第24話【帰還報告】七十二時間耐久振り返り配信【モコス・イクシス】 後半
「まず重大発表はいいお話です」
モコスのその言葉でコメントに安堵の声が並ぶ。
「宇宙怪獣に変化はありませんし、地球防衛計画の進捗も順調です。トラブルなどは……特にありません」
:いま口ごもった!?
:なにかトラブルあるの?
:言え!正直に言え!
トラブルに関してわずかに考える素振りをしたモコスにコメントが騒然とする。それを見てモコスは仕方なく話すことにした。
「ニュースで見たのですが、核爆弾テロを犯行予告した人物が宇宙人から核兵器をもらったと言っているようなんですが、私はもちろん無関係ですからトラブルってことでもないですし、全然大したことじゃないでしょう?」
そう一息にモコスは説明する。
:宇宙怪獣に比べたらそりゃなんでも大したことないけどさあ
:そのニュースワイもみた
:日本の警察は大騒ぎやぞ
:核テロって全然大したことなんですが!?
:そりゃ関係あるとは思わんが……
:以前核兵器売ってくれって言ってきたやつでは?
「でもそんなの調べればすぐに嘘だってわかるでしょう?」
:どうやって?
:わからんから警察が苦労してるんだろ
「もしかしてまだ犯人がわかってないんですか? 事前に警告もしてくれたんでしょう? ネットワークを調べれば痕跡を辿ることなど簡単なはずです」
:まだ捕まってないはず
:それが難しいからまだ野放しなんやで
:モコスなら探せるんじゃ?
「それはすぐに出来ますが、まずは重大発表ですね」
:できるんかい!
:できるならやれええええええ
「あなたたちが重大発表を先にやれって言ったんですよ。それに警察の役目ですし、人の仕事を取るのは良くないです。それで重大発表ですが、これはみんなもきっと驚きますよ~」
モコスとしては言った通り、自然人の仕事を奪うのはよくないことだと考えているし、何より直接的な地球人との接触は避けているのが現状なのだ。これ以上良心回路を不必要に刺激したくはない。
:テロリスト捕まえるほうがぜったいに驚くから!
:<10000円>できるならやってくれ
:いい加減重大発表やろうよ
:モコスが解決したらバズるんじゃないか?
:ごめんなさい。やっぱりテロリストのほうを先で
「えー? 重大発表が先だと言ったり後だと言ったり、わがまますぎませんか?」
しかしバズるという言葉にモコスは反応した。コメントは核テロリストを捕まえろの大合唱だ。ならば打てる手は何かと考え、小型の偵察機を飛ばすことにした。現地人との接触は避けるべきだが、その現地人からの要望、許可があるなら話は別だ。万一良心回路が作動するようなら即座に撤退すればいい。
「この件を私が解決したらバズりますかね?」
:バズるバズる
:全国ニュース確実やぞ
「警察の方は私が手出しをして気を悪くされないでしょうか?」
:平気平気。感謝されるよ
:警察への協力は市民の義務ですよ
:警察も迷惑するかも。重大発表やろうよ
先ほどから重大発表を聞きたがっているコメントが、例の核を売ってくれと言ってきた核テロリストの容疑者候補である。出しているコメントからも怪しすぎるし、モコスは以前に住居まで特定済みである。だがここで探すとか捕まえると言えば、この容疑者は当然逃亡や証拠隠滅を図るだろう。
「警察への協力は前向きに考えておきます。私自身あまり大っぴらにできない立場でありますし、なにかをやるにせよ、まずは警察にお伺いを立ててからですね」
リスナーにも警察官が居るのを確認していて、『警察への協力は市民の義務ですよ』と言ったのがそうである。これは実行の容認、要請であるとモコスは判断した。
核テロリスト氏の住居は幸いにも都内でモコスの住む場所からも近い。偵察機により核テロリスト氏が経年劣化した今にも崩壊しそうな古いアパートに居るのを確認することができた。当然ながらモコスの配信を視聴中だ。
「では改めて、じゅーだい、はっぴょうお~」
核テロリストをどうにかしろと言う声はまだあるが、多くのリスナーはとりあえず重大発表を聞く気になってくれたようだ。
ドラムロール。画面に【オリジナル楽曲】とテロップが現れ、リスナーから驚きと喜びの声があがる。
「楽曲提供はなんと! あのNeo-T氏です!」
:おおおおおおー
:誰?
