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宇宙怪獣vsVtuber ~地球最後の日に貴方は何をしますか? 答え:Vtuberの配信を見る~  作者: 桂かすが


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第31話 お引っ越し

 警察との会談、そしてルジアン連邦諜報部との接触。どちらもモコスの想定内……願った通り、良心回路はまったく反応しなかった。警察へは銀河連盟の高度な技術を用いた情報提供。そしてルジアン連邦とはこれも銀河連盟の技術を使った直接的な武力行使。重要なのは銀河連盟のテクノロジーを流出させないこと、また機器類を見せないことだろうとモコスは当たりをつけていた。モコスのボディも外装は偽装しているが内部は銀河連盟の技術の塊である。気絶の演技中に体を調べられそうになった時はヒヤリとしたが、これでできることの幅は拡がる。だが今後の話よりまずは引っ越し。モコスは今現在借りている古びたアパートの上空まで戻ってきた。


 ルジアン連邦の手の者がモコスの住居を監視、撮影を続行していた。まだ大使館からの連絡が来てないのか、それともこんなことがあってなお監視を続行して何かするつもりなのか。モコスとしては地球人が何をしてこようと平気なのだが、核攻撃されたり銃で撃たれたりするのはさすがに気分が良くないし、ご近所さんを核爆発に巻き込んだりするのも近所迷惑過ぎると思うのだ。


 警察の用意してくれた引っ越し先は都内から離れた別荘地で、万が一核攻撃を食らった時でも被害はまだ抑えられる。住所が漏れることはないという浜田たちの言葉は鵜呑みにはできない。モコスが調べたところ警察との繋がりは明々白々だ。いずれバレるという前提で動く必要があるだろう。


 ボスの指示で交易船での仕事をしていたのは今思えばずいぶん楽だった。地上での暮らしは気苦労が多いものだとモコスはため息をつきながら、姿を隠し部屋から荷物を回収する。先ほどの反省から外から見れば扉を開け閉めしてもそのままに見えるよう偽映像を投影しての偽装もした。映像を精査すれば気が付かれるかもしれないが、夜であるし地球人の記録装置の精度は低い。モコスの能力を把握していなければ、何が起こっているかはわからないだろう。


 モコスが両手に抱えるのはわずかばかりの私物である。パソコンと配信機材、遮音フィールド発生装置。それから数少ない衣類。パソコンを買った時の箱に戻し、機材や衣類をその上に乗せれば引っ越し準備はとりあえず完了である。パソコン用デスクと椅子は残ったが、さすがに自分一人で机や椅子まで運ぶのは面倒すぎた。必要なら後で取りに来るか買い直すこととしてモコスはさっさと移動することにした。


 新居は都内からは外れた交通の便の悪い場所にあるが、一軒家だし海に近い。連絡艇は海底に沈めてあるからむしろ便利になる。モコスが本気で移動すれば速度は音速の数倍にも達する。都内に用事があったとしても不便はない。

 

 空を移動しほどなくモコスは目的地に到着する。二階建ての3LDK。築一〇年ほどらしく、以前のアパートとは段違いに真新しい。家の周囲は柵で囲ってあり、庭にはたくさんの木や草が生い茂っている。建物は自然のままの植物や鉱物で多くが構成されており、相変わらず地球の家は脆そうだとモコスは思う。


 鍵を勝手に開けて公安のセーフハウス、その二階の机と椅子が置いてあった部屋を配信部屋と決めてモコスは機材を設置した。他の部屋にはソファーにテレビ、冷蔵庫に電子レンジ。調理器具や食器類も揃えてある。電気と水道は通じている。ネットワーク回線はないが、勝手にネットワークに入り込んでいるモコスには不要である。

 遮音フィールド発生装置、家の周辺の監視装置。それから防御フィールド発生装置も後ほど設置することにする。そんなもの無くても危険はないとリスナーたちは言っていたが、現にモコスは誘拐されたし、銃でも撃たれたし、放置していれば核攻撃も食らったかもしれないのだ。防御はやはり重要だった。

