第18話 【地球防衛】小惑星帯兵器群生産拠点選定【モコス・イクシス】
「こんばんにゃ! 宇宙人系Vtuber地球救済委員会委員長モコス・イクシスですにゃ!」
前回の配信、月で作業用ロボットが石採取をしている待機画面の画像。それが星がまばらに見える宇宙空間の画像に切り替わり、そこに浮かぶ搭載艇にカメラが移動し、右下にいつものモコスのアバターの上半身が映り元気良く挨拶をする。
「当船は小惑星地帯に突入、現在地はこの付近となります。今回一応はライブ配信となっておりますが、通信ラグが片道二〇分、往復で四〇分以上ありますのでコメントへの反応はできません」
モコスは画面に太陽系の星系図を出し、そこに船のアイコンを表示する。コメントの反応がないことに孤独を感じながらもモコスは続ける。
「火星と木星の中間地点から火星側で、木星はまだほんの点にしか見えません。小惑星はレーダーには相当数映っていますが、等倍のカメラだと宇宙は閑散として見えています」
カメラが小惑星の一つを捉える。
「前方に小惑星が見えてきました。直径は一〇キロメートル以上。サイズも手頃ですし、内蔵している資源も豊富で良さそうな小惑星です。資源の種類も多いですね。資源量は……日本の消費量なら一〇〇年ほどは賄えそうな量があります。ですがこの小惑星はスルーしましょう。目標の小惑星に近いのでマーキングはしておいて、後での利用を考えるかもしれませんが」
モコスの言葉どおり、搭載艇は小惑星を通り過ぎる。
「目標はこの先にある直径五〇〇キロメートルほどのこの付近で最大級の小惑星です。金属資源も豊富で質量もなかなかのものです。この小惑星を生産拠点として資源を採取。ついでに宇宙怪獣にぶつける質量兵器とする予定です」
月のサイズが直径三四七〇キロメートル。その七分の一ほどの相当大きな小惑星であるとモコスは説明を加える。宇宙怪獣にぶつける兵器として使用するのは少々勿体ないとモコスは思うが、質量兵器としては大きければ大きいほどいいのだ。
「ここで減速をします。なるべく重力発生装置を使いたくないので、今しがた通り過ぎた小惑星にアンカーを射出。軌道の調整と減速をします。このアンカーはトラクタービームと呼ばれているもので、本来は視覚的に見えませんが、映像にはわかりやすく色を付けています」
トラクタービームが長く伸び、小惑星と搭載艇が結びつけられると画面に表示された速度表示がみるみるうちに減っていく。速度が半分ほどになったところでトラクタービームが消えた。
「目標の小惑星が見えてきました。もう一度トラクタービームを使って最終減速を行います」
ごつごつとした小惑星にトラクタービームが刺さり、搭載艇が一気に減速していく。近づくにつれて小惑星の巨大さがあらわになる。小惑星が画面いっぱいとなり、ちょっとした凹凸と見えた場所が巨大な山岳の威容を見せ、その谷間に搭載艇が着陸する。
「これだけ大きい小惑星だと多少の重力があります。おおよそ地球の2%程度ですが、重力があるだけで作業が楽になります……着陸地点周辺の詳細な資源分布マップが完成しました。拠点建設のための資源の多い場所へと移動します」
搭載艇がふわりと浮上し、ごつごつとした小惑星上の谷間を縫うように移動していく。
「ここを生産拠点とします。まずは拠点建設のための整地から行います」
しばし移動したところで搭載艇が停止するとモコスが言い、搭載艇から幅広いビームが発射されて小惑星の表面を舐め取っていく。ホコリや塵のようなものが舞い、それが収まるのも待たずに作業用ロボットの投入が始まった。作業用ロボットは大小様々で二〇体ほど。大型タイプの比率が多かった。
ロボットたちは事前に作成してあった機材や資材を搬出、組み立て、さらに別のロボットが近場での採掘も始めていく。しかしながらその様子は配信ではフィルターされモザイクとなっている。地球のリスナーが見られるのは作業用ロボットがなにやらモザイクになっているものを運んだり作業している様子だけである。
「生産計画はすでに作っていますので、あとはすることがありません。作業用ロボットが実働、搭載艇の頭脳体が管理監督をやってくれて見ている必要すらないのですが、搭載艇の設備が必要なので三日ほどここで足止めです」
カメラの動きもすでに搭載艇任せである。ここでようやく配信開始から四〇分ほどが過ぎ、地球で始まっていた配信がモコスの元へと届きリスナーからのコメントが見え始めた。モコスの表情が明るくなる。
:こんばんにゃ!
:モコスたんは今日もかわいいね
:待ってました!
:宇宙だ!
「地球から転送している配信データが届き始めました。小惑星帯からの遠距離配信は無事成功したようです」
:ラグ40分!?
:コメント読まれないのか。残念
:この距離で配信できるのがすごい。どんな技術だ?
