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第52話  京都御馬揃え

「左義長を再び行うというのは余りに芸がありませんな」

光秀は主君の命令に対して異を唱えた。

蘭丸は思わず思わずその形の良い整えられた眉を吊り上げたが、ノブナガは怒った様子は無い。

むしろ興味深いと言った表情を浮かべた。

「ほう、そうか?」

「ええ、所詮あれは下賤の者共を楽しませる為の代物。神々の血を引く高貴な方々に見せるものではありませぬ」

光秀は一見、朝廷の神聖性を重んじるかのような発言をした。

しかし腹の底ではこの国の神々もその血を引く天皇にも何ら敬意を抱いていないであろうことを蘭丸は確信した。

「ではどうするのだ?帝を喜ばせるにはどうすればよい?」

「そうですな。織田軍の天を震わす程の武威を示し、愚かにも未だ天下静謐を拒む不遜極まる諸大名共の心胆を寒からしめる為に、いっそ大規模な馬ぞろえを行ってみてはいかがでしょう。上様の武勇に心底惚れられている御様子の帝もさぞや御喜びになるのではないですかな?」

「おお、それは良いな!」

ノブナガは光秀の提案に会心の笑みを浮かべた。

「うむ、やろうぞ。十兵衛、引き続きお前が差配せよ。必ずや先の左義長を超える盛大なものに致せ。そうだ、近衛前久(このえ さきひさ)ら馬術に通じた公家にも参加を許そう。蘭丸、お前も十兵衛の手伝いをせよ」

「我が日の本開闢以来のものとし、唐、高麗の者達の耳にも達する行事にいたさねばなりませぬな。のう、蘭丸殿」

十兵衛は好意に満ちた表情で蘭丸を見た。

蘭丸は内心怖気を振るったが、意志を振るって平静さを装い深々と頭を下げた。


光秀は大言壮語に恥じぬ仕事をやり遂げた。

綺羅星の如き織田軍の勇将達が厳選された名馬に跨り、禁裏の東門外を堂々と行進する。

嫡男であり、織田家の当主である信忠、その弟であり北畠家を継いだ信雄、神戸家を継いだ信孝らを筆頭とした御連枝集も勇壮にして美麗であったが明智光秀、柴田勝家、丹羽長秀ら織田家の最高司令官達がそれぞれ側近、与力らを引き連れての行進が特に見ものであった。

日の本最強の勇者達、百戦を制し万を超える敵を屠って来た彼らの威容はまさに天を穿つ程であり、彼らが武器をかざして突進し、馬蹄を轟かせれば唐、高麗、さらには天竺までも容易く斬り従えるのではないかと見守る人々は思ったことだろう。

そして公家衆が続いた。無論彼らから武威が発せられることはなかったが、その装束といい、馬の進め方といい、優雅にして端麗の極致故雄壮な武士達と対照さが際立って、見事な美を生み出していた。

禁裏の東門付近に設営された行宮にて観覧された今上の帝、正親町天皇は金紗を身にまとい、ビロードの椅子に座った信長を見て大いに喜び、

「唐国にもこのようなことはないでしょう」

と言ったという。

室町幕府発足以来、代々の将軍による冷遇によって財政が逼迫し天皇家の権威も地に落ちていたが、ノブナガの援助によって回復し、その返礼として勅令を出してノブナガの危機を幾度も救って来た。

事実、浅井家、朝倉家との戦い、足利義昭との戦い、本願寺との戦いで不利に陥ったノブナガは

正親町天皇が助け舟を出さねば滅んでいたかも知れないのである。

まさにノブナガと正親町天皇はこの乱世を終わらせ、天下に静謐をもたらすという崇高な理念で固く結ばれた主従であり、唯一無二の同志なのであった。


こうして天正9年、キリスト紀元1581年2月28日に行われた京都御馬揃えは大成功に終わった。

馬揃えに参加した武将は約七百名、見物人は約二十万人にも達したという。

まさに前例の無い大行事であった。

ノブナガも正親町天皇も悲願である天下静謐が招来する日はそう遠くないと確信したことだろう。




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