 今後は誘拐犯は家には入れないし、核攻撃を食らっても安心なようにするのだ。


 浜田氏に引っ越しが完了した旨の連絡を入れる。元のアパートは維持する。モコスの立ち上げた会社の住所にしてあるし、郵便物の宛先にもそのまま設定しておく。ルジアン連邦の動きが不明瞭なうちは、隠れ家である新居はなるべく秘匿しておこうとモコスは決めた。


 パソコンを起動し、動作とネットワークへの接続を確認。雑談配信とだけ書いた配信枠を立て、すぐに配信を始めた。モコスは少し話したい気分だったのだ。

 深夜の突発配信である。それでも徐々に集まってきたリスナーが挨拶をするのに気分を良くしながらモコスも挨拶をする。


「夜分遅くにこんばんにゃ! 宇宙人系地球救済委員会委員長モコス・イクシスですにゃ! 今日は少し雑談がしたかったので配信枠を立ててみました」


:こんもこ~

:にゃ!にゃ!

:深夜に配信とか珍しいね

:雑談ってなに話すの?

:初見です~


「初見さんいらっしゃいませ。テロ犯の通報を見て? そんなこともありましたね」


:そんなことってほんの何時間か前の話だろ

:本当にモコスさんが核テロ犯を捕まえたんですか?


「捕まえたのは警察ですよ。私は通報しただけで」


:映像もばっちり残ってるんですが

:あんなモザイクだからけの映像、偽造に決まってる

:◯◯テレビです。詳しい話をお聞きたいのですがお時間を取れないでしょうか?


「映像は警察に渡しましたし、私は通報しただけですので。それに警察の人に、ああいう映像は警察に確認してから出すようにって言われてまして」


:匿名の通報だったけど警察にばれたんだ?

:そりゃ堂々と配信してたからなあ

:切り抜きとかネットニュースにもなってたし


 核テロ犯の逮捕で取材依頼が大量にやってきている。テレビ出演や新聞社の取材に応じれば知名度を上げる手助けにはなるだろうが、配信で話した以上のことはモコスとしても話せないし、どうやって犯人を見つけたのだとか、映像はどうやって撮ったのとか、質問されたところで答えられないことだらけ。メリットも多いがデメリットも多い。

 宇宙怪獣のことを話していいなら出演でも取材でも応じるつもりだが、それは期待薄だろう。テロ犯逮捕の取材でいきなり宇宙怪獣のことを話されても、取材する人も見る人も困惑することくらい、モコスも簡単に予想できる。


「取材の依頼等がたくさん来ておりますが、今のところ応じるつもりはありません」


 そうきっぱりと言っておく。警察の手助けをして目立つのはモコスとしても本意ではないし、そちらにリソース、時間はあまり割きたくない。モコスがしているのは地球全体の救済で、地方政府の治安維持活動は些事に過ぎないのだ。


:残念

:全国ニュースに出ればバズるのに

:それより今日は声が違うね?いつもよりエコーがきついかな。機材か配信部屋を変えました?


「おお、鋭いですね。実は引っ越しました」


 安全面を考えると引っ越しは秘密にしておくべきだったが、元の部屋に居ないことはすぐにわかるだろうし、そもそも誘拐されてそのまま住むというのも地球人的には違和感がありそうだ。すぐにどこかに引っ越すというのは妥当な行為だろうし、引っ越したこと自体は話しても問題ないだろうとのモコスの判断である。

 それに引っ越しというのは配信でのいい雑談ネタになるのだ。


「エコー、反響ですか。確かに壁に当たって戻ってきた音をマイクが拾ってますね」


 エコー音というやつだ。些細な音であるが、雑音以上に配信の邪魔な音となることもモコスも知識としては知ってはいた。


「音の反射を押さえればいいんですね」


 遮音フィールド発生装置を操作して、部屋の壁からの反響を消してみる。適当に声を出して、反響が消えたのをモコスは確認する。


:エコーは消えたけど、まったくないと今度は音が硬いかも。少しはエコーがあったほうが自然な声になるんですよ

:Neo-T先生なにしてるんですか……


 エコーの指摘をした有識者リスナーNeo-Tがそう言う。音楽家だけあって耳は特別いいらしい。

 遮音フィールドでは反響率は変えることはできない。モコスは少し考え、遮音フィールドの形状を変えてみた。フィールドを天井の外にはみ出させ、天井からだけ反響があるようにしてみる。


「あー、あー、あー。これでどうですか?」


:もう少し弱いほうがいいかもしれません

:これってNeo-T先生のアカウント?

