見えてきたパズルのピース
馬車で目を覚ましてから数日、遠目に見える黒い雷雲が掛かった城を眺め須藤は物思いにふけていた。
須藤が道端に倒れていたのを(実際は寝ている間に転移させられただけ)親切にも拾ってくれた魔族の家に世話になっていた。
(予想していた通り無理矢理か、この世界の実情を見せたいのだろうが…ご丁寧に必要物資までしっかり隣に置いて転移とは手厚い)
「雫、シ〜ズ〜ク〜。あしょぼ。」
数日世話になる家の子供、シリエラが彼の座るベンチによじ登り、肩へ小さな手を置き体を揺する。
「シーラは元気いっぱいだ、しょうがないぐるぐるするか?」
見た目は5歳児位の可愛らしい服に身を包む幼女を両手で高く抱き上げながら回ってやる須藤、高く掲げられ楽しそうに無邪気に笑うシリエラ、彼女には2本の小さな角とふわもこな羊毛の様に髪が生えている。
(見た目の違いと言うだけで争いが起こるのが世の常というもの、その弊害を回避する為に人類側と魔族側を分断、不可侵にしているのが遠目に見える魔城か、魔王と連想する人物像とは違いそうだね)
世話になり3日、村の人々の生活、人柄を目にしながら須藤は1つの答えを得ていた。
「シーラは大きくなったら何がしたいかな?」
「またしょれ~、シーラね、皆の為に死ぬんだよ、しょれで魔王しゃまおてちゅだいしゅるの。」
幼児の舌足らずの言葉で返ってくる言葉の意味は残酷な現実である。
偶然耳にしたに過ぎなかった、魔王語りをする母親がシリエラに言い聞かせるように言った言葉が今返ってきたものだ。
他の村の子供達に問い掛けてもそれが当たり前だというように須藤へ返される、宿命づけられたものだと…それに対して強制されていると思うものはいない、一歩間違えば狂信者とも言える。
「そうか…、だけどなもうすぐもっとしたい事が出来る世の中も来るかも知れないぞ。」
「シーラしたい事してるよ?雫とあしょんでる」
未来に選択肢がない事がどんなに不幸か、魔族にはその概念さえ無い、決まった道を進む事当たり前な生贄の種族、それが須藤の認識する魔族というものになっていた。
「須藤、すまないが村長宅へ顔を出してくれないか。」
「呼び出しとは珍しい、どうかしたのかい。」
シリエラの父親が息を乱しながら駆け寄り、須藤の近くで息を整える、かなり焦った事態でも起こっているのが彼の慌てようからも見て取れる。
「至急らしいんだ、来客が君に会いたがってるそうで、須藤を探している。」
(神様とは人を動かすのがお好きなようだ、俺をことごとく誘導してくれる、まぁ、切羽詰まって居るのなら仕方ない事か)
振り回されている事を理解しながら、須藤は抱えていたシリエラを彼に預け、待ち人が待つ村長宅へと向かうのだった。