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一話

「お帰りなさいませ。チェックインでございますか?」


 間接照明を用いたフロントで男性スタッフの声が、静かに響く。


「では、こちらにお名前、ご住所…」とペンを手渡し淡々と進めていく。

 客は部屋のキーを受け取ると、向かいにあるエレベーターに乗り込む。


「ふ〜、これで全部だな、当日キャンセルがなくて、良かったよ。」

「本当ですね!これで、満室ですよ!」と、もうひとりのスタッフが言う。




 そんな時に、電話が鳴る。

 電話のベルが2回なるまでに取るのが常識なのだが、今回は3回目で取ってしまった。


「お待たせいたしました、陽光ホテルでございます。」

 当日予約なのであろう、電話の応対でわかった。


「申し訳御座いません、あいにく当ホテルは満室を頂いております。」

「はい…申し訳御座いません…」


「どうした?」

「常連の田中様です。何で空いてないんだと、お怒りで…」

「電話を代わってくれ。」

「もしもし、田中様、いつもご利用ありがとうございます。私、支配人の佐藤でございます。」

「はい、先程申し上げました通り、本日は満室を頂いておりまして…はい。」


「それでは当館と同じ位、いえ、それ以上のホテルを手配いたしますがどうでしようか?もちろん、お代は当館の料金のままで、それ以上の料金は当館がお支払いいたしますので…」


「はい、それでは、直ちに手配いたしますので、少々お待ちいただけますでしょうか?もちろん当館にお越しいただければ、タクシー代も当館がお支払いいたします。」


 電話を切った。


「支配人、そんな事をしていいんですか?」

「構わないさ。田中様はそれ以上の利用をいつもしてくださる。常連を逃す訳にはいかないからね。」

「でも、今回は特別ですよと釘を刺さないとね。」



 ホテル業務は利益もさることながら、「稼働率」を重視する。

 チェーン展開しているホテルグループなんかは、月に一度の定例会で成績が悪いと他の支配人からバカにされるのもあるし、上司への印象も悪い。


 支配人と言えども「中間管理職」なのだ。


 だから、たまに旅行サイトを見ると、極端に安い料金で予約できるのは、その為がほとんどだ。

 とは言え、安い料金でも、しっかりと利益は出すのだが…


「近くのホテルを当たれ!電話しまくれ!」と忙しくなる。

 当館が満室と言う事は、他ホテルも満室の可能性が高いからだ!


「こちら陽光ホテルでございます、お世話になっております。こちらのお客様をお送りたいのですが、空室ありますか?…ああ、そうですか…またよろしくお願いいたします。」


 なかなか空室のあるホテルが見つからない。


 そうこうするうちに、田中様が到着した。


 ここは、奥の手を出すしかない。


「お帰りなさいませ、田中様。ちょうど当日キャンセルが出まして、スイートルームをご用意させて頂きました。もちろん、お代はシングル料金で結構です。」


 一泊20万円超えの部屋を使うのは、赤字で勿体ないが、ここは常連客を取るしかないだろう…他のホテルも空いてないし。


 上機嫌の田中様がエレベーターに乗るまで頭を下げ、一息、「勿体ないなぁ。」と本音が出てしまった。

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