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宇宙怪獣vsVtuber ~地球最後の日に貴方は何をしますか? 答え:Vtuberの配信を見る~  作者: 桂かすが


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第26話 訪問者

 モコスの暮らすのは、築四〇年を超える古い二階建てのアパートの一階部分である。地球人の女性であれば一人暮らしをするのにセキュリティも何もあったものではない物件であったが、怪しげな外国人では選べるほどの賃貸物件はないという事情もあった。

 モコスとしては生活する場所という認識はなく、地上で活動するためのスペースの一時的な間借りという感覚であったから外観や機能性にこだわる必要もなく、防御力が低いのが気になるくらいで特に不便も不満も持たなかった。


 そんな防御の貧弱な一室でモコスは現地人警察組織と会議アプリでの顔合わせリモート通話を行なっていた。


「私が宇宙人かどうか。たとえ私が宇宙人だと言ったとしても証拠がなければ、あなた方にとってそれは無意味ですよね?」


 軽い挨拶と警察側の自己紹介、核テロ予告犯の逮捕協力へのお礼もそこそこに、警視庁公安部対外局第九課の浜田の核心に切り込んだ質問だったが、その返答に浜田は頷くしかなかった。モコスのリスナーである浜田は当然そんな質問は意味がないと理解していたが、今回の会議には上司二名も参加していて聞かざるを得なかったのだ。


 核テロ予告犯、野瀬井達哉のせいたつやのその後に関しては物的証拠も揃っていたし、当人も呆れるほどあっさりと自供しておりなんら問題はなかった。どのみち全員死ぬのだ、地球は終わりだ。そんな不穏な言葉に事情を知る者は顔を見合わせ、知らない者はこれは精神鑑定案件かとげんなりしたものだったが、無事拘置所に送られ、今後の裁判を待つばかりとなっている。


 問題はルジアン連邦関与の証拠である。証拠としては一級品だった。ご丁寧にルジアン語の日本語翻訳版まで添付してあって、分野と関連度によって系統立てて分類までされていた。

 しかしその証拠が大量で精緻すぎた。今回の核テロ関連だけでなく、多岐多分野にまたがるルジアン連邦の日本での諜報活動や浸透作戦。その指示内容と資金の流れ。会議録だけでなく盗聴されたと思しき数々の音声データ。諜報や工作活動の実行役に日本人の協力者たちの名簿から役割、報酬内容まで。

 電子データから紙の資料の写し、音声データはアナログテープから採取と書かれたものまであった。

 たとえ内部に高位の役職のスパイが居たとしても、どうみても入手困難と思われる質と量で、精査にも月単位でかかりそうな代物である。


 ルジアン連邦の長年に亘る日本への工作の全貌がそこにあった。もし偽造だとしてもこんな情報が一部でも外部に漏れれば外交問題どころではない、大変な事態となるのは浜田たちも目に見えていた。であるからこそ公安部から更に上へ、あるいは他部署へと資料を公開する前に、本物であるというなんらかの保証、できれば確実な証明が欲しかったのだ。もしそれができなければ、この資料は外に出す前に封印、あるいは抹消することすら浜田と上司の二人は検討していた。


「それでですね、資料の入手方法をお伺いしたいのですが……」


 浜田がこれも一応そう尋ねる。もう完全にモコスが宇宙人だと信じている浜田は、当然銀河連盟のテクノロジーを使ってだろうなと考えている。


 入手場所は資料にきちんと記載されていて、在日ルジアン連邦大使館、ルジアン連邦大統領府、日本国内の特殊工作拠点らしき場所が何箇所か、それといくつもの銀行。銀行は口座と取引情報、貸金庫の内部。銀行は国内大手、国外でも名の知れた銀行にルジアン連邦中央銀行などの名前が列挙されていた。

 これも海原課長が頭を痛くする原因だった。銀行の記録を抜く。貸金庫の中身を許可なく盗み見る。立派な犯罪行為である。いっそすべてが虚偽でモコスが詐欺師であれば良いとすら考えてた。


