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無垢な正義感こそ勇者

赤黒い空に映される映像、それは誰の目にも映っている、それは勇者と言う大役の意味を理解できなかった彼の目にも映っていた。


(世界の滅亡…どうなるんだよ、もう終わりなのか)


ライオの中で絶望が広がる、手に入れた力に自信を失った彼には最早自分がどうにかする考えは微塵もなかった。


「終わりだ。もう、どうにもならないのか。」


「どうすれば良いんだ。」


「し、死にたくない…」


周りに落ちる赤黒い稲妻が辺りの木々を燃やす、立ち上がる火が若い兵士達の動揺を更に増長する。


「そうだ。勇者様、勇者様が居るじゃないか。」


そんな言葉が何処からか飛んでくる、それを皮切りに周りの兵士の希望の眼差しがライオに突き刺さる。


「いや、俺は…」


皆の視線に彼が困惑を示す、自分の無力と考えの甘さを自覚したライオに取ってその期待は重荷にしかならなかった。


「俺じゃなくても魔王やリルエラが居るし。」


「それでも、勇者ライオが我らの希望なのです。」


若い者達に取ってライオは希望だった、自分達を引っ張り戦場を狩る彼は彼らに取って間違いなく勇者だったのだ。


「勇者様が先頭に立っているだけで我らは勇気を貰えるのです。」


「聖女様も勇者様も我らに取っての希望なのです。」


(俺が希望?勇気を与える?間違った考えで罪もない者を傷つけた俺が勇者であっていいはずないのに…)


彼には分からない、向けられる視線にこもる熱の意味も、期待される理由も、ただ勇者と言われただけだからなのだと思っているから。


「勇者様が我らを鼓舞していたのです、明るく強気な貴方が居たから俺達も怯えずに済んだのです。」


それはただの責任逃れであり、初めて体感する恐怖に拠り所を求める為に言っているに過ぎない。


「俺に出来ることなんて…」


そんな言葉が今のライオを突き動かせる訳がない、響かない言葉をいくら聞こうとそれは変わらない。


「おいっ、お前何処に行く気だ。」


「僕らは兵士です、行かないと…このまま怯えてたって何にもならない、何も出来なくても後悔はしたくないです。」


後方からそんな言葉がライオの耳に入る、視線を向ければそこに初遠征の彼と変わらない歳の新兵の姿。

先輩兵士に呼び止められ啖呵をきって走り去る彼の背中を見続ける。


(俺何やってんだ、何でこんな所にいるんだ)


彼の姿に少し前を思い出す、同じように新兵として皆を守るのだと訓練に励んでいた自分の姿、騎士になって国を守ると意気込んでいたのは一月と経っていない。


(力を手に入れ自惚れ忘れてたんだ、世界の平和を守るんだなんて夢物語を語ってた時を、あの時は出来ると信じてた…力もないのに)


彼の足が無意識に駆け出した青年兵士の後を追う。

自分が何をしたいのか理解してはいない、心のどこかで燻っていた強い正義感が足を動かす。


(何をしてる?彼処へ行って何が出来る…出来るか?そうじゃない、出来なくともやるんだ、この力があれば出来ると信じてたじゃないか)


勇者の力に目覚めた際に一番最初に浮かんだ景色、守る人々の平和な世界で幸せに笑う世界、誰も悲しまない世界を作るんだと胸に誓ったあの日の想いに火がつく。


「俺は、勇者だ、平和な世界を作る為にここに来たんだ。」


後方から聞こえる歓声等どうでもいい、今進むべき先が見えた彼に取って賞賛等何の意味もなかった。

成し得る力が無くとも進む事が出来る、無鉄砲な正義感だけが彼を突き動かす。


ひたすら真っ直ぐな正義感が、彼の勇者の力を呼び覚ます。

1日行軍し歩いた道をひた走る、彼より先に走り出した兵士はいつの間にか後方彼方である。

目的の場所はただ1つ、最悪が待ち受けるその場所に真に勇者として目覚めた青年が進むのであった。

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