反撃のきっかけ
世界中の人々が映し出された映像に注目する。
「さぁ、ショーの始まりだ。」
破滅の権化と化した須藤が手を伸ばす先、人類側の希望とされる聖女リルエラへとかざされる。
「先ずは貴様だ、俺に取って不愉快な存在。」
破滅にとって対をなす存在、人々に希望と癒しを与える彼女は存在するだけでそれにとって嫌悪の対象であった。
「お前の死が俺により力を与えるだろう。」
彼の掌に集まる黒い球体、見るからに危険極まりないその球体はしっかりとリルエラに照準が向けられる。
「死ね…」
掌から離れる球体は一気に加速する、先の衝撃により反応出来る者は誰一人としていない、迫り来るそれに瞳を閉じ彼女は最後の時を待つしかなかった。
「おぉぉぉ、光剣開放。」
その言葉と共に飛び出す人影、頭上に掲げた剣が光を放ち、振り抜けば眩い光が一筋の線となり球体を貫く。
「ライ、オ?」
声に目を開くリルエラの先に見知った後ろ姿が映る。
「俺は勇者の器じゃなかったよリルエラ、でも、今はこの力で誰かを救えるなら救ってみせる。」
白銀のオーラに包まれた青年が言葉を綴る、一際大きく見える背中を彼女に向けて、世界の人々に見せつけながら。
球体は破滅をもたらす者のすぐ傍で爆散し、貫いた光線を掌に受け止めた彼は空中を滑るように押し戻された。
「目障りな、俺を押し退けるだと…」
受け止める手は痺れ動かしにくく、彼は動きを確かめながら忌々しさに顔を歪める。
そんな彼の背後に迫る男が1人、腕を出来る限り伸ばし相手に触れようと突撃するがそれは空を切る。
「何をしたいか知らないが、その程度の動きでどうにかなると?」
「思っておりませんな、ですが、これで良いのです。」
「すまぬ、ゼントルよ。」
ゼントルの体で炎弾が爆ぜる、その衝撃に押し流され彼の身体は破滅をもたらす者に向かう。
不意を付く軌道に手で振り払う行動に出る選択しか残らなかった彼はゼントルへ触れた、そう触れてしまった。
「頼みましたよ、須藤殿ならきっとこの命無駄にはせんと信じております。」
腕に払われ吹き飛ぶゼントルの言葉が宙に消えていく、払った瞬間に安定しかけていた力に淀みを感じる破滅。
「何を、小賢しい事ばかりしおって。」
怒りに任せ放つ黑弾がゼントルを襲い、その後には黒い塊が地へと落ちていく。
暗い暗い闇の中で須藤は微かな意識を保っていた。
(最悪のシナリオを引き当ててしまったな)
いくつかの行き着く答え、その中で1番引きたくないものに辿り着いた事を悔いるしかなかった。
(後は信じるのみか…あれだけ言っておきながらこの醜態は自分に呆れるしかない)
この流れも予想はしていた、自らがスキルを発動する前に呑まれてしまう最悪のシナリオ。
『お任せ下さい、私が命に変えましても…』
(あの人なら遣り遂げるのだろう、報いなければならない)
主の為に尽くした男の顔が浮かぶ、愚直に1人の主の救いを求めていた男の言葉だ、彼が言葉にしたなら必ず遣り遂げると須藤は確信していた。
暗い闇の中で一瞬の光明を見逃さぬ様に気を引き締め、消滅寸前の自我を保ったままその時を待つ。
そしてその空間に亀裂がはしる…。
「ぬっ、矮小な人間風情が、俺に刃向かうことなど…」
「人とはそう弱い者では…ないよ。」
ゼントルに触れた須藤に異変が起こった、濁った今までの声の中に弱々しくも元の彼の意志を感じさせる声が混じる。
「此処からが人類の底力の見せ所と言うやつだ。」
須藤の言葉を皮切りに彼自身に青く光る鎖が巻きついていく、世界を覆い尽くしていた圧倒的な威圧感が急速に薄れる。
「巫山戯るな!貴様如き神の力を借りた所で俺を抑え込む事など…」
足掻こうと須藤の意識を飲み込もうとする破滅の意志、しかし、それは叶わない、元より須藤は存在自体を代償に神が与えた力を行使しているのだから。
「こんな事は有り得ん…、貴様我と同化するつもりだったとでも言うのか…」
彼の言う通りであった、永遠にこの世に存在する負のエネルギーそのものと同化すれば闇に呑まれる、須藤はその核になる為の力を授かっていた。
人智の範疇の存在が核になればどうなるか、とてつもない力を引き出す負のエネルギーでさえ行使できる力は限られる。
同じ土俵の存在なれば、後は彼らに任せるだけである。
「さぁ、クライマックスだ。」
2つの声が混じりあい、須藤が言葉を高らかに叫ぶ。