「入手方法は当方の機器で目標の建物に侵入、サーチ。関連のありそうなデータを片っ端から記録しました」


 情報はオートでさらったので膨大になったし、内容を精査している時間はモコスにはなかったから、連絡艇の頭脳体に日本関連で仕訳、分類するように丸投げした結果が、モコスもその内容を大雑把にしか把握していない今回の資料群である。


「金庫の中もですか? それは外部から、内部から?」


「外部からです。ただの金属ではサーチの障壁とはなりませんから」


「銀行関連の取引情報はどうやって?」


「地球レベルのセキュリティや暗号化では情報取得の障害とはなりませんから、普通に見に行ってデータを漁っただけです」


「普通に見に行っただけ?」


「普通に見に行っただけです」


 実際モコスと地球くらい技術格差があると、銀行程度のセキュリティ、モコスにとってはひょいと見に行く程度の感覚でしかなかった。


「それでその機器とはどのような?」


「偵察機です」


 浜田は偵察機の詳細も聞いてはみるが、当然のように機密情報であるとしてモコスは答えないし、答えるのには良心回路作動のリスクがある。


「それはどのような場所でも偵察できるのかね?」


 リモート通話の出席者は三名。九課の海原課長。部下の浜田。そして海原の上司である公安部のトップ、伊達道守信だてみちもりのぶ公安部部長。発言はその伊達道部長からなされた。


「存在がわかってさえいれば」


 伊達道部長はモコスが宇宙人であるという言説には懐疑的だったが、そのもたらされた証拠は本物にしか見えなかったし、真正の証拠であるとすでに確信していた。偽造にしては手が込みすぎている。銀行情報は海原課長から犯罪であるという指摘があったが、宇宙怪獣うんぬんとは無関係に、有用であれば手段は問題視とするほどではないと考えていた。公安部ともなれば色々とグレーな活動も多くなる。法律に反するからといちいち指摘するほど伊達道部長は頭が固くはなかった。


「資料は我が国に関連するものだけだな。他にも色々とあったはずだが?」


 在日ルジアン連邦大使館だけならともかく、大統領府なら他にも極秘の資料が山積みだったはずだろうと伊達道は指摘する。


「私は日本で活動していますが、特定の国家に肩入れするつもりはありません。今回は宇宙人への風評被害を払拭するため、止むを得ず犯人の逮捕及び資料の提供に踏み切っただけなのです。それがどの程度必要か不明瞭だったので、日本関連の情報に範囲を拡げての今回の提供となりました」


 もし地球が生き延びることがあればそれは銀河連盟の手によってだ。そうなれば地球と銀河連盟は接触を果たすことだろう。その時モコスが原因で宇宙人に対する評判が悪くなっていたなんて事態は絶対に防ぐべきだとモコスは考えたのだ。


「追加の資料を提供するつもりはないか?」


 日本の仮想敵国はルジアン連邦だけではない。あるいは強固な同盟国であるアメリカ国の情報ですらあればあるだけ公安部の利益となる。


「今回は犯罪に関連する情報でしたからこうして提供に踏み切りましたが、そうでなければ勝手な情報の閲覧、他者への提供は違法行為です」


 核兵器による都市部へのテロ予告は銀河連盟においても重大な犯罪で、その主犯はルジアン連邦の諜報部、そしてルジアン連邦の首脳部だったし、モコスも巻き込まれたことから今回の行為は銀河連盟の法に照らし合わせても適法……おそらく適法に思われるから提供に踏み切っただけのことだった。それ以上のことはモコスが融通を利かせたとしても違法性が高かった。

 モコスはリスナーの情報を探ったり、これまでかなり違法性の高い行為もしていて、それは必要であると容認していたが、それでも超えてはいけないラインというものがあるとも考えるのだ。


「通常の犯罪捜査なら協力は期待できると思っていいのかな?」


「私は民間人の動画配信者に過ぎません。本業を差し置いて警察への協力は致しかねます」


 本業とは 地球防衛のことだ。それに比べれば警察への協力など時間の浪費、些事にすぎない。


「モコス君。君はアール国籍の外国人で日本を拠点に活動している。日本の警察への協力いかんにおいては活動が円滑にも困難にも……いやいや脅すつもりはない。すまなかった。ただ双方の希望の落とし所があるはずだと思ってね。たとえば君はいま経営ビザで、一年の滞在許可を持っているのかな? 近々あるはずの次回の更新だが、ルジアン連邦とのトラブルには外務省が良い顔をしないかもしれない。ああ、重ねて言うが今回の協力に対してモコス君には大変感謝しているとも。しかしだ。モコス君の提供した資料には外務省の職員の名前もあった」


