再びの出会い
勇者ライオ、聖女リルエラは前線に到着し、ライオは日々魔族との戦いに明け暮れていた。
「まただ、また自分から…」
赤い表皮に覆われたオーク、明らかに格上であり、戦っている間も経験不足から圧されるばかりだった。
魔族との戦闘には何処かローデンとの稽古の様なものを感じる。
「なんで、なんで…」
周りの兵士達はライオの斬り殺した、そのオークの亡骸を見てか歓声をあげているが、ライオ自身は自分の不甲斐なさを身に染みて実感するのであった。
魔族との戦いは1度行えばそれなりの被害が出る、戦闘の続行が厳しく1度体勢を整える為に陣営へ戻る、魔城へ攻めいれない理由がここにある。
「ライオ、大丈夫、怪我してない?」
陣営に戻ればリルエラが声をかける、彼女は日々傷つく戦士達の治療を請け負っている。
「大丈夫だ、怪我なんてする筈が無いんだ…」
「そう…」
ここに来てからというもの、ライオの奢りは日に日に大人しくなっていた。
最初こそ俺がいれば魔王討伐なんてすぐに叶うさと豪語していた、彼もそう信じていたのだろうが、この頃は無力感を痛感している。
「する筈がない、誰も本気で戦っていないんだから。」
勇者の力であれば圧倒的にスペックが違う魔族、同じ経験の浅いものならライオも気づくことは無かっただろう。
ただ、最近戦闘するものは経験が違う、技量の伴わないライオではご自慢の勇者の力があっても彼らに手玉に取られてしまうのだ。
「あんな勝ち方ありえない、運で勝てた訳じゃない、わざとだ、それ位俺だって気付く。」
先の赤肌のオークとの戦闘、ライオは終始押されていた、力に特化したオークの攻撃に攻めあぐねた為だ。
それだけでない、ライオの技術面の隙をつき翻弄してくる戦技に勝てないとライオの頭を一瞬過ぎった。
「あの一撃で俺を倒せた筈なんだ。」
体がすくみ斧の一撃をまともに受けたライオ、体勢を崩し膝をついたライオに振られる一閃、ライオは咄嗟に剣を頭上に構えた。
咄嗟に出した剣で受けられるものでは無い、ライオは受け流せる様に剣を傾けていた、そんな小細工でどうにか出来る相手ではなかった筈だった。
「くそっ、こんな戦い無意味じゃないか。」
受け流せる筈ではない斧が自身の剣にそって軌道をずらす様に彼は目を見開いた、そのまま地面に刺さり隙が出来たオークの胴体を真っ二つに斬り離した。
「あんなミスがあってたまるか、あれだけ強い相手なんだ、そんな巫山戯た隙を作る訳がない。」
自身のテントに入り項垂れるライオは握った拳をさらに握り、不甲斐なさに唇を震わすのだった。
「ライオはどうだ。」
ライオのそんな姿を入口で盗み見ているリルエラの背中にローデンの声がかけられる。
「最近は塞ぎ込んでばかりです。」
「それなりに力をつけたからな、違和感に気づけるようになったのであろう。」
長く戦場に身を置くローデルは、魔族の戦い方に殺意が含まれない事を熟知していた。
徹底的に攻める指示を出さないのも今の状況が被害を出さずに戦線を維持できるからである。
「攻めいらなければ怪我人が出る程度ですむ、そんな戦争はありえない。」
「戦っている意味が無いんですか?」
「うぅむ、だからといって守っているだけだと被害が大きくなるのだ、攻め入り過ぎても魔王側の猛攻が激しくなる、守っていても攻められ損害が出る。」
戦う意味が無いのではと先代騎士団長が防衛戦に切り替えた事がある、その結末は多数の重傷者とひとつの砦の陥落という手痛いものであった。
「あちらは私達に間引きさせようとしている気がするのだ、自分達を殺せと守れば攻め此方を躍起にさせる。」
「戦わなければ行けない理由を作ってるのですか。」
「そうだな、程よく相手側へ被害を出していれば我々が大きな被害を受ける事もない。」
魔城へ近づき過ぎれば押し返され、守り過ぎると過度に責められる、程よい小競り合いならば魔族に大きな被害が出るものの此方は戦闘続行不可程度ですむ、茶番劇と言える代物である。
「彼らは何を考えてそんな事をしているのか誰にも分からない、魔族は此方と話し合いを持とうとはしないしな。」
「そこには意味があるんでしょうか、戦争で殺される為に戦う人なんて居るんですか。」
「居るにはいるが、そちらは特殊だ、魔族の様に集団でそれをしようとするのはありえない。」
「それじゃ、私達が戦う意味なんて無いのに、おかしいです、こんなのただの呪いだわ。」
「その呪いを断ち切るのが俺達の役目なのだろうね。」
リルエラがやるせない現状に悲痛な声をあげる、その言葉に答えたのは聞き覚えのある声、 あの日突然姿を消した須藤の姿がそこにあった。