モコスは届いた配信画面を映し、それにコメントしていくことにした。小惑星での作業はワイプして左下に小さく追いやられる。
「コメントはちゃんと読んでますよ~。投げ銭もありがとうございます。前回の収益が二五〇万円ほど。メンバーシップも二〇〇〇名を超えたので、活動資金は十分賄えそうです」
:小惑星帯ってもっとゴチャゴチャしてるかと思った
:<10000円>もっと寄って!小惑星をもっと見たい!
「この小惑星は通過ですね。ですが希望があるようでしたら、後ほど偵察機を飛ばして観察してみましょうか」
:100年分!?やばすぎ
:これ持って帰れないかなあ。無理か
:持って帰れれば地球の資源問題解決じゃん
:いや派手なことするとモコスたんの良心回路が作動しちゃうだろ
「さすがにこのサイズとなるとお土産感覚で持ち帰るのは無理ですね」
:ぶつける!?!?!?
:そういや兵器にするって言ってたけど、そんなにでかいとは思わなかった
:月の7分の1サイズとか草
モコスはリスナーのコメントに時々応答しながら、過去の配信を見直していく。
:うおおおおおお!トラクタービームカッコよ!
:SFっぽくなってきた!
:銀河連盟の技術ってすごいんだな
:これで重力発生装置の使用制限してるの天才か?
:作動原理が知りたい……めっちゃ知りたい……
:おお、岩だ。これが500キロもあるのか。そうは見えないな
:ゴツゴツしとる
:あ、だんだんでかく
:2%の重力でも作業効率変わるんだなー
:映画みたいだ
:CGに決まってるだろ
:ロボット出てきた!
:小惑星開発の始まりだー
:ロボット以外全部モザイクは草
:ロボット以外は見せられないのか
:うおおおおおお!ビームだ!
:大型ロボもかっこいい
:このスピード感よ
:モザイクのせいでマイクラ系のゲーム見てる気分
:三日間ここで宇宙配信とか贅沢やん
:この間に何かしてくれると嬉しいな
:モコスたん!コメント届いてるよー
:通信つながったあああああ
「コメントが追いついたようなので、そろそろ画面をリアルタイムに戻しましょうか」
画面が相変わらずフィルターだらけの小惑星帯での作業配信に戻る。フィルター(モザイク)に対する文句が出ているのをモコスは目に留めた。作業用ロボットは露出があることを考え外観をシンプルにして、形状から技術レベルを測りづらいようにしてあったのだが、他の機材はそこまで配慮する余裕もなく、どこまで見せて安全か判断が難しかったので作業用ロボット以外すべてフィルターしてあったのだ。しかし最初の建造物の外殻が完成し、地球で作った機材の持ち込みも完了した。
「フィルターは不評のようなのである程度オープンにします」
機材はすべて突貫工事で建設した最初の基地に搬入を終えた。見えるのは四角い形状の最初の生産拠点と採取した資源を運び込む作業用ロボットだけである。見せて困るものはないが、見ても大して面白くないだろうとモコスも思う場面だけだ。
「ここからの映像は当面変わり映えしないのですが、三日もあるなら何かやってくれというコメントがいくつもありますね」
モコスとしてはこの三日間、溜め込んでいたアニメの視聴でもしていようかと思っていたのだが、要望があるならこのまま配信を続けてもいいと考えを変えた。宇宙に出てから、登録者数や視聴者数などの数字の伸び率が上昇傾向にあるのだ。
「七二時間耐久配信ですか? もちろん私は食事や休息、睡眠の必要もありませんから問題なく実行できます」
まるまる三日間も何をするのか。いきなり提案されても計画がないモコスだったが、時間があればやりたかったことはいくつかある。
「では要望に応えて、これより七二時間耐久配信、開始します」
そう宣言し、画面にタイマーを表示し、カウントを開始させた。
「まずは投げ銭のお礼、読み上げをしようと思います。◯◯さん、一番乗り、ありがとうございます。◯◯さん、初回配信から見てました。ありがとうございます。初期の配信に居た方のお名前はしっかり覚えてますよ。◯◯さん、いただいたお金は大事に使わさせてもらいます。◯◯さんーー」
収益化記念配信、その後の月でのメンバー限定配信での投げ銭は相当あった。丁寧に読み上げていくだけで二時間以上かかるから、その間に配信計画を考える……
「そうそう。七二時間耐久配信でやってほしいことも募集します」
要望を聞くことは重要だ、そうモコスは考え投げ銭の合間に軽い気持ちで言った。リスナーの好みそうな配信がだいぶ掴めてきたモコスだったが、月をもっと見たいだの小惑星の採掘を見せろだの、いま一つ掴みきれない要望も多い。通信ラグは大きいが、投げ銭の読み上げをしているうちに案は色々出ることだろう。
二〇分後、突然の七二時間耐久配信の開始、そしてやってほしいことの募集にリスターたちが騒然となるのも知らずに、モコスは淡々と投げ銭へのお礼読み上げを再開するのだった。
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