:本物?

:Neo-T先生はメンバーシップも入っているガチリスナーやぞ

:楽曲提供もしてるし


 前の部屋での配信を呼び出し、エコーの影響をチェック。声を出しながら同レベルになるまで遮音フィールドを調節していく。天井部分を半分にし、壁を少し露出させたところでほぼ同等になったことをモコスは確認した。


:前と同じくらいになりましたね


「Neo-T先生、ありがとうございました。それで引っ越しの話ですね。ここは海の見えるいい感じの別荘なんですよ」


 実際のところ海は近いが見えることはない。モコスが空を飛んで初めて見えるくらいだ。別荘の位置は隠れ家だけあって幹線道路から外れた林の奥まった分かりにくい場所にある。


:いつの間に

:なんでまた急に

:別荘って言ってるし部屋が広くなったのかな


「ちょっとした隣人トラブルがありまして、ええ。全然大したこともないんですが、心配した知り合いが手持ちの家を提供してくれまして、急遽そこに引っ越すことにしたんです」


:モコスたんに知り合いなんか居たのか

:テロ解決の後にってこと?

:ちょっとしたって、本当にちょっとなんか!?


「地球人なら大変だったかもしれませんが、私に銃は通用しませんから」


:銃!?

:隣人トラブルで銃って何?

:モコスさん、ちょっと!?


 映像は出すなと言われたが、配信で話すなとモコスは言われてないのだ。


「詳しくは……あー、そうですね。まだ未解決の部分もあるので、詳細は話せないんですが、三人の大柄な外国人に誘拐されて、銃で撃たれました」


:いやいやいや。全然隣人トラブルじゃないぞ

:ええええええええええ

:何に巻き込まれてるんだ

:テロ犯に仲間が居たのか?

:配信してるってことは無事なんだろうけど

:部屋着で月面に出るような宇宙人に銃とか通用しないんや


「それでですね、今後は核攻撃でも防げる防御システムと早期警戒網も構築して、先制攻撃だけはされないように備えようと思ってるんです」


:銃とか核とか本当にそれってもう隣人トラブルじゃない件

:どっかの国と戦争でもするんか


「実際、隣人は核を持っていてこちらへ向けていますし、日本では違法のはずの銃を持っている人はたくさん居ますよね?」


:そりゃそうだけど

:隣人って隣国じゃねーか

:ローハン帝国とトラブったの?

:ルジアン連邦じゃない?

:核所持なら大穴で在日米軍とか


 そこにメッセージアプリで浜田氏から通話が来たので、モコスは音声が配信に乗らないよう、裏で繋いだ。浜田氏の切迫した声がメッセージアプリから発せられる。


「ダメ? 言っちゃダメってもう言いましたよ? 適当に誤魔化してくれ?」


:誰かと通話か?

:せめてミュートにして差し上げろ

:警察か?


「えー、ただいま某所から連絡が入りまして、その件は話すな、適当に誤魔化せと言われましたので、えー、今の話は配信のネタであり、創作であることを一応言っておきまーす。これでいいですか?」


 もう手遅れなのに、そう思いながらモコスは要望に応えるだけ応えてみた。


:やる気ねえな

:もうそれでいいです……

:警察か。大変だな

:宇宙人相手に常識は通用せんのやな


 モコスは腹を立てていたのだ。モコスはこれまで極力地球の法を守り、控えめに行動してきたつもりである。その気遣いをあっさりと無下にされた。地球を救うために色々と苦労をしているのに今回の仕打ちである。

 モコスは地球に一人取り残されたか弱いアンドロイドでしかない。防御システムを追加で装備していたから平気で居られたが、銃で撃たれれば普通にボディに傷はつくし、核攻撃をまともに食らえば生き延びられるか定かではない。海外の勢力に好き放題させている日本の警察も信用に足らない。警察との契約でモコスが約束したのは情報提供のみ。命令に従う理由はない。


「誘拐から脱出まで全部しっかり撮影してあるのに使うなって言うんですよ。せめて配信ネタにしたっていいですよね」


:撮ってあるの!?見たい見たい!