:大物じゃん。すげー
:Neo-Tさんもモコスのリスナーだっけ
「Neo-T氏を知らない方に説明しますと、最近ではアニメの◯◯や◯◯の主題歌。アイドルのXXXさんなどに楽曲を提供されている超有名作詞作曲家の方で――」
核テロリスト氏の住居、狭い一部屋には核兵器は当然なかった。密かに侵入した偵察機の子機が部屋にあるパソコン内部のデータにアクセスする。怪しい情報はない。部屋にあった別の情報機器、スマートフォン一台目。二台目も特に犯罪行為に関わるような情報はなかった。
これは予想が外れたか、モコスがそう思って何故か畳の下に置かれていた最後の三台目を調べる。
当たり。テロに関する情報が無防備にも残されている。実行計画、指示内容、報酬。物資を保管する倉庫。どうやら黒幕は他に居て、核テロリスト氏は単なる実行犯のようだ。指示役はスマートフォンからの情報だけでは不明だ。
「さらにさらになんと! オープニングとエンディング曲も提供して頂いております!」
別の偵察機を倉庫に飛ばす。爆弾と思われるものがある。核ではない通常の爆発物。破壊力もせいぜいアパートやビルを吹き飛ばせる程度のものではあるが、核は手に入らなくとも破壊活動は十分できそうだ。
さらにスマートフォンの通信記録を辿っていくと、そのうちの一つが都心にあるルジアン連邦大使館に行き着いた。そちらにも別の偵察機を飛ばす。
ルジアン連邦が自らも参加予定の国際会議で破壊工作? ルジアン連邦がどの程度関与しているかの情報は不十分だったが、探索の手を広げて集めた情報を総合し、核テロリスト氏が一〇〇パーセント犯人だと指し示していた。
「犯人を見つけました」
そう配信でモコスが告げるとコメントが再び騒然となった。
「今も配信を見てますよね。このまま自分で警察に行くのなら私は何もしません。これは警告です。警告を無視をするなら銀河連盟法により貴方の人権は一時的に停止され、日本国の法律、刑事訴訟法第433条による現行犯逮捕が実行されます」
:マジで?
:さすがモコスたんや
:やっぱり核売ってくれのやつだったのか?
:いえーい。テロリストさん見てる~?
:配信中なのに現行犯逮捕ってどうやるんだ???
核テロリスト氏は焦ってパソコンの前から立ち上がり、部屋の窓から周囲を伺っている。偵察機は地球人に見つけられるほど低レベルなものではないし、そもそも何を探していいかすらわからないだろう。
「すぐに決断は下せないでしょうし少し待ちますが、逃亡しようとすれば阻止します」
:どうやって?
:銀河連盟のテクノロジーなんやろ
:犯人はもう諦めろ
ルジアン連邦大使館にはテロのデータは断片的にしか存在しなかった。地球レベルの記録形態なら紙だろうが暗号データだろうが読み取るのは簡単であるが、よほど巧妙に隠されているか通信記録以外は大使館に情報を残していないらしい。さすがに地球人の頭の中までは偵察機では覗けない。ルジアン連邦本国には何かありそうだから、面倒であるがそちらへも調査の手を伸ばすことにした。
ネットワークからルジアン連邦が今回の国際会議に難色を示しているという確度の高い情報も見つけることができた。ユーロ共同体は東京に連絡事務所を設置し、準軍事同盟を日本と結ぶ計画を立てている。今回の国際会議では各国首脳間でその件が話し合われる予定だ。
ユーロ共同体と日本国はルジアン連邦の東西に位置する。その準軍事同盟の目的はルジアン連邦を牽制することなのは明白である。
それがもしテロで無茶苦茶され、その犯人が日本人だとなれば? 軍事同盟の話は流れるかもしれない。
:本当に間違いないのか?人違いなら大変なことになるぞ。それに下手に地球人と接触すると良心回路が作動するかもしれない
:さっきからこいつ何度もモコスを止めようとしてるのは
:あっ
:わかっちゃったかも
:本当にテロリストなんかい!
「裏でこっそり実行すれば良心回路も反応しないようですし、直接的な接触も今回はしない予定です」
:裏でこっそりとは?
