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混沌と破滅の化身

「良いのだな、須藤。」


「今更怖気付く事もない、何より作戦立案者がやっぱり辞めますではお話にならないだろ。」


魔城へと続く絶壁の道を抜け、更に広がる森を抜けた先、戦場として使われていた平原に、魔王モーンと須藤が歩みを進める。


背後にはゼントルを先頭に数人の魔族、前方には騎士甲冑に身を包むローデンとリルエラ、その背後には選ばれ残った貫禄のある兵士が並ぶ。


「勇者がおらんようだが大丈夫なのか。」


「大丈夫でしょ、彼の勇者願望は本物ですよ。」


魔王の懸念に、苦悩する彼を思い浮かべる。


「後は成すべき事が彼を導くでしょうし。」


自分をこの場所へ強引に導いた神だ、どうあれ勇者をここへ連れて来るだろうと確信していた。


「良ければ始めるぞ、どうなるか我にも分からん、お前の案に乗ったのだ、失敗だけはしてくれるなよ。」


「失敗なんてしたら世界の滅亡してしまう、我ながら重大過ぎる事に首を突っ込んだものだね。」


問題はない、不足の事態が起きないとも言えないが、それでもしっかり道は見えていた。


「我が眷属に与えし呪いを今放たん、ディスペル」


魔王の言葉に魔族領方面から黒い霧が立ち上り、此方へと向かい集まって来る。

負のエネルギーの集合体が魔王と須藤を囲み包み込む。


「これ、何ですか…身体の震えが止まりません。」


渦巻く霧に包まれた2人を眺めながらリルエラが肩を抱いて震え上がる。


「分からぬ、だが恐ろしいものであるのは間違いないな。」


人間同士の戦争で感じた事のある憎悪を向けられた時に似た圧迫感にローデルの顔が険しさを増し、他の兵も剣を抜き臨戦態勢を取り始める。

彼らも死地を経験した選りすぐりの精鋭兵士、この戦地で緩んでいながらも研ぎ澄まされた経験は鈍っていなかった。


「これ程のものだったのですか…こんなものを貴方様は抑えつける使命を課されていたのですねモーン様。」


見覚えのある瘴気とは隔絶された濃いものに自分が如何に無力だったか思い知るゼントル、この重圧を毎夜身体に取り込み、少しづつの発散をしていたとしても我が身に大半を受け入れていた彼の苦悩を今理解したのだった。


渦巻く瘴気の霧の中にいる2人は目視出来ない、磁場が乱れているかのように雷電が走る。


「グッ、ぬお!」


誰もが不安を抱え見守る中、黒い影が吹き飛ばされローデン目掛け飛んでくる。


「ぬっ、魔王…どうした、須藤殿は。」


咄嗟に受け止めた男の姿を確認すれば、もう1人の姿を探し辺りを見渡す、そこに須藤が飛ばされた形跡はなく、未だ彼が瘴気の霧の中に居ることを物語る。


「気をつけろ、現れるぞ、覚悟を決めろ。」


魔王の言葉に全員の緊張感が辺りに静寂を感じさせる、渦巻く霧の中を走る雷電の音だけが唸る。


全員の視線を受ける瘴気の霧へ、天空から赤い1本の雷迎が落ち、霧を霧散させる。

払われた霧の先には呆然と立ち尽くす須藤の姿、その姿を目にすればリルエラが駆け寄ろうと駆け出す。


「須藤さん!」


「待て、行くな、あれは最早須藤ではない。」


駆け寄ろうとする寸前にリルエラの前に、黒いマントを広げ腕で静止させる魔王、相手から放たれる異様過ぎる気配に警戒心を顕に睨んでいる。


「ふん、貧弱な体だ、まんまとしてやられたわけだ。」


自身の体の感触を確かめるように握った拳事腕を振り抜く須藤、振った先にいる魔族数人が紙切れにでもなったかのように吹き飛ばされ、森の木々を薙ぎ倒し彼方へと消える。


「矮小な存在達よ、小細工等しようとも運命は変わらんぞ。」


赤黒く染まった目を見開き、周りを囲む者達に向け言い放つ。


「破滅はすぐそこに、俺は世界の破滅を願うものなり。」


禍々しい気配と共に、体の芯を震え上がらせる存在感、世界の嘆きを増長する者がこの世界へ具現する。


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