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宇宙怪獣vsVtuber ~地球最後の日に貴方は何をしますか? 答え:Vtuberの配信を見る~  作者: 桂かすが


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第27話 【リアルタイム実況】誘拐されました【モコス・イクシス】※限定配信

「すいませーん、電気メーターのチェックに参りました~」

 

 そう扉の外から声をかけてきた訪問客の対応に出たモコスは、人間なら微量でも吸い込めば即座に意識を失う薬剤を顔面部に散布され、されるがままに手際よく袋詰めされて車内に放り込まれた。当然モコスに薬剤など効果はなく、単に大人しくしていただけである。ちなみに訪問者の外からの声は遮音フィールド発生装置により完全にカットされ、浜田たちには聞こえていなかった。


アリ・ウラソフ「こいつやけに重かったが……」


デニス・ボギエスン「こんな小娘程度が重いって? お前のその立派なガタイは飾りか?」


 プロレスラーと言っても通じるガタイの良いウラソフに、からかうようにボギエスンが言う。


アリ・ウラソフ「そんなわけねぇ! 重かったのはただの気の所為だ!」


ダニエル・マルコフ「せっかくの静かなEV車が台無しだ。黙って小娘を見張っていろ」


 電気会社の作業員を装ったウラソフとボーギエスンは東洋系の顔立ちでちょっと彫りが深い顔付きだったが、日本人に見えなくもなかった。帽子を目深に被って運転しているダニエル・マルコフはルジアン連邦人らしい目つきの鋭い白人種である。


ボギエスン「放っておいてもあの薬を吸い込んだら二時間は目を覚ましませんぜ、マルコフさん」


ウラソフ「しかし大統領閣下の暗殺未遂と聞いていましたが簡単なものでしたね?」


マルコフ「そうだな。この程度の小娘を取り逃がした本国の警備隊が無能だったのだろう」


ボギエスン「所詮は首都でぬくぬくしているエリートさんたちだ。前線で動いている俺たちとは鍛え方が違いますぜ」


 画面にモコスを攫い車で移動中の三人のルジアン語の会話が日本語字幕付きで映され、リモート会議中の警察の三人はようやく状況が掴めてきた。何をどうやってこうした映像が浜田たちに送られているのか理解まではできなかったが。


 そこにモコスのVtuberのアバターが戻ってきた。


「おまたせしました。少々立て込んでいましたので。ええ、はい。これはリアルタイムの映像です。私はこの袋」

 

 画面では、車の座席の足元に転がされている、モコスが入っていると思しき袋に矢印が示される。


「この袋に入れられ大人しく運ばれているところです」


 この映像を配信すればまた大きくバズるだろうなとモコスは思ったが、さすがにそれをしないだけの常識はあった。この中継は浜田たちのみ閲覧可能にしている。


「この三人の名前はリストにありました。その優秀さで軍から抜擢された諜報員ですね」


 浜田が冷静にそう話す。過去の経歴から工作活動の履歴、上司からの評価まで、いまも浜田の手元にある資料には載せられていた。


「モ、モコス君、大丈夫なのかね?」


 モコスのことをまだあまり知らない伊達道がそう声をかける。


「彼らを制圧するのも逃げるのも簡単ですし、私はルジアン連邦とも話してみたかったのです」


 工作員の三人が乗る車がアパートの前で止まり、モコスの部屋を訪ねた時にはすでに彼らの素性は掴んでいたし目的も察していた。

 逃げることも防ぐこともモコスにとって簡単だったが、かつてルジアン連邦首都の大統領府を訪ねて追われた経験をモコスは当然忘れたことはない。ボスからは再度のルジアン連邦との接触は禁じられたが向こうからやってきた今回は不可抗力である。

 これはルジアン連邦政府の高官と話すいい機会、交渉の席にすら付けずに現地人から逃げ惑った失態を取り戻すチャンスではないかと考えたのだ。


「大統領暗殺未遂の容疑をかけられているのも知っていますし、この機会にその釈明もするべきだとも考えています」


 こうして発見されたからには犯罪者の烙印は早急に払拭しておくべきだろう。でないと地球上での活動が困難になりかねない。


「本当にすぐに逃げられるのかね? 場所がわかれば警察の部隊を救出に向かわせるが……」


「これは私とルジアン連邦との問題です。日本の警察の介入は事態を複雑にしかねません」


 そうしてモコスと浜田たちと会話している間も画面の袋詰めモコスはピクリとも動かないし、三人の工作員は映像が撮られていることに気づく様子もない。


「モコスた……コモス君がそう言う以上、余計な手出しは控えるべきだと思います」


 浜田はモコスがかつて言ったことを思い起こしながら言った。地球のデータ化できる情報を気付かれることもなく根こそぎ盗み取る。あるいは卓越した技術と武力で無理やり奪う。それがモコスには可能だと配信で話したことがある。そして配信を追ううちに、浜田もそれが可能なことだと信じるようになったのだ。