 外務省に入り込んだルジアン連邦のスパイ。協力者。そのこと自体は伊達道は放置しても重大な問題ではないと考えている。存在がわかってさえいれば、スパイはコントロールできる。だからこそ今回の情報提供でこの部分に伊達道は注目した。


「取引をしようということですか?」


「話が早いね。警察がモコス君の後ろ盾になろう。経営ビザの延長はもちろん、希望するなら永住権や日本国籍の用意もできる」


 伊達道が求めるのはモコスの情報収集能力のようだった。それに外務省からのモコスへの妨害工作も指摘されれば十分に予測できる範囲のことであった。

 ボスからは現地政府との接触は禁じられていた。しかしそれはモコスの側からであって、現地政府の側からの働きかけであればそれはボスの命令にも反しないとの解釈も可能なはずである。そうモコスは考える。

 それにルジアン連邦とのトラブルも、伊達道からの指摘通り問題になりそうだ。モコスが国籍を置くアール国はルジアン連邦と仲が良い。もしルジアン連邦からアール国に働きかけがあれば、モコスのアール国籍など簡単に吹っ飛ぶだろう。あるいはルジアン連邦から要請されればモコスに対する国際指名手配なんてこともアール国ならやりかねない。


「私はアール国人ですが日本に滞在する以上、警察組織への協力は前向きに検討すべきだと考えます。貴方がたの希望は何なのでしょうか?」


 だが協力範囲と条件に関しては慎重に考えなければならない。


「日本にいる各国のスパイを洗い出したい」


 伊達道がそう答える。スパイは存在が割れれば脅威とはならない。リスクが高い存在なら排除すればいいし、コントロール下に置ければ二重スパイとして活用できる。泳がせて偽情報を掴ませてもいい。極論すればスパイがスパイだとバレた時点でその存在意義は消滅する。


「私は祖国・・の法に縛られており、日本であまり大っぴらに動くことはできません。それにもっとも果たすべき役割というものがあります」


 伊達道からの提案を検討しながらモコスは言葉を繋ぐ。現地の公的組織からの要請によるスパイの洗い出し。思ったより楽な条件だし、その程度なら協力は問題なさそうだ。


「まず調査手段に関して、日本の法に抵触するリスクがあります」


 銀河連盟やモコスに迷惑をかけたわけでもない存在の調査である。留意すべきは日本の法律。守れるなら守るべきだ。


「ではその調査手段に関してもう少し詳しく聞きたい」


「たとえば私有地への無断侵入は違法行為ですが、今回の調査は犯罪行為が明確に存在するために無視しました」


 私有地への勝手な侵入は銀河連盟でも違法行為である。しかもそこから情報を盗むとなると完全な犯罪である。しかしながらモコスは辺境を旅する交易船のクルーとして購入された。訪れる未開な惑星、野蛮な社会では当然それに沿ったやり方というものがある。そこが銀河連盟外となれば尚更だ。

 宇宙は過酷な場所だ。油断すれば即、死を招く。それは個人の話に限らない。惑星国家や銀河連盟すら未来永劫盤石なわけではないのだ。生き延びるためには危険な相手には容赦しない。攻撃されれば躊躇なく反撃する。それが銀河連盟の方針でありモコスの生存本能でもある。まずもって生き延びなければ法律を守るも守らないもない。必要であれば法も破る。モコスの優先順位ははっきりしている。