:警察がダメって言ったんだろ

:モザイクありならいけるいける

:また変な嘘ついてるぞ、こいつ


「残念ですがこれは見せないって約束しましたから」


:残念

:ほらやっぱり嘘だ


 静かだったSNSの通知がまた騒がしくなってきた。新たな取材申し込みである。


「取材等は応じるつもりはないので、連絡しても返信はしません」


:フェイク動画なのにみんな釣られすぎ

:確かに今の話は荒唐無稽すぎるけど……

:証拠はないけどワイは信じとるで!


「そこで! CGによる再現映像を……ええ? それもダメ? わがままですね。わかりました。私の華麗なアクションはいつかメンバーシップ配信で見せられればいいなと思います。海外での撮影とかもいいですね。私の祖国は銃規制が緩いですし」


:コラボしよう!アメリカでも銃はかなり自由に使えるぞ!


 そう配信に日本語でメッセージを残したのは海外のVtuberのようだ。


「そうそう。それでコラボですね。アメリカ遠征はやるつもりはないですが、まずは普通のコラボを解禁しようかと考えてるんです」


 これまでは地球防衛計画の準備で忙しかったのもあるが、相手側にモコスが宇宙人だとわかった上での接触でも安全は確認された。モコスの登録者数はやっと二十四万人。この短期間で一気に増えたがVtuberの上澄みには一〇〇万人超がゴロゴロと居て、トップは五〇〇万人を超えている。同程度の視聴者数、あるいは格上のVtuberとコラボができれば、相手の視聴者を取り込むことも可能な大変に美味しい企画なのだ。


:<10000円>はいはーい、コラボしましょう!


「銀河そらさんですね。かなり初期からのリスナーですし、前々からお話を頂いていました。ぜひコラボしましょう」


 銀河そらは元々五万人程度の登録者数を持つVtuberであったが、モコスの切り抜き制作、同時視聴を積極的にすることでモコスに引きずられるように視聴者数を倍増の一〇万人に増やした熱心なリスナーでもある。以前からコラボの申し込みがあったし、モコスも声をかけようと考えていた中の一人だった。

 

【銀河そら】:急な話になるんですが、今日のお昼は平気でしょうか?


「ふむ。相談が長くなりそうなら通話してみませんか? 一度配信でやって見たかったんです」


 すぐに銀河そらからSNS経由の連絡が入り通話アプリが繋がる。


「通話が繋がりましたね。では音声を配信に乗せますね」


「あー、あー。声は乗ってますね! こんそら~、銀河の果てからこんにちわ。宇宙に強い……ええい、宇宙系Vtuber銀河そらです!」


:言い淀んだw

:宇宙人を前に宇宙系Vtuberは名乗るのきつかったか


「銀河そらさん、よろしくお願いします。コラボは初なので無作法があればご指摘などお願いします」


「いえいえ、無作法だなんてそんな! モコス様には感謝しているんですよ!」


 登録者数に伸び悩んでいた銀河そらがモコスの勢いに乗って一気に伸びたことの感謝が、銀河そらから語られる。

 

「それで明日……もう今日ですか。お昼の十二時から、北海道スペースポートで民間のロケット打ち上げがあるんですが、その公式の現地実況配信を担当することになりまして、モコス様にはぜひゲスト出演をお願いできないかと思いまして」


 犯罪者逮捕やニンジャアクションではない、完全な宇宙系の企画である。これぞモコスの望む方向性だとモコスは即答した。


「はい、ぜひとも出演させてください!」


 浜田氏もやはり宇宙関連の企画を増やすべきだと言っていた。


「おお、ありがとうございます。配信は十一時から開始しますので、その二時間くらい前に用意してもらえればと考えています」


「集合は北海道スペースポートですか?」


「現地に来られるんですか? 北海道ですよ? モコス様首都圏って言ってましたよね」


 急な前日のお誘いである。銀河そらは今のように通話を繋いでのコラボを想定していたのだが、現地実況と聞いてモコスは当然現地でやるのだろうと考えた。


「場所はわかります」


 そういうことではないのだと思い、銀河そらは説明をする。


「えっと、飛行機を使っても九時の現地入りはたぶん無理じゃないかと……」


 首都圏から早朝便で千歳空港に着いたとしても、スペースポートまで車で三時間はかかる距離だ。もっと近い場所にも空港はあるが、こちらは早朝便がない。配信開始時間にならなんとか間に合うかもしれないが、相当な強行軍となる。


