配下に頭を垂れる魔王
「あの神め、何を考えている、忌々しい呪いを受け入れているというのに、愛する生命を救えだと、これ以上我等に何を望むというのだ…」
頭の左右から生える立派な角、全身黒で包まれる豪華な魔法衣、裏地が真紅に染められ、表地は夜闇を彷彿させる黒のマントを羽織る美丈夫が、雷鳴轟く城の玉座に座し苦言を零す。
永く、創造神に創造されてから世界の歪みを調律する役目を担う魔族、それを率いてきた男は、魔王として数奇な運命に呑まれる同族の未来に嘆く事しか出来なかった。
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「魔王様、皆集いました。」
白髪、白髭の燕尾服に身を包む男が魔王の座する玉座の前で片膝を地面に着き報告してくる。
長年我に仕え、我の苦悩をしる腹心である。
「ゼントル、我は正しいと思うか?」
「おのが使命を果たし、民に敬意を評するモーン様が間違っている訳がございますまい。」
この男は長い付き合いの中、我個人として扱って欲しい場面を理解し、魔王と我の名を使い分ける気の利く男である。
つくづく不甲斐ない我には勿体なき男だ。
「モーン様がお召になる服こそ良き導き手としての証ではありませんかな?」
片眼鏡の奥で朱色に淡く染まる瞳を此方へ向け、優しく諭す言葉を綴るゼントルに敵わないと苦笑をこぼす。
荒れ狂う魔王城、廃れた城下、ヒューマンへのアピール、言ってしまえば見せかけなのだ。
魔王城の背後には荒廃する荒野が広がって居ることになっている。
「だが一時の幸福の末路は皆、生贄だ…」
「私も含め皆分かっている事で御座いますから。」
魔族に背負わされし呪い、その根幹は我だと言うのにこやつらの忠義には応え返しきれんな。
「では、魔王様、新たなる兵へお言葉を掛けてお遣りくださいませ。」
その言葉を受け取れば玉座から重い腰を上げる。
玉座の間の外へ続くバルコニーに出れば数十の魔族が広場に整列している。
「お前達の献上品確かに受け取った。」
自身の身を包む服が見えるようマントを翻す。
眼科には此方を尊ぶ視線を向ける様々な姿をした魔族達、共通点は赤く染まりかけた瞳と黒の尻尾、黒の角、黒の羽、誰もがその3つのどれかが体の何処かに備わっている事だろう。
「お前達の事は忘れぬ、その意思が尽きるまで我が民を守り、我が国の存在を隠し通してくれるよう願う。」
集まった者達の命が尽きる事は確定事項なのである。
戦地へ赴き死ぬ事こそが彼等の宿命であり呪いであるから、誰もが理解し受け入れている。
「同族の一時の幸福の為に宜しく頼む。」
そして、我は城最上階から彼等の前に降り立ち、深く頭を垂れる。