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やるせなき脱力神番外編 未定  作者: 伊達サクット
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番外編「未定」2

 見渡す限りの広大な草原。

 四人のケンタウロスが自らの絶対領域と言わんばかりに、平坦な大地を疾走する。

 先頭を走るのは、このケンタウロス小隊のリーダー、リリーラクシュレイ。

 眩い金髪を振り乱す女騎士。豪奢な装飾を散りばめた鎧はガンナーヒル家の、かつての威光の象徴。

 白馬の下半身の腰の左右からは一対の純白の翼が生える。ペガサスの下半身。

 カルミアはいつも羨む。リリーラクシュレイやファウファーレの持つ翼を。

 同じ半人半馬の体をもって生まれながら、なぜ彼女らには大空を自由に飛ぶことが許され、自分は地を走ることしかできないのか。

 リリーラクシュレイやファウファーレのように、遥か天空から、谷を越え山を越え、遥か小さくなった地表を見下ろしたい。

 きっと、カルミアだけでなく、二番目と三番目を走るエマとレッカもそう思っているはずだ。

 いつ頃からだろう。

 戦闘中にこんな余計なことを考える余裕が生まれたのは。

 四人で必死に鍛錬を重ね、実力を上げていき、中核従者に昇格できた辺りだっただろうか。

 まだカルミアが平従者の内に、リリーラクシュレイは管轄従者に昇進しており、エマやレッカも一足先に中核従者になっていた。

 ようやく遅れてカルミアが中核従者になり、一応チームとしての形が落ち着いた感じがある。元々四人の中では妹的な存在だったから、一人遅れを取っていたことに、それほどコンプレックスや