平和の為にやる事
「さて、話をしようと思ったが、勇者君が深刻なようだ。」
突然現れた須藤が何事も無かったように現状を把握する。
テントの中には十中八九ライオが居て、それをリルエラとローデンが心配しているであろう事、彼にとってそれ位の事は容易に推測できる。
「のぼせ上がった自尊心を砕かれた挙句、自分の存在意義を見失ったという所かな。」
魔王側から一通りの話は聞いてきた、魔族は死ぬ為に人間と戦う、自死する事では解決出来ない為にそうするしかない事も。
「お邪魔するよ。」
現状についていけない2人を他所に須藤がテントへと入っていく、その後をリルエラ達も続く。
「あんたは、勝手に消えてまた出てくるのか、なんだ俺を笑いに来たのか。」
「笑うも何も君と俺は全然接点が無かったろう。」
「どうせあの時の態度が子供にでも見えていたんだろ、担がれてのぼせ上がって、奢ってった勇者ごっこしている子供だって…」
「そこまで思っていた訳では無いが、外れてもいないことは確かだ。」
ライオの言動は八つ当たりに過ぎない、自分の中で消化しきれない葛藤を誰かにぶつけるのが1番楽であるから。
そんな彼の言葉をいなし、逆撫でする言葉を選んで須藤は答える。
「根本が間違っているんだよ、魔族を倒すことが勇者の役割では無い、魔族を救うのが勇者の役割だと言うことに気づかないと。」
「何を言ってるんだ、相手は人間を傷つけるんだぞ。」
ライオには認められない、敵と言うものがあるから勇者なのであって、敵だと思っていた者が最初から違っていたではすまない。
既に彼はその者達を手にかけているのだから。
「傷つけるだけと言えばおかしくなるが、君達はそんな相手の命を奪っているじゃないか、傷つけられたら殺しても構わないと?」
「そ、それは…」
傷つけられただけ、言ってしまえばそれだけ、確かに階級社会では良く死罪になんて事はあるがそれは人間の法であり、傲慢な考えがなければ成り立たない、決まっているからこそそうなるだけ。
魔族との中にそんな決め事もない、傷つけられたから殺す、彼らにとって普通ではない考えが当たり前と勘違いしているだけである、戦争であるという愚かな考えがある故に。
「殺す必要があったのかと悩んでいるんだろ、殺す気もない相手を、それが普通だ。」
状況に流されていただけの青年なのだ、人生経験もないライオが周りに持ち上げられた結果が今の彼の状態を作り出した。
「必要はあった、彼らは世界の均衡の為に死ぬ運命だった。」
冷たい言葉だがそうしなければいけないシステムが出来上がってしまっていた事を今の須藤は知っている。
「俺はこの間違った在り方を壊す為に動く事にした。君はどうする?」
「どうするって言ったって、自分の事ばかりだったんだ、何かを成し遂げようとする意思なんて最初からなかった、勇者なんて呼ばれるような人間じゃなかったんだ。」
自暴自棄に陥ったライオに届かない、誰が諭そうと未成熟の少年が易々と立ち直れる筈もなかった。
「そうか、では君はそのままでいればいい。」
須藤はライオを見限ったかのようにテントから出ていく、リルエラとローデンはそんな2人を見て固まっていたが、すぐ様須藤を追う。
「須藤殿、どういう事です。さっぱり理解出来ないのですが。」
外で待つ須藤の背へローデンが疑問を投げかける。
「端的に説明すると、俺は魔王からこの腐った戦いの目的を聞いた。」
「魔王とお会いになったのですか!」
須藤の口から発せられる言葉には毎度驚くしかないローデン。
「魔族が死ぬ事で破滅を抑えている、その程度だけどね、大体想像がつくよ、破滅を望む者を抑えているんだろう、魔王の中に眠るそいつをどうにかする事が神の意思だ。」
これは須藤の導き出した解答であり、間違いなく正解であるが倒すと明言しなかった。
「そやつをどうにかする事が平和の為なのですな。」
「そうだな、どうにか出来ればの話だけれどね。」
彼の言葉は曖昧過ぎる、ローデンが思った事をリルエラも感じていた。
「何が足りませんか、あやふやに言うって事はまだ足りないんですよね、確信が持てないからそんな言い方なんですよね。」
彼が前に言った言葉、確信がなければ断言する事はない、少しの時間共にしたが須藤という男は掴みにくいが分かりやすい一面も持っている。
「そちら側も協力してもらおう、戦闘の一切の禁止、無理矢理そいつを引きずり出す。」
須藤は魔王とも話し合ったこれからの計画を2人へ打ち明けるのだった。