第30話 事後報告
「まずは報告を。駐日一等武官フラムチェンコフは分からせておきました」
正直後は地球人同士で勝手にやって欲しいくらいにモコスは思っていたが、報告しないといけないことがある。余計なことに首を突っ込みすぎている。本当に重要な地球防衛計画がおろそかになりかねないと思うのだが、警察との今後の付き合いも考えると簡単には手を引くこともできない。
「わ、分からせ……」
「分からせとは生意気だったり調子に乗っている相手に対して、」
伊達道のつぶやきにモコスが説明しようとするも、そういう意味ではなかったようだ。
「いやいやいや言葉の意味は知っているとも。フラムチェンコフに一体何をしたんだね?」
モコスは話す内容、話していい部分を整理して話し始めた。
「ルジアン連邦諜報部が野瀬井を使って国際会議へのテロを画策。野瀬井が成功しようが失敗しようが実際の実行は自らの工作員を使う予定だったことは提供した資料にありましたね?」
伊達道たちが頷く。国際会議まで時間がそれほどない。だからこそ野瀬井確保後、すぐにモコスに接触を図ったし、資料の確実性を問題としたのだ。宇宙人を名乗るVtuberの情報でルジアン連邦に嫌疑をかけて、それが偽情報でしたでは伊達道たちの立場がない。
「野瀬井が捕まっただけではフラムチェンコフはすでに計画が警察に筒抜けだとは思っておらず、国際会議へのテロ攻撃を実行に移すつもりでした」
ルジアン連邦側はモコスは単に警察に通報しただけだと考えていた。警察との協力関係ある点はルジアン連邦にだけなく、世間一般にもモコスとしても伊達道たちとしてもこのまま隠しておきたい情報である。
「それで約束の履行を確認するためにフラムチェンコフを監視していたのですが、個人で携帯できるサイズの核エネルギー弾頭を隠し持ち、計画しているテロに使うつもりだったことが判明しました」
モコスは特殊対戦車用弾頭と記載された資料の該当部分を知らせる。核兵器の件がなければモコスはフラムチェンコフへの追加処置を黙ったままだったかもしれない。モコスとルジアン連邦間の問題だからだ。しかし核兵器を見落としたことに関してはモコスが完璧に収集したと考えた情報の手落ち、地球人も案外侮れないものだと反省している。
「核エネルギー弾頭!?」
伊達道が驚きの声をあげる。
「この核弾頭はアメリカ製の携帯型対戦車ミサイル発射装置、FGMs-149の規格に合わせて作られており、万一露見してもルジアン連邦の関与を疑わせることはないという周到な計画だったようです」
モコスの調査でも分からなかったほどだ。核兵器の使用は相当に秘匿され、本当に一部の者のみしか知らなかったのだろう。もちろん国際会議の会場が核兵器で破壊され、ルジアン連邦大統領だけが難を逃れたとなれば疑われないわけもないのだが、少なくともルジアン連邦関与の証拠はないということになる。もしかするとわざとこのアメリカ製の製品を現場に残すくらいのことはするつもりだったのかもしれない。
「この弾頭は無力化しておきましたし、国際会議へのテロ計画を続行するつもりなら警察へと通報するとフラムチェンコフには警告しておきました」
「FGMs-149の最大射程は四〇〇〇メートル。高いビルの屋上などからであれば、射程は更に伸びるはずです」
浜田が軽く検索した結果を上司たちに報告する。警戒を厳重にしたとしても四〇〇〇メートル、あるいはそれ以上離れた場所から攻撃されては防ぐのは不可能に近い。しかも爆発範囲の広い戦術核兵器だ。遠距離から多少狙いがそれて直撃しなくとも、広い範囲が破壊し尽くされることは容易に想像できる。
「核弾頭の無力化とはどうのようにですか?」
