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異世界ダンジョンの開拓団  作者: ヘプトミノ
プロローグ
1/5

①昔話の幕開け

こちらの小説は気が向いた時にダラダラと投稿していくつもりのものです。更新頻度が激遅ですが、何卒ご容赦ください。

 ここは剣と魔法の世界。冒険者という職業が存在していて、場合によってはダンジョンに入ることがある。

 今、駆け出しのF級冒険者である魔法使いの少女と剣士の少年が、初心者向けのダンジョンへと足を踏み入れていた。


「初めての依頼、上手く行くかな……」

「大丈夫だよ。ここで死んだ人はほとんどいないって言われてるし」


 初めての依頼で委縮する剣士の少年を、魔法使いの少女が励ます。


「ほとんどって……ちょっとはいるってこと?」

「うーん……このダンジョンを最初に冒険した人は、きっと怖かったと思うし、死の覚悟もあったんじゃないかな?」

「今は誰でも攻略できる場所も、昔は未知の場所だったってことか」

「そうそう! 私、昔本で読んだことあるんだけど――」


 松明に導かれ、整備された道を進む。こうして安全にダンジョンを進んで行けるのは何故か。その理由は今から約三〇〇年前まで遡る。



 当時存在していた最大級の国家、ルナティア王国は王国誕生以来最大の危機を脱した直後だった。

 その最大の危機とは何か。それは魔族と人間の戦争である。魔族は魔王と名乗る人物一人が軍全体の指揮を執っており、統率が取れていた。一方の人間側は、数では優っていたが、多くの国の統合軍で統率が取れていなかったのだ。


 それ故に人間側は追い詰められた。ルナティア王国の王城に侵攻されるかどうかという時、遂に、奇跡が起きた。


 一人の少年が世界を救う勇者として魔族に果敢に立ち向かっていったのだ。彼は仲間と共に人類に希望をもたらした。魔族軍の中で明日にでも王城侵攻をしようか、と話している時に、魔王は勇者に討たれ、その知らせを聞き士気を取り戻した人間の軍に、魔族の軍は蹂躙された。

