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殺し屋とヴァンパイア  作者: ひいらぎ桜
出会い編
3/4

怪しい男


ドアを開けて現れたのは、美羽が言っていた通りの人物だった。

世話人と、細身で身長の高い男。何歳か想像がつかない。


世話人がしおり達を一瞥して男に「全員揃っています」と耳打ちした。


耳元で言っている割に声が大きすぎやしないか。


「こんにちは、皆さん」


男が帽子を取りこちらに微笑みかける。


「うわ、すごい破壊力」

「美空」


思わず呟いた美空を窘めるように美羽が肘で小突く。


「お構いなく。美空さん、美羽さん」


いきなり名前を呼ばれた二人は、静かに男を見つめ返した。


「あなたは?」


「失礼、僕は霧谷累。手早く済ませたいし、早速本題に移るとしよう」


そこから累はコホンとひと呼吸おくとこう言った。


「君たちを、買取に来たんだ」


累がそう言い終えたあと、辺りには沈黙が訪れた。

厚い壁で覆われているはずなのに外の音が聞こえるような気がした。


しおり達が殺気を包み隠さず累に向けている。


表情を見ようにも、憤慨しているのか、悲しんでいるのか、全く検討がつかない。


世話人はその殺気に充てられ数歩後ろに下がると、口から泡を吹いて床に崩れ落ちた。

世話をしていると言ってはいたが、結局は彼女たちの玩具に過ぎないらしい。


累が言葉を発さず殺気に耐えていると、しおりが口を開いた。


「私たちをからかっているのでしょうか?」

「いや、全く」


流石にこのままでは話が進まないと思ったのか、今では全員が殺気を解いている。


少し前まで耐えていたものが急になくなると、それはそれで負担が生まれる。

現に卒倒していた世話人もびくんと身体を震わせて、更に苦しそうに顔を歪めていた。


「私たちの他にも優秀な人間はいると思いますが」

「確かにそうだね。でも、僕は君たちを買い取りたいんだ。だって、君たちは手が付けられないほど凶暴だと言うし」


その言葉をしおり達が聞いていたのを累はわかっていた。


「仕事はこなすけど金がかかるわ暴れるわで、美点よりも汚点の方が多いじゃないか」

「そんな厄介な化け物達は、僕が買い取ってあげようと思ってね。ただの慈善活動さ。世話人から聞いたけど、君たちは全員両親をーー」

水遊び(ウォーターノック)


しおりが手をかざすと、そこから矢のように鋭く木の幹のように太い水が吹き出す。

累は両腕を顔の前で交差させ防いだ。

しかし水の勢いは強く、累の足は少しづつ後ろへ下がる。


「なるほど、確かにすごいな」


累の額から汗が流れる。それは累自身も気づかないほどのものだった。


「しおり、お客様でしょう」


やめなさいと美桜が言うと、しおりは手を下ろし魔法の発動をやめた。


「大丈夫ですか」


美羽が気遣うように声をかけるが、それはなんの感情もこもっていないものだと累は感じていた。


「うんありがとう。それにしてもしおりさんは凄いね。僕の息子にも水を操る子がいるけど、ここまで強くないよ」


パンパンとコートの裾に着いた汚れを払う。


「さらに君たちを買い取る気持ちが固まったよ」


しおり達の怪訝な目を見て、累は大袈裟に肩を竦めた。


「なぜそんなに嫌がるんだい? 僕はまだ君たちを口説けていないのか」


すると累はピンと三本指を立てた。


「僕が買い取る理由は三つ。一つ目は強いから。二つ目は息子たちと同じぐらいの人数だから。そして最後は・・・・・・」


累は真剣な目でこう言った。


「君たちを、救いたいからだ」


ーー少し、空気が変わった。

全員が未知の言語を聞いたような表情を浮かべ、累を見る。


「君たちは物心ついた時からここにいるんだろう。世界は君たちが思っているより世界はずっと広いんだよ」

「・・・・・・」


何も答えないしおり達を見て、累はさらに続ける。


「そして、」


間を開けてしおりの前に来ると、かがんで顔を覗き込んだ。


「普通の人間は魔術は使えない」

「!」

「できるとしても、途方もなく長い年月がかかる」「君たちの先祖は、魔族なのだろう?」


この事実を、会ってすぐ気づく者はそういない。

人間の見た目で、魔力は常にひた隠しにしていたからだ。

そして殺しを依頼する人間は自身で行動しようとしない無知で、弱いものばかりである。

しおり達が魔法を使っていても違和感を抱くものはいない。

彼の眼は正しい。その眼で、今まで何を見てきたのだろう。


先祖返り。


しおりがこの世に産まれた時、初めて聞いた言葉。

しおりが有する最も古い記憶だ。


「それが何だと言うの」


そう言うしおりの瞳は濁っていた。


彼女の様子をじっと見つめ累は、


「二週間後にまた来るから、それまで答えを考えておいてね」


そう言って、去っていった。


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