 そして浜田が上司にそう進言したことで、伊達道も部隊の投入は一旦保留することにし、気になることを浜田に尋ねた。どうやってか画面に居るとはいえ、現在進行系で袋詰めされているモコスに聞くのは何か違うと伊達道はなんとなく考えたのだ。


「この映像はどうやって撮っているんだろう?」


「モコス君によると映像を映すのにカメラやレンズのようなものは必要ないそうです。光を捉える目に見えない力場のようなもので遠隔で自在に映像情報を得られるそうです」


 浜田が理解が追いついていない様子の上司の伊達道に続けて説明する。


「銀河連盟に所属する宇宙人だって話は説明しましたよ?」


「それは宇宙人と自称するVtuberだと……」


 銀河連盟に宇宙怪獣だ。浜田からの説明があっさりしたのもあり、そういう設定。ごっこ遊びのたぐいだと伊達道はまったく真剣に考えなかったのだ。伊達道は動画配信くらいは見ることもあるしVtuberのことも知ってはいて、子供や若者の見るものとしてまったく詳しくはなかったが、そういう設定やキャラクターを演じるものだという程度の認識はあったのだ。

 モコスのことは特殊な技術を持つハッカーのような存在。そして浜田から遵法精神が高く誠実な人物だと聞いて、これほどの能力、仲間にできそうならしようとスカウトしただけなのだ。


「その真偽のほどはわかりませんが、我々の理解の及ばない技術力を持っていることだけは確かです」


 浜田は上司にそう述べるに留めた。モコスから決定的な証拠が提示できない以上、信じる信じないは個人の問題だ。浜田は攫われたモコスを心配はしていたが、逃げられるし制圧もできるという言葉は信じた。部屋着で月面をうろうろし、空も飛んで見せるアンドロイドを誰が捕まえておけるのかと思うのだ。現に捕まっているはずが、こうやって平気な顔をして浜田たちとも話をしている。


「モコス君が宇宙人?」


「モコス君はそう言っています。余裕はあるようですし、まとめた切り抜きを見ますか?」


 画面は車内が映るばかりで変化もなくどこを走っているかも不明だし、工作員たちの会話もしばらくないという浜田たちは何もすることがない状況である。モコスに対する上司の理解を深めるため、浜田はまずはモコスが地球に来た経緯、宇宙怪獣のことを話す切り抜きを見せることにした。


 短い時間によくまとめられたモコスの話のあと、耐久配信で流された宇宙怪獣と銀河連盟との二つの戦いの映像が流された。


「よくできたSF映像だ。これが本当の事だとでも?」


 しかし伊達道は馬鹿馬鹿しい、そう言いかけた言葉は極めて真剣な表情をする部下たちを見て飲み込んだ。


「最初のは実際の映像で、二つ目の戦いは再現映像だということです」


「……海原君?」


 浜田では話にならなさそうだともう一人の部下に声をかける。


「私からはなんとも言えません」


 海原は肯定はしなかったが否定もしなかった。宇宙人に宇宙怪獣がだぞ? そう伊達道は信じられない思いで長い付き合いのある信頼できる部下を見たが、それ以上口を開かない海原を見て、浜田にもう一度声をかけた。


「モコス君が宇宙人だというのは信じられると思っています」


 モコスが宇宙人であるということを浜田は確信していた。ただし宇宙怪獣のことだけはどうしても飲み込めない。宇宙怪獣により地球が滅ぼうとしていることに関しては現実感が皆無。頭が理解を拒否してしまうのだ。


 幸いなことに伊達道が宇宙怪獣について考えを巡らす前に事態が動いた。車がどこかへ到着し、モコスが倉庫らしき場所に運び込まれたのだ。


「どこかの港の倉庫ですね」

 

 東京湾岸に良くある光景で、一瞬の映像では浜田にはそこがどこかまでは判断がつかなかった。

 その内部に映像が移る。照明は消されたままで倉庫の壁の上部にある小さい窓からの採光のみで薄暗く、何かの機材や道具、箱などが壁際に雑然と積まれ、広さは学校の教室二個分くらいだろうか。


ボギエスン「えらい上玉じゃないですか」


 気を失った振りをしているモコスがウラソフにより袋から出されて部屋の中央に持ち出されたパイプ椅子に座らされ、縛られる様子をじっとりと眺めていたボギエスンがニヤニヤしながらそう言った。


マルコフ「大統領閣下暗殺容疑だぞ」


ボギエスン「だからですよ。どうせ殺るんなら少しくらい楽しんでも良くないですか?」


マルコフ「いまから来るフラムチェンコフ殿にもそうお願いしてみるか?」


ボギエスン「す、すいません」


【駐日一等武官エゴロヴィッチ・フラムチェンコフ】という名前が画面にテロップで出される。伊達道は当然その名前をモコスの情報に頼るまでもなく知っていた。駐日ルジアン大使館のナンバー3。おそらくルジアン連邦諜報部日本支部のトップだと目される人物だ。その経歴はこれまで謎に包まれていたが、モコスの資料にはそれも詳しく書かれていた。