海原が珍しく発言をするのに答え、モコスは画像を提示する。そこには原型を留めてはいるが、もはや何をどうやっても修復など考えることすら無駄なほどズタズタに破壊された小型のミサイル弾頭が写っていた。モコスからどうやってやったのかの説明は当然なされない。フラムチェンコフがどう分からせられたのかも警察の三人は気になっていたが、モコスから説明がない以上あえて知りたいと口に出す者もいなかった。
「フラムチェンコフの監視は当面続けますが、私のルジアン連邦大統領暗殺容疑は取り下げてもらいましたし、後のことは警察にお任せします。これは国家間の権力闘争です。個人Vtuberの手には余ります」
核兵器が持ち込まれた件を加えて調査結果を連絡艇の頭脳体に改めて分析してもらった結果、ルジアン連邦の動きがわかってきた。狙いは日本への侵略である。日本人のテロリストにより各国首脳が全滅する。ルジアン連邦はそれを非難しつつ日本に向けて軍を進発させる。トップの死亡で世界中が混乱している最中、ルジアン連邦の電撃戦により東京までを制圧する。名目は自国の大統領の保護である。
さらに頭脳体は資料の分析からルジアン連邦大統領の犠牲すら示唆していた。核兵器が使用されれば、多少離れたとて被害からは逃れられない。計画の立案者は諜報部のトップ、ウラディミール・コロレフ。大統領暗殺後、ルジアン連邦の権力を奪取する。日本侵略すらブラフで、こちらが計画の本命ではないかと、頭脳体は推察している。
モコスはこの情報は知らせないことにした。頭脳体の分析だけで証拠はないし、ルジアン連邦の国内問題である。国際会議へのテロ、あるいは日本への侵略行為があればその時動けばいいとモコスは考えたからだ。できれば地球人同士で勝手にやっていい感じに解決ほしいとモコスは思いながら、フラムチェンコフ、国際会議テロに関しての報告は終わりだとモコスは告げた。
伊達道たちはどの口が手に余ると言うのだと思うが、ここまでやってもらってもっと協力しろとも言えないことも理解はしている。
「了解した。もしルジアン連邦側に新たな動きがあればすぐに知らせてほしい」
伊達道の返事にモコスは頷く。
「それからセーフハウスの件ですが、ルジアン連邦がまた変な気を起こして配信活動の邪魔をされては困りますからお世話になろうと思います」
モコスはフラムチェンコフの今後を心配していた。国際会議へのテロの失敗。モコス誘拐からの駐日ルジアン連邦大使館への破壊活動により、フラムチェンコフの失脚は大いに有り得るシナリオである。フラムチェンコフの心は折ったし、大統領暗殺容疑も一応は晴れた。しかしフラムチェンコフが失脚したときの後任はどうだろうか? モコスのことを忘れてくれればいいが、また変なちょっかいをかけようと考えるかもしれない。
「〇〇にある一軒家がいいと思います」
教えたはずのない公安部所有のセーフハウスをモコスから告げられて、伊達道は頷くしかない。セーフハウスの件を持ち出したのがほんの少し前、この会議の最中で、それがすでに何軒かから検討すらして選んだ様子に、伊達道は改めてモコスの能力に背筋が寒くなった。セーフハウスの場所は当然警察内部でも厳しく秘匿されている情報である。宇宙人かどうかなどもう関係ない。モコス・イクシスにはどんな手を使っても警察の、日本の味方で居てもらわなければならないと、伊達道は改めて考える。
「ではこのまま元のアパートから荷物を回収してセーフハウスに向かいます」
モコスとしては自分で探しても良かったのだ。賃貸者、所有者をモコスとはわからないようにする方法などいくらでもあるし、いっそ連絡艇に籠もってもいい。しかし警察とは繋がりを持っておきたかったし、警察もモコスの所在を把握していれば安心することだろう。モコスは自分が地球にとってかなり危険な存在であることくらいはよくよく承知しているのだ。それにあまり引っ越しに手間取ると、配信時間が削られてしまうのを心配していた。