「飛行機は使いません。苦手なんです」


「あー、じゃあ宇宙船で飛んで来られるとか、あはははは」


「宇宙船を使うまでもなく、自力で飛んで行く予定です。首都圏からでも三〇分もかからないと思います」


「お、おう。そうなんですね。空……空を飛んで来るのかあ。でも飛行機は苦手なんですねえ……」


 銀河そらはモコスが宇宙人だというのがわかっていたはずなのに、それでも空を飛んでやって来るのだという現実に頭が追いつかなかった。


「日本に来る時に乗ってきたんですが、もう二度と乗りたくないです」


「あ、日本には普通に飛行機で来たんですね。アール国から?」


 銀河そらは宇宙人も飛行機に乗るのだなとちょっと不思議に思いながらも、配信者としての習性から話を自然に広げる。 


「アール国からフランスに渡って、そこから日本への直行便ですね。四〇〇万円ほどかかりました」


「よっ、四〇〇万ってファーストクラスですか!?」


「地球人と隣合って何時間も座るのは宇宙人とばれるリスクがありましたから」


 アール国籍取得にVtuber配信会社の設立。日本での活動申請の手助けにもかなりの金額を請求された。その上日本までのファーストクラスでの旅費である。日本に渡ってVtuberをするのに十分に用意したとモコスが考えていた資金が一気に溶けた。だからといって法をなるべくなら守りたいモコスは空からの密入国もためらわれたのだ。


「ファーストクラスはほぼ個室で快適だって聞きますもんね」


 その言葉にモコスは嫌そうに首を振る。


:ファーストクラスの何が気に入らんのや

:高所恐怖症……な訳ないか

 

 化学物質を燃やし常に轟音を発するローテクな推進装置に脆そうな機体。搭乗員は何かと食事や飲み物を飲食を一切しないモコスに勧めてくる、地獄のような十二時間だった。よっぽど飛び降りようかと途中で何度も思ったほどだとモコスは語る。


「毛布をかぶってずっとアニメを見てました」


:ジャンボジェットがローテクかあ

:相変わらず地球の技術をディスるじゃん

:せっかくのファーストクラスをもったいない

:何も食べないし飲まないしトイレにも立たないのをスチュワーデスはなんて思っただろうなあ

:モコスたんくらいの子供が怯えた様子でファーストクラスに一人乗る。訳ありすぎる

:訳あり(宇宙人)

:それよりも明日北海道行ければモコスたんに会えるのか!?


「残念! 実況配信は管制室の一角を借りてやる予定なので、一般の見学者は入れない場所でーす。あ、モコス様が現地入りするなら私やスタッフと直接会うことになりますけど……」


「そこは克服しましたので普通に接してもらえれば」


 ルジアン連邦人とはかなり親しく交流した。用心は必要であるが、普通の接触ではもうリスクはないとモコスは判断している。それから簡単な配信の流れを説明してもらう。今回打ち上げるロケットの解説や打ち上げの実況を銀河そらがやるので、モコスは適当に相槌やコメントをしていればいいらしい。


「あとは流れでいい感じに!」


:草

:ええんかそれで

:突発コラボやししゃーない


「モコス様の配信枠なんですが、さすがに広報担当の方も寝ているようなので、明日の朝に取っていいか確認しましょう。いま勢いのあるモコス様ですから、あちらも歓迎すると思います! それから今回は企業案件なので出演料が発生します。半額でこれくらいなのですが……」


 銀河そらがそう言って配信の裏でモコスに金額を見せる。その報酬をモコスに半分譲るということらしい。モコスは稼ぐために配信をしているわけではないし、最近の収益化でVtuberの運営費用や生活費は十分以上に賄える。小惑星から持ち帰った貴金属も連絡艇に積んである。なんならこちらから謝礼を出してもいいくらいだとモコスは考えていた。


「このような企画に参加させてもらうだけでありがたい話です。だから報酬は不要です」


「交通費や宿泊費も含めてなんですが……」


「日帰りですし、交通費はかかりません」


「ああ~ですよね~」


 一応モコスの分の食事の準備だけは頼んでおこう、銀河そらはモコスの行動をあまり深く考えようにしながら明日は早起きなのでと断りを入れ、配信から抜けさせてもらうことにした。


「では明日、お会いできるのを楽しみしています。地球救済委員会の皆様もお邪魔しました~」


「お疲れ様でした。銀河そらさんでしたー」


:わー、ぱちぱちぱちー

:明日のコラボ楽しみ!