:まあワイらにはモコスたんが何をしているかさっぱりやし、誰にも見せなければセーフってことやろ
:テロリストは自首しろー
:もう逃げられないぞ
:結局核も持ってない口だけの愉快犯なんだろ
:俺を舐めるな。死人が出てから後悔しやがれ
そうコメントを書き残した後、核テロリスト氏が部屋を出ようとしたのをモコスは確認し、麻痺ビームで無力化をした。
「ご安心ください。死人は出ません」
偵察機に搭載された麻痺ビームを地球人で実際に試すのは始めてだったが想定通りの効果が出たようだと、良心回路が作動しないことも含めてモコスは安堵した。ついでに今後のことも考え、核テロリスト氏の肉体状態をサーチ。麻痺ビームの効果のほどを確認。生体サンプルも微量もらっておくことにした。
「では警察に通報しようと思います。ええ、もう大丈夫です。彼は意識を無くして部屋に横になっています。当分目を覚ますことはないでしょう」
:なんで意識をなくしたんやろうなあ
:通報は配信に載せないほうが良いのでは?
:えー、ここまで来て配信終わるのは……
「音声は載せないようにしましょうか。もしもし。警察ですか? ニュースで見た核テロリストらしき人物の家を見つけたので。はい、はい。いいえ。彼はいま寝ているようですから急いだほうが」
モコスはここで音声をミュートにした。アパートの住所、核テロリスト氏の名前。倉庫に爆発物らしきものを所持していること。伝える必要のあることを伝えたので、ミュートを解除した。
「いえいえ。私は善意の第三者ですので。名乗るほどでは。では後はよろしくお願いします。通報終了」
そう告げてモコスは通話を打ち切り、収集した情報を警察に順次送りつけていく。
「後は優秀な日本の警察にお任せですね」
:一体誰なんやろうなあ
:ネタ?これマジでやってるの?
:冗談で通報とかできないだろ
:配信じゃ本当に通報したとかわからないだろ
:待ってればニュースに出るさ
「では事態が動き次第、現地から実況しましょうか」
リスナーたちが情報を拡散して、新たな視聴者が大量に流入しつつある。この流れには乗るべきだろう。
:現地実況は草
:撮れ高のためならなんでもする女
:どうやって実況するんだ???
:もちろん銀河連盟の謎テクノロジーやで
基本、画像にはフィルターをかけ音声は載せない。遅延は一〇秒でいいだろうとモコスは配信の設定を操作する。それでも問題のある箇所は余裕をもって事前にカットできる。
「これが核テロリスト犯です」
:モザイクw
:寝てるのか?
:眠らされたんや
:音はさすがに切ってあるか
:古いアパートか何か?六畳間だな
:これでもし人違いだったらどうするの……
:普通に殺害予告とかしてただろ
:それが人違いだったらって
「人違いだったらですか? その時はちゃんと謝罪します」
:謝罪でいけるの?
:下手したらモコスが犯罪者になっちゃうんじゃ?
「あなた達がやれと言ったんですよ? 日本の法律なら共同正犯というやつですね」
:モコスたんが確定したって言うならワイは信じるで
「証拠は十分です。爆弾も持ってました。かたくそうさくれいじょう??? すいません。日本の法律には疎くて。ええ、そう思います。はい。もうやってしまった以上後戻りもできませんし。それでももし間違っていたら? その時は然るべき処分を受けるつもりです。おっと、そろそろ警察が到着するようですね」
:警察は映さないでくれると助かります
:警察関係者か?
「鍵は開けておきました」
待っている間に証拠も発掘して並べておいた。
:至れりつくせりだな
:警察?モザイクが濃くてわからん
:人間なのは動きでわかるぜ
:確保? 犯人さんすやすやだなー
:手錠をかけた?
そうしてモザイク越しの犯人は警官らしき人々に持ち上げられ、大型の警察護送車らしきものに運ばれていったのを最後に映像は終わった。
:モザイク越しで何が何やら
:ご協力感謝します
:難事件を華麗に解決や!
:ワイらも鼻が高いで
:ネタだろネタ。あんなモザイクだらけの映像、なんの証明にもならん
:あの、うちの近所で同じような光景が……
「この件は続報が入り次第、また配信しましょうか。でですね、オリジナル曲は近日中に枠を立ててやる予定です。オープニングとエンディングは次回からですね。お楽しみに!」
:さらっと普通の配信に戻らないでもろて
:もっと何かこう、あるだろ?
:そういうところがリアリティがないって言われるんやぞ
:いやいや、モコスはよくやっただろ
:そうだぞ。警察や関係者も犯人が捕まって一安心だよ
:モコスさん、警察に就職しませんか?
:警察からスカウトは草
:ガチの警察関係者なの?