「日本の法律では裁判所の許可が必要ですよね?」


 そう言われれば伊達道も首肯するしかない。


「外部からの調査では時間もかかりますし、得られる情報にも限界があります」


「つまり私有地の外からの適法な調査でもある程度の情報は得られると?」


「そうです。漏れなく調べ上げるとはいかないでしょう」


 伊達道も完璧な調査を望んでいるわけではない。着実な調査結果があれば良い。そう答える。


「モコス君の希望はなんだね?」


「まずは経営ビザの延長を。そして成果が出れば日本国籍の取得を希望します」


 日本国籍はモコスにとって魅力的だ。万一銀河連盟に戻れないとなっても、この日本でなら十分に満足する暮らしができる。現国籍のアール国には未練も愛着もまったくないし、警察組織の後ろ盾というのも魅力的だ。情報を送り続ける限り、彼らはモコスを守ろうとするだろう。


「君を警察庁の任用職員として採用しようと思うのだが、どう思うかね? そうすれば色々と手続きが省けるし、何かあった時に我々の身内として守ることもできる」


 モコスは初めて聞く任用職員という言葉について即座に検索をかけた。地方公務員の扱いではあるが、正規職員のサポートをする期間限定の臨時雇いの職員のようだ。民間なら契約社員と呼ばれる職種である。


「むろん任用職員は身分だけのもので出勤する必要もないし外部にも公開するものでもないから、君は今まで通りに活動してくれて構わない」


「そして私は情報だけを貴方がたに提供する」


「私に、だ。窓口は浜田君か海原君に頼む。これはモコス君の情報をなるべく漏らさないための処置だ」


 いまの総理はスパイ防止法の制定に意欲的だ。スパイ防止法が国会で成立し、その時伊達道の手元にスパイの膨大な情報があれば? 伊達道は現場からの叩き上げで仕事に誇りを持っているが、人並みの出世欲はある。総理や政権与党の覚えがめでたいとなると出世ルートを駆け上がるのも夢ではない。エリートであるキャリア組を押しのけての出世はさぞかし気分が良いことだろう。


「私の国では口頭での契約は有効です」


 そもそも口頭だとしてもその場にアンドロイドか頭脳体でも居れば、契約の状況は鮮明に記録されるのだ。地球で言うところの書面の契約とほぼ変わりはないし、今回もきっちり映像と音声記録は残る。


「法の番人たる警察官として、君との契約を誠心誠意履行すると約束しよう」


 経営ピザの延長は問題ない。公安部は外務省にも顔が利く。ただ日本国籍は確実に保証するとまでは約束できない。そう伊達道は説明する。日本国籍の取得は公的な審査であり、その認可に関しては伊達道の裁量権を大きく超える。それでも警察幹部からの強力な推薦に、警察への協力実績があればまず間違いなく認められるだろうと話し、モコスはそれで十分だと頷いた。


「貴方は私を任用職員として採用し、経営ピザの便宜を図り、成果があれば日本国籍を取得させる」


「君は私に日本国内の外国のスパイの情報を提供する」


「ここに契約は結ばれました」


 伊達道は頷いた。公安部は仕事柄情報屋だったり外部協力者とのつながりは多い。モコスの雇用はその裁量権の範囲内であり警察組織としてもなんら問題のない行為である。


「明日にでも任用職員としての身分証を浜田にでも届けさせよう。君は警視庁公安部対外局第九課所属の任用職員となる。それとその住居だが、ルジアン連邦にすでに知られていると考えるべきだ。そのまま居続けるのは危険だ」


「自分の身は自分で守れますし、危険はありません」


「君が危険な目に合うのはこちらとしても困るのだ。公安部の持つセーフハウスを提供しよう。誰にも知られていない安全な家だ。君のいま住んでいるアパートより立派だし家賃も無料だぞ。そうそう、任用職員としての給与の支給があるから銀行口座も用意しておいてくれ。なければそれも相談に乗る」


 その時モコスの部屋の呼び鈴が鳴らされた。


「さっそくお客様のようです。少々お待ちを」


 そう言ってモコスが会議のカメラから外れて玄関へと向かうと、三人の外国人にあっという間に袋詰めにされ、すぐ側で待つ車に連れ込まれた。


「モコス君? どうした? おい、モコス君!?」


 誰も居ない部屋に伊達道の声だけが虚しく響き、モコスを乗せた車は誰にも気付かれることもなくどこかへと発進していった。



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