぐに小太りの男に視線を移し、眉間にしわを寄せた。

「その恰好は何とかならないのですか、オルガンティノ殿。唯一絶対の神の威光を広めるを崇高な使命を帯びたイエズス会士たる者が、汚らわしいボウズの格好をするなどと……」

上役らしい長身の宣教師から叱責を浴び、墨染の衣を纏ったオルガンティノは恐縮しつつも、弁解を試みた。

「この格好をした方がジャポネーゼ達の信頼を得て布教しやすいのですよ。それに今日は天皇と公家がお見えになっておられるのです。この国の伝統的な服をまとって参列するのが礼儀というものですよ、ヴァリニャーノ師」

「天皇。この国におけるインペラートルですか」

ヴァリニャーノと呼ばれた宣教師は天皇が観覧しているという内裏に視線を向けた。

「確か、この国の主神であるアマテラスという神の血を引いているとか。そのような神話より続く男系の王朝がこの地上に存在するとは……」

この話を聞いた時のアレッサンドロ・ヴァリニャーノの衝撃は小さなものではなかった。

まさに奇蹟というしかない。これをヨーロッパに例えるなら、軍神マルスの血を引くというローマの建国者ロムルスの男系の血統が途絶えることなく現在でもヴァリニャーノとオルガンティノの祖国であるイタリーに君臨しているというようなものだからである。

このような古から続く神聖な王朝が他に存在するとは到底思えない。

「所詮権威だけの存在に過ぎませんよ。軍隊も所有せず、ノブナガ殿の援助がなければ儀式を行うことも出来ないような有様だったとのことです」

青い瞳の宣教師が嘲笑を露わにしながら言った。

「それにアマテラスとは女神とのことです。唯一絶対のデウス以外の邪神を崇めていることすら嘆かわしいというのに、よりにもよって女神を主神と崇めるとは世界の各地で未だ残されている多神崇拝の中でも最も愚かしいと言わざるを得ないでしょう」

「フロイス殿、どうかそのへんで……」

オルガンティノは慌てて宣教師ルイス・フロイスを制止した。

彼らの会話はラテン語で行われている為ほとんどのジャポネーゼ達に理解出来ないはずである。

しかしキリスト教カトリックに改宗した者の中にはラテン語を学んでいる者もいる為、用心せねばならない。

万一にも天皇とこの国の神々を罵倒したことが発覚すれば、間違いなく命は無いだろう。

特にノブナガが何かと目をかけている宣教師ルイスフロイスが本音ではこの国の伝統的信仰と最高権威である天皇を蔑んでいると知ればどれ程激高するか。

(想像するだに恐ろしい……)

オルガンティノは震え上がった。

ルイスフロイスの来日はオルガンティノよりも先でこの三人の中で最も長い時間ジャッポーネで過ごしており、また最も多くノブナガに謁見しているので当然ノブナガの伝統を重んじる姿勢、そして容赦のない苛烈な面を良く知っているはずである。

それなのにこのような放言をするとは

(それほどこのフロイス師の多神教信仰への憎悪は激しいということなのだろう)

このキリスト教カトリック、唯一絶対の神への厳格なまでの信仰はやはり見習わねばとオルガンティノは襟を正す思いであった。

「ヴァリニャーノ師、九州での布教はどうでしたか?」

フロイスが去年来日したばかりのヴァリニャーノに尋ねた。

「彼の地の諸侯、そうダイミョーというのでしたね。幾人かがカトリックに改宗したしましたよ。豊後の王、大友宗麟。肥前の有馬晴信。同じく肥前の大村 純忠……」

「おお、それは素晴らしい!」

オルガンティノとフロイスは目を輝かせて喜びを露わにした。

「いや、大変でしたよ」

ヴァリニャーノは苦笑を浮かべた。

アレッサンドロ・ヴァリニャーノは四十歳を過ぎたばかりだが、禁欲を貫く質素な生活と慣れぬ異国での過酷な伝道での労苦で顔には皺が刻まれ、その髪は白い物が多く混ざっている。

しかし若い頃は絶世の美男子と騒がれ、大いに浮名を流していたとオルガンティノは聞いたことがあった。

成程、それは決して大げさな話ではないだろうとヴァリニャーノの初老を迎えてもなお端麗さを留める顔貌を見ながら思った。

「何せ先に九州で布教活動をしていたフランシスコ・カブラル師がジャポネーゼの資質を認めず、誤った方針を取っていました。その為我らイエズス会士は日本人信徒から大いに疑われ、深い溝が出来てしまっていたのです」

「カブラル師ですか」

オルガンティノはその名を呼ぶときは抑えようとしても抑えきれない怒りと嫌悪が湧き出てくる

「あの御仁の頑迷さ、ヨーロッパ人以外の人種を蔑み見下す差別心の強さはどうにもなりません。何故なのような人が日本布教区責任者となってしまったのか」

オルガンティノの深刻な怒りと軽蔑がこもった言葉を聞き、ヴァリニャーノは深いため息をついた。

賛同の言葉こそ口にはしなかったが、彼も同様の思いであることは明白であった。


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