「ところで先ほどのルジアン連邦諜報員相手のニンジャアクションですが、動画にして公開しても大丈夫ですか? もちろん彼らの個人情報がバレないようにモザイクなどの処理はしますし、きっとバズると思うんですよね」
モコスの言葉に伊達道は意表を突かれたようなので、この質問には浜田が答えた。
「警察としてはよくありませんし、ルジアン連邦もあまり刺激しないほうがいいと思いますよ? モザイクがあっても彼らは自分のことだとわかるでしょうし」
浜田が冷静にそう告げる。モコスは残念に思ったが、それもそうかと公開しないことを約束した。ニンジャアクションは別撮りで試してみよう。リアル戦闘ほどの迫力は出せないだろうが、それでも人気の企画となるかもしれない。
「浜田さんたちが動画に出演してみませんか? 敵の役で私に銃とか撃って……しませんか。出演料ははずみますよ? 無理ですか。はい。副業はダメなんですね」
モコスと浜田の話を聞きながら、伊達道もモコスにしっかりと注意喚起をしておくことにした。
「警察に関連する動画やリアルタイム配信だが、もちろんモコス君が重々配慮して撮影しているのはわかってはいるが、こちらに許可を取ってからにしてもらえると非常に助かるのだが……」
「善処します」
モコスはそう政治家のように答える。配信活動は地球防衛計画の根幹である。現地の警察ごときに制限されるつもりはモコスにはない。伊達道はモコスの返事に今ひとつ納得できないながらもそれに頷いて続けて話す。
「経営ビザの延長と日本国籍の取得に関しては早急に手続きを進めよう。モコス君とは今後も良好な協力を関係を築きたい。何か要望や相談事があればいつでも言ってきてほしい」
この宇宙人をさっさと日本人にしてしまえ、そう伊達道は考える。ルジアン連邦諜報部すら手玉に取る相手だ。もしかすると制御の利かない化け物を引き入れることになるかもしれないが、知らない場所で暴れられるよりマシだと伊達道は思うことにしたのだ。
「相談……」
しかし伊達道の言葉にモコスはそう言って考え込む様子を見せ、伊達道は自分の言った言葉をいきなり後悔した。宇宙人の相談事など自分に解決できるわけがないと。
「配信に関してなのですが、視聴者を増やせそうな良さげな企画はないものでしょうか?」
ニンジャアクションはダメだと言われたのだ。ならば別の案の提案くらいはしてみせるべきだとモコスは考えた。
「浜田君海原君、モコス君の相談に乗ってあげたまえ」
モコスから出た相談が無難な内容で、しかも自分がまったく詳しくない分野であることに安堵した伊達道は、部下に相談事の解決を丸投げした。この二人はモコス・イクシスの専属班に任命しよう。伊達道はこれから上に色々と報告しなければならないし、それにしばらくは掛り切りとなるだろう。
できることなら役割を変わってほしいものだと、伊達道を恨めしげ見てモコスの相談に頭を悩ませる部下を眺めながら、これからの流れを考える。
上への報告でモコス・イクシスの素性は正直に言うわけにもいかない。アール国籍の協力者。おそらく超優秀なハッカー。それ以上でもそれ以下でもない。いずれどこかでバレるだろうが、今は情報提供者の保護で押し通そうと伊達道は心の中で決定する。今回の件でのルジアン連邦の関与問題は上が判断するしかない。核兵器の国内への持ち込みばかりか使用まで計画されていたとなると中間管理職には手に余る問題だ。自分は国内のスパイの発見、摘発に専念する。それが伊達道の仕事だからだ。
モコス・イクシス。国内スパイの摘発だけではない、もっと色々とやれる能力があるはずだと、伊達道は考える。毒を喰らわば皿まで。利用できるならとことん利用して良いのではないか?
しかし浜田から宇宙怪獣という単語が出るのを聞いて、やはり余計なことはしないでおこうとその考えは一旦忘れることにしたのだった。