 長期の独裁体制を敷く現ルジアン連邦大統領と近しい家柄の出身。幼少期より大統領とも知り合いで近い将来、諜報部のトップとして大統領を支える立場になると思われる重要人物。大統領と直接話すこともできる高官中の高官だ。


 モコスはフラムチェンコフが三人の上司であることはわかっていたし、つなぎを付けられれば上々だと思っていたが、直接話せるならかなり望ましい状況だとぐったりとした演技をしながら考える。


マルコフ「ウラソフも勝手に女に触るな」


ウラソフ「いやこいつ、全然動かないもんで、薬が効きすぎてるのかも……」


 でかぶつのウラソフがモコスの顔を心配そうに覗き込む。


ボギエスン「お前が乱暴に扱ってどっか打ったんじゃねーか?」


ウラソフ「そんなことはしてねー! この薬は強力なんだよ。体質によってはかなり深い昏睡状態になることがあるんだ」


 憤慨したようにウラソフが反論する。そこにモコスがわざとらしくうーんと身動ぎの演技をしてみせた。


ボギエスン「動いたじゃねーか。気の所為だったんだろ」


 ウラソフは答えないまま、じっとモコスを見つめている。


「明らかに怪しまれています。薬で意識が無くなった演技なんてどうすればいいんでしょうか?」


 浜田たちもその問いには答えられず、そんなことを聞かれて困惑気味だ。


ウラソフ「ちょっと診てみます」


 ウラソフはそう言うとモコスの手を取り、手首の当たりにそっと指を添える。


ウラソフ「聴診器も持ってくりゃ良かったな……」


 そう小さく呟いた音声に乗らない声も映像に字幕で出る。ウラソフはその巨体に似合わず軍の医療隊での医療補助、看護師の経験があると経歴にはあった。


「まずいです。専門の医療従事者に調べられるとボロが出るかも知れません」


 今ならもっと精度の高い地球人偽装ボディを作れるだろうが、モコスが残された時点ではそれほど精密な偽装が必要であるとも思われず、概ね見た目だけのボディが作られたのだ。それに体重のこともある。モコスを運んでいたこの男は見た目の倍ほどのアンドロイドボディの重さに不審がっていた。


ウラソフ「脈は正常。体温は低い感じはするがおかしいところはない……それになんでこんなに体重が重い?」


 ぶつぶつとつぶやきながらポンポンとモコスの体を服の上から叩く。モコスは相変わらずのシャツと短パンの部屋着だ。どこをどうみても体重以外の重量物は装備していない。


「どうすればいいと思いますか? ここは口封じをする場面でしょうか?」


 映像越しに声が伝わるはずもないが、それでも緊迫した場面に話すのも控えていた浜田たちだったが、さすがにそれは伊達道が止めた。


「殺人はダメだ、モコス君! 仮にも警察の任用職員なんだ!」


 いくら相手がルジアン連邦の工作員だとはいえ、この三人は大使館の正規の職員でもあるのだ。いきなりの殺人は伊達道でも誤魔化しが利かないし、露見した時に庇いきれない。


 しかしモコスは人間でないことがバレる確率を計算していた。体内、特に目や口内などを調べられればほぼ一〇〇パーセント露見する。なぜならモコスの地球人偽装は見た目だけ。表面だけのものだからだ。人間の目や口内の複雑な構造までは緻密に再現はしていない。


「私がアンドロイドであることがバレるわけにはいきません」


 ウラソフの手がモコスの俯いていた顔にかかる。顔を上に向かせ、その手はまぶたの当たりに添えられた。医者や救急隊員がよくやるように、目、瞳孔をチェックするつもりなのは明白だ。

 やはり殺すしかない。モコスは覚悟を決めた。配信や通話越しではない。人間ではないと直接に知られる。これは良心回路が作動する明確なリスクだ。


ウラソフ「これじゃ暗くて見えない。マルコフさん、明かりを付けていいですか?」


 そう言ってウラソフはモコスに被さるようにしていた体を起こした。明かりもない倉庫の暗さでは簡単な診察も無理なのだろう。


マルコフ「調べるのはもういい。そろそろ目を覚まさせろ」


 その言葉に僅かに逡巡したウラソフだったが、上着の内ポケットからポーチを取り出し、そこから小さなプラスチック容器のスプレーをモコスの鼻の下へと持っていき、シュッと吹きかけた。

 これが目を覚ます薬だろう。そうモコスは判断し、ゆっくりと目を開いた。そして大きく開く前にすぐにそっと目を閉じた。


ウラソフ「?……気のせいか……五分もすれば目を覚ますと思います」


 モコスが目を開こうとした瞬間、偵察機で観察していたウラソフの顔がピクリと反応したのだ。それでまずいと思いすぐに目を閉じたのだが、どうやら正解だったらしい。そう安心しアンドロイドらしからぬ極度の緊張を緩める。人間なら心臓がバクバクと跳ね上がっていた場面だろう。


 人間らしく振る舞うのもなかなかに難しいものなのだなと、ウラソフ氏を殺さずに済んだことに安堵しながらモコスは告げられた五分をカウントし始めた。



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