 そして今はまさに、平和への第一歩である復興活動をしているのだ。


 この世界において、勇者は生きる伝説である。


 沢山の人々が復興工事に従事する中、ルナティア王国の首都に住む一人の少年も同じように自身の庵を修復していた。


「はぁあぁぁ……完全にやられちまった。参ったぞ……」


 全身に結構な数の装飾品を着け、鮮やかな光沢を持つ金髪を揺らす少年は、倒壊した自宅を前にスッカラカンになった財布をひっくり返していた。

 当然、欲しい物が財布から出て来る訳もない。

 それでも暫くの間は粘っていたが、やがて財布の金具に映る現実が見えたのか、財布を振るのをやめた。


「商品は無事だったが、風穴の空いた家には寝泊り出来ないな。このまま乞食になっちまうのかなぁ」


 虚ろな目で思い出深い母屋を見る彼の名前はハイド=オークス。職業は、アクセサリー屋。

 街に住む庶民から、武器を持って世界中を駆け回る旅人に至るまで、ありとあらゆる人々に装飾品を売るのがハイドの仕事だ。

 派手な見た目も、職業柄仕方なくしているに過ぎなかった。


 外見も職業も相まって、ハイドは街中で広く知られていた。だからなのか、戦後の大変な時期でも、お客さんはやって来る。


「あ、あの……」


 今日のお客さんは小さな女の子とローブを着た謎の人物。女の子の手には一枚、小銭が握られている。


「ん? あぁ、いらっしゃい。戦前より寂れたけど、まだまだ潰れねぇよ」


 ハイドは手を繋ぐ二人組に微笑みかける。するとローブの人物に促されるように女の子が一歩前に出た。


「お兄ちゃん、これで怪我が早く治るアクセサリーください!」


 女の子はおもむろに、小さな手に乗った小さなコインを差し出した。


 こんなお金で買えるものなどない。それに、こんな時期にモノを売っても損にしかならない。

 同時に、ハイドは一つ疑問が浮かんだ。この女の子、首にやけに豪華なネックレスをしている。それなのにこんな小金で買い物をすることが不思議でならなかった。

 普通の人間であれば、そう言って女の子を跳ね返すだろう。或いは悪い大人なら、女の子にもっと高い金を出させようとするかも知れない。だが、ハイドは違う。


「うーん……ちょっと待っていてくれ」


 ハイドは天井が穿たれた廃屋の奥から、一枚の薬草の葉を持って来た。そして女の子の前に膝を突き、中指にくるりと巻いて紐で留める。


「毎度あり。それは薬草の指輪だ。表面を削って効能が出るようにしている。……他の誰かの怪我を治すのに使いたいのなら、なるべく多くその人に触れてやるんだ」


 女の子はハイドに礼を言うと嬉しそうにローブの人物の手を引いて帰って行った。


「ま、ああやって笑ってくれる人がいるのなら、俺ももうちょっと頑張ってみるか」


 父の言葉を思い出し、ハイドは天を仰いだ。


 ――人生は、自分が主人公であると物語であるのと同時に、他人の人生を彩る脇役である。

 だから誰かの人生を彩る脇役になれ。


 ハイドの父は先の戦いで命を落とした。だとしても、残された息子は広く陽の当たる未来を見ている。


「さてと、素晴らしき脇役になる為に、今日も汗水垂らすとすっか」


 再び金槌に手を伸ばした時、遠くから悲鳴が聞こえて来た。


「た、助けてえぇっ!」


 幼い女の子の声。そして距離感。先程会った女の子だと気付いたハイドは、すぐに現場まで向かう。

 そこには翼を持った奇妙な鳥型の魔物と、指に薬草の指輪を巻いた女の子の姿があった。

 女の子を守るように覆い被さっているローブの人物は服がズタズタになっていた。


「なっ⁈ 街中に魔物かよ⁈」


 魔王が倒れたことにより、完全に平和が取り戻されたかと言われれば、そうではない。魔王や魔族が残した副産物として、人間が存在する限り永久に湧き続ける『魔物』が挙げられる。


 ハイドは腰から短剣を抜くと、すぐさま構え、魔物と二人の間に入り込んだ。

 真っ直ぐに魔物の目を見据えると、身を震わすような低音を響かせた。


「へぇ、いい羽根を持ってるな。俺に少し分けてくれよ」

「ギョエエエエエェェェェ!」


 ハイドの挑発を受け、鳥型の魔物は目標を変えた。鋭い嘴を閉じると、滑空するように突進攻撃を仕掛けて来た。


 その速度はまさに疾風迅雷。普通の人間であれば反応することは不可能。

 ローブの人物に守られていた女の子も同じように思い、思わず目を瞑った。


(のろ)い!」


 しかし、何があったのか。ハイドは高速で短剣を振ると、魔物の体が縦に割れた。短剣を持つ手には、薄緑色の宝石が嵌った指輪が装着されている。


「さて、戦利品を頂いていくぞ」


 灰になった魔物が残していった羽毛を懐にしまうと、背後に待機していた女の子がハイドの脚にしがみついた。

 ハイドは自身の膝がじんわりと濡れていくのを感じた。気付けば女の子の頭に手を置き、優しく撫でていた。


「あ、ありがとう……助かった……」


 女の子を守っていたローブの人物がハイドに礼を言った。声から女性だと気付き、ローブの人物の正体に一歩近付いた。


「いや、いいんですよ。それより、服が破れてますから、俺のマントでも貸しましょうか?」

「大丈夫だよ。わたし達、もう帰るだけだし」

「そっすか。なら、家まで送りましょうか? こんな時代じゃ人攫いとか盗賊も腐るほどいるでしょうし」


 と言いつつ、その手の話に誰よりも敏感になっていたのは他でもないハイド自身。自宅の金庫のことを案じていた。


「そ、それなら君のマントを借りたいかな」


 先程から謎の多いローブの人物に首を傾げていると、この狭い路地の入り口付近に王城勤めの兵隊が集まって来た。


「あっ、じゃああの人達に送って行って貰うように頼みましょうか」


 丁度、兵士の一人と目が合ったハイドは、軽く会釈をした。向こうも同じような反応をするだろうと期待していたが、帰って来たのは挨拶ではなかった。

 兵士はハイドに向けて槍の先を向け、他の兵士に指示を出すと、ハイドはあっという間に兵隊に囲まれてしまった。首元寸前まで刃を突き付けられ、唾を飲み込んだだけで怪我をしそうだ。


「貴様は賊か? それとも人攫いか?」


 兵士の一人がハイドに尋ねる。ハイドは抵抗したりせず、両手を上げ、短剣を地面に落とした。


「どっちでもねぇよ。俺はサンドリャン通りに住むハイド=オークスだ。職業はアクセサリーショップ経営」


 掠れるような声でハイドは答えた。

 ハイドの肩書はアクセサリーショップ店主。この時代にはまだジョブという概念は無く、人は肩書を職業としていた。


「怪しいな」

「嘘だと思うなら逮捕して住民票でも何でも確認してみろ。国勤めなら戸籍の確認くらい、造作も無いだろ」

「では、その通りにしよう。おい、コイツを縛り上げろ。ルナティア王国第二王女及び第三王女誘拐未遂の罪で逮捕だ」


 王女という言葉を聞き、ハイドは全身から血の気が引いた。恐る恐る魔物から助けた二人に目を遣ると、既に兵士に捕まっていた。ローブの人物は兵士に何かを必死に訴えているようだったが、ハイドの耳には届かない。

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