:モコスたん、ちゃんとやれんのか?


「銀河そらさんはベテランの配信者ですし、お任せすれば平気だと思います」


:ぶっちゃけ、地球のロケットってどう思う?

:そらローテクノロジーの塊やろ


「良くがんばってるんじゃないですか?」


 銀河そらから送られてきた明日の実況配信の進行台本、ロケットの資料を見ながらそう答える。ロケットの資料には部外秘と書かれている。銀河そらの独断でモコスに送ってきたらしく、企業側に確認が取れるまでは知らないことにしてくれとのことである。


:この上から目線よ

:実際上からやからな

:関係者にそんなこと言ったらあかんぞ?


「創意工夫って言うんですか? 限られた技術とリソースでの挑戦は尊敬できると思います」


:これは褒めてる……のか?


「褒めてますよ。これほど非効率で不完全なシステムで宇宙へ行こうというのですから頭が下がります」


 多くの宇宙進出種族が繰り返してきた偉大な足跡だ。それを目の当たりにできるのは滅多にない体験だろうとモコスは本心から思う。


:モコスたんならもっといいロケットを作れるんじゃないか?

:あそこ失敗続きだからな。助言くらいならどうだろうか

:さすがに良心回路が作動するんじゃないか?


「現物を見てないのでなんとも言えないですね」

 

 モコスはリスナーのコメントを拾い会話を続けながら、ロケットの資料とネットから探った情報を突き合わせる。実際ここ三回の失敗でかなり経営が危ないと噂されているらしい。

 他人事ながらモコスも従業員がたった一人の交易会社の社員として、経営にも深く関わっていて気になる部分だ。モコスなら簡単にロケット打ち上げを成功させて、この企業の運営を軌道に乗せることもできるはずだ。


 人も乗れない、衛星を打ち上げるだけのロケットである。モコスの手助けで安定した打ち上げができるようになっても、地球全体への影響は微小。技術提供もローテクノロジーに限定すれば、良心回路も作動しないはずだ。

 だが援助したところでモコスにメリットもない。衛星を打ち上げるロケットが一つ完成したところで、宇宙怪獣相手にはなんの役にも立たない。モコスがほしいのは漫画やアニメの権利である。打ち上げをする民間企業も出資している企業も、それとまったく関連のない分野ばかりだ。


「ちょっとした助言くらいならできるかもしれません」


:そらちゃんに迷惑かかるから辞めとけって

:おお、モコスたんがやる気だ

:いきなりやってきて助言とか聞いてくれるかなあ

:無理そう


「まあまあ。とりあえず現地に向かいますか」


 モコスは偵察機を先行させ、それから連絡艇も使うことにする。資材が必要なら近くに置いておいたほうがいい。もらったロケットの資料は簡単な構造図で、実際に調べてみないことには何もわからない程度のものだった。


「何もできないかもしませんし、銀河そらさんのご迷惑にならないように十分配慮します」


 交易船でのモコスはアンドロイドであることを差し引いても見習い社員、ただの雑用係でしかなかった。実際に生まれて五年であるし、経験豊富なスペースマンであるボスと本船の優秀な頭脳体のタッグに、モコスが割って入れる部分などほとんどなかった。地球に簡単に置いていかれた通り、モコスは交易船にとって必要のない、替えも利く予備でしかなかったのだ。

 それが地球レベルとはいえ最先端の宇宙開発企業を救う。メリットだとかデメリットではない。これはロマンなのだ。そう考えながらリスナーに配信終わりの挨拶をし、外出着に着替えたモコスは北海道の宇宙港へ向け飛び立った。


拙作『ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた』

コミカライズ版87話更新されました

https://manga.nicovideo.jp/comic/35999


コミカライズ版最新14巻もよろしくお願いします

https://www.comic-valkyrie.com/nitorowa/


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