「今回はリスナーに犯人が居たのでやむなく協力しましたが、本業はVtuberですので、警察への就職はできません。それで連絡事項ですが、月の石は発送済みですので、首都圏でしたら早ければ明日明後日くらいには届くと思います」
:おお、月の石!
:当選者羨ましすぎる
:月の石って?
:モコスたんが小惑星帯に行く途中で月へ寄って、月の石をお土産に持って帰ってきてくれたんだぜ
:詳しくはメン限配信で
「テロリストですか? 警察に連れて行かれました。宇宙怪獣はまだ動いてません。歌枠はまたやります。マルオカートですね。次は一位を絶対に取ります。罰ゲームですか。受けて立ちますよ!」
:新しいホラーゲーム選ばなきゃ
:でもそろそろ一位は取れるんじゃない?
「宇宙望遠鏡ですね。そのことも相談しようと思ってたんですが、稼働はもうしているんですが、データなどはどうしましょうか? こんな感じの画像が取れてるんですか、別枠で改めてやりますか?」
画面いっぱいに宇宙に浮かぶ木星が映る。
「これは小惑星帯に設置した望遠鏡からの映像です。寄ってみましょうか」
木星が一気に大きくなり、木星の周囲を回る衛星も視認できるくらいになる。
「衛星ですか? もっとズームして見ましょう」
衛星の一つに映像が接近してその詳細な姿があらわになる。
:おかしくないか?タイムラグは往復で四〇分はあるはずだぞ
:木星の映像ならもっと時間がかかる。これはシミュレーション映像かな?
「もちろんリアルタイムの映像じゃありませんが、取得したデータをこちらで再構成したものになりますから、データ上ではリアルタイム映像と変わりはありません」
:なんで木星?テロリストは?
「テロリストですか? 今来た人もいるようですし、先ほどの映像をもう一度見てみましょうか」
画面が警察が踏み込み、容疑者を連れて行く映像に切り替わる。
「アンドロイド銀河が見たい? これでいいですか? さっきの衛星をもっと?」
:待て待て待て。配信がとっ散らかってるぞ
そのコメントを目に止め、モコスは動きを止める。
「落ち着け? 全部の要望に応える必要はない? それもそうですね。たくさん人が来たので情報処理が追いつかなかったようです」
:大事なのはモコスたんが何をやりたいかやで
:そうそう。要望を全部聞いてたら切りがない
:テロリストは捕まえたし、重大発表も終わった。今日はもう十分だろう
「私が何をやりたいか……歌、ですかね」
:ええぞ。好きな歌を歌ってくれ
:テロリストは?
:配信は配信者のものだ
:そうそう。配信内容の要望くらいは出していいけど、それを受けるかどうかは配信者次第ってことや
「実はですね、地球に戻る途中に練習してた曲があるんですよ~」
:聞きたい聞きたい
:テロリストを捕まえたって言うから見に来たんだけど、歌?
:この銀河の映像なに?
画面はアンドロメダ銀河にゆっくり近づいている映像が流れている。コメントは騒がしいが、モコスは無視して歌の準備をする。さすがのモコスもリアルタイムでコメントを処理しきれなくなってきていたのだ。
アンドロメダ銀河を背景に曲名が画面に表示され、イントロが流れる。
:この流れで歌は草
:今日の配信は色々有りすぎてやっと落ち着いた感じだな
:アンドロメダ銀河きれいだね
:練習したせいか上手いぞ
:やっぱりいい声してるねー
:歌はいいけど、このまま歌枠にするの?
そうしてモコスが一曲歌い切る頃。
【速報】G20プラス5サミットに爆弾テロの予告をした容疑者を確保と警察発表
:テレビで速報来たぞ!
:マジか? ガチだ!
:モコスたんは本物やで
「まとめをもう作ってくれている方がいますね。テロリスト関連の情報はそちらを御覧ください。犯人確保時の加工なし映像は警察に送ってありますので、映像がほしいテレビやマスコミ関係者は警察に聞いてみてください。私は善意のちょっとした協力者であり、犯人確保は警察の手柄です。今後の対応もすべて警察にお任せしますから、問い合わせをされても返事はないと思ってください」
:ちょっとした協力とは?
:宇宙レベルでは何もかもちっぽけなもんよ
:アンドロメダ銀河にも知的生命体が住んでるのかなあ
「アンドロメダ銀河に知的生命体ですか? それはいつか地球人類の目で確かめてみてください」
:無事生き延びられたらね……




