分かりやすい少年勇者
自分の周りが変化し始め、それに伴って期待に増長していく自分については自覚がある。
街に出れば誰もが俺を敬いと期待の視線を向け、女性達は黄色い声を上げる。
子供は憧れ、俺こそは勇者ライオ等と勇者ごっこ遊びをしているのを良く見かける。
唐突な勇者へと持ち上げられた時の困惑はすぐになりを潜め、期待されてるんだ、俺は勇者なのだと慢心だけが増長していく。
「リルエラは紋章持ちの確認か、俺にはやる事がほぼ無いな。勇者は戦う事が仕事だし街にいる間はのんびりさせて貰えて楽だけど。」
実際は道中もそこまで忙しくある訳でも、危険に晒される訳でもない。この世界全域における事だか強力な魔物等殆ど存在しないのが現状だ。
獣に毛が生えた程度の魔獣が存在する程度。兵士であれば1人でも対応出来る位のレベルのものだけ、そんなものだから力に目覚めた俺に取っては雑魚でしかなく、剣を振れば一撃の元に相手を倒してしまう。
「早く前線に着かないかな、魔王を倒したら俺も英雄。」
加速する妄想にも理由がある。今の隊には前線経験者の兵士も同行している。話を聞けば重傷者はたまに出るが死人は今まで一切出ていないらしい。
一般兵で対応出来ている程度ならば俺が参戦すれば魔王もひとたまりもない筈だろうと安易に考えてしまう。
「そろそろ帰って来るかな、勇者として俺も紋章持ちと顔合わせてやらないとな、世界の平和は俺の力にかかっているんだからな。」
手持ち無沙汰から、そろそろ招かれるであろう新しい仲間に声をかけてやろうと、領主館に用意された部屋から応接室へと向かう。
「では、貴方も…」
「すぐに…、伝え…」
応接室の扉の前につけば中からは話し声が聞こえ、疎外感が沸けば不満を感じる。
(もう着いてるじゃないか、俺に報告もないとはどういう事だよ)
子供っぽい憤怒を抱えながら声の聞こえる応接室へ俺は乗り込むのだった。