隣に
彼女は、何もかも完璧だった。テストの成績は常にトップ。運動もできて、陸上部のエース。絵とか字とかも上手くて、しょっちゅう表彰されてる。おまけに顔も可愛い。それに比べて私は…。
何もかも、中途半端だ。別に苦手ってわけじゃない。でも、人に自慢できるような特技なんてない。精一杯頑張りたいと思えるものもない。ただ、与えられたノルマを淡々とこなすだけの人生。本当に、ただ、生きてるだけ。…そんな自分が、嫌いだ。
友達だってそんなにいない。そもそも、友達と呼べる人などいないような気さえする。いるとしたら…そう、彼女だ。そして、それは彼女にとっても同じかもしれなかった。
彼女とは家が近く、いわゆる幼馴染というやつだが、彼女が私以外の人間と絡んでいるところをほとんど見たことがない。話しかけられたら一応は答えているようだが、自分から人の輪に入るようなことはしない。常に一人で過ごしている。そして…いつの間にか、私の隣にいる。…私はそれが、嫌だった。
ただでさえ何もない自分が嫌いなのに、何でもできる彼女が隣にいると、ますます劣等感を覚える。そして、そんな醜い感情を抱く自分が、ますます嫌いになる。
そんな私に、彼女より優位に立てるチャンスが訪れた。神から与えられた異能力で、紫に守護され音を操る戦士となり、『こちらの世界』と異世界との均衡を保つ手助けをする…。ようやく、私にしかできないことが見つかった。……そう、思ったのに。
彼女もまた、戦士となった。藍色に守護され影を操る戦士に。しかも、初変身で苦戦した私に対し、彼女は最初から抜群の戦闘センスを披露している。…なんで…なんでなんでなんで!!!!
「…これで、戦える。音緒と、一緒に。」
「なんでよ!!」
「…音緒?」
「なんで影美まで戦士になったのよ!せっかく、私が勝てるものできたと思ったのに…。なんで…ねえなんで?!」
「音緒と、いたかった。ただ、それだけ。」
「はあ?何それ意味分かんない。」
「音緒が、好き。音緒も、私、好き。」
「勝手なこと言わないでよ!私はあんたなんか…」
「嘘。」
「う、嘘じゃないわよ!っていうか、あんた本当に嘘とか思ってないでしょ。適当に言ってるだけでしょ!どうせ…どうせ…」
…好きなわけないじゃん。あんたが、私のことなんて。だって…好きになる要素なんて、何もないじゃん…!
「適当、言わない。音緒、見てくれる。ちゃんとした、私。だから、好き。だから、私も、見る。だから、分かる。」
「……え?」
「他の人、すごい、だけ言う。音緒、違う。私、罵倒する。」
「それは、単に悔しいからで…てか、私も影美のこと天才とか言ってるし…」
「それだけじゃ、ない。音緒、言う。私、頑張ってるって。」
「だって、あんたが両親に強いられていろいろやってるの知ってるし…さすがに、何もやらずにあそこまでは…」
「あと、挑む。音緒、私に。」
「…それは、その…」
「私と、いたいから。違う?」
「……」
…違わない。そうだよ。あんたの隣にいたいんだよ。でも、私にはそんな資格なくて、恥ずかしくて、だから、離れたくて。だけど本当は、堂々とあんたの隣に立てるようになりたかった。でも結局追いつけなくて、頑張りきれなくて。それでも…それでも。
「…影美と、いたいよ…」
「なら、いればいい。」
「でも!私何もないのに?」
「私を、好きな気持ち。それで、十分。」
「!…ど、努力とかも、しないのに…」
「音緒、分かってないだけ。何、頑張ればいいか。頑張れること、探してる。今は、それでいい。」
「…」
「納得したら、帰る。もう、遅い。」
「ちょ…待ってよ!まだ…」
「…追いかけて、きて。」
…まったく。わかったよ。わかんないけど。でも、もう変にうじうじしたりしない。あんたがいいって言うなら、私はあんたを追いかけ続ける。そしていつか、あんたの隣にいても恥ずかしくないように。あんたが好きだと言ってくれた私を、私自身が好きになれるように。私は、私を、諦めない…!