ゆずき、トウヤ、さやか、理都、ペロ、リン
あの事件から一ヶ月余り、事務所近くの神社では、今、紫陽花が満開だ。ああそうだ、この間買ってきた梅の実で今年も梅酒を漬けるとしよう。
「にゃぁぁぁ〜」「にゃごぉ〜ゴロゴロ」
「はい、はい、ペロ、リン、晩御飯の時間だよぉ、仲良く食べてね」
戦国ケ原探偵事務所は、新しい仲間、猫のリンを迎えることとなった。今日は、さやかが来て二匹の世話をしてくれている。
そう、今夜は、ゆずき退院のお祝い会なのだから。
フライドチキン、フライドポテト、フィッシュ・アンド・チップス、コールスロー、スコーンにメープルシロップ、ジンジャーエールにポートワイン、そして、今度は俺が予約した、ちゃんと丸いホールケーキ、全ての準備が整った。
ゆずきは本当に幸運だったのだろう。ちょうど低木の上に落下したようで、木がクッションになり命拾いした。もっとも、左足を骨折し、しばらくは松葉杖生活となるようだが、明日から探偵事務所は営業を再開することになっている。
当面の外回りは、といっても猫探しなんだが、俺の担当、ゆずきが事務所から電話で指示を飛ば方式だ。彼は「アームチェア・ディテクティブだ!」などと妙にテンションが高い、俺には不安しかないのだが……。
ま、何はともあれ、一段落、皇さんを含めた四人が事務所に集まり、いよいよ、祝宴が始まる。
「では、僭越ながら、私、皇が乾杯の音頭を取らせていただきます。ゆずき君の退院を祝って、Cheers!!」
皇さん、この間見せた警部の顔はどこへやら、今日はいつもの大家たんだ。
「いや、まぁ、超常的というか、トウヤ君といい、ゆずき君といい、その強運は、まさに神の御業、サクラメントとでも表現すべき奇跡ですね」
「それはちょっと違うと思う。恩寵の中で最も価値あるものは日常、変事が起きぬことだよ。本当に運がいい人は、刺されたり、五階から転落したりなんて、一生経験しないんじゃないかな」
「ここに、二度も誘拐されそうになった人がいますよ?」
「て、さやか、それ、洒落にならんから」
「そうじゃなくて、敢えて洒落にしているのよ。いろいろあったけど、私たちは、ここでこうして、楽しく会食している。だからね、笑い飛ばして忘れましょ!」
「さすが、妹ちゃん、いいこと言うね。ネガティヴ思考ほど、非生産的なものはないよ。ね、トウヤ君」
「それは分かります、さやかの言う通りかもしれません。ですが、所長、一言だけ言わせてください、俺たちは探偵であって警察ではありません。もう、あんな無茶は止めてくださいね」
「まぁ、まぁ、あれについては、ゆずき君も十分反省していることだし、トウヤ君、それくらいで勘弁してやってください。だけど彼の咄嗟の行動、鋭い推理力のなせる技だと思いますよ」
皇さんが、ゆずきを評価するのは分からないでもない。彼はベランダから容疑者が出たのを見て、彼女の自家用車はマンション駐車場に置いていない、と見抜いたのだ。
マンションの表側から包囲した警察は、まんまと裏をかかれ、連続誘拐殺人犯の逃走を再び許してしまった、ということのようだ。
「ま、顔も名前を分かって、指名手配がかかりましたから、容疑者逮捕は時間の問題だと思いますよ」
「そうだね、もはや、ヤツが世間を騒がせることはないでしょう。てことで、さぁ、さぁ、今夜は飲みましょう!」
「本当に所長は、のんきなんですから」
「お兄ちゃん、いつも、ゆずきさんに厳し過ぎ。ま、だけど、それだけ二人の絆が固いということかな?」
皇さんの言う通り、早晩、犯人も逮捕されるだろし、少なくとも血生臭い事件が繰り返されることはないだろう。
その夜、四人は大いに食べ飲んだ。
「じゃ、私、ケーキを切りますね」
さやか今夜は、丸いケーキを切り分け始めた。俺は、例によって、酔い覚ましの紅茶を淹れる。ひさびさ揃った事務所のメンバー、再び戻ってきた日常。
「なに? お兄ちゃん、ジーッとみんなを見つめて。妹に見惚れるなんて、不謹慎ですよ」
「そ、そんなんじゃないから」
「ホントかなぁ〜 でもね、改めてありがと、お兄ちゃん。睡眠薬で意識が遠ざかる中でも、私、ちっとも怖くなかったわ。だって、私の騎士殿が必ず助けに来てくれるって信じていたから♪」
伏目がちな、さやかの頬が少し赤らんだように見えたのは幻影だろうか?
戦国ケ原探偵事務所に再び戻って来た、平穏な日々。ゆずき、さやか、皇さん、俺と二匹の猫、どうか今度こそ! この日常が夢幻泡影となりませんように……。
ソラアイに シアワセ謳う フレンズと ずっといっしょ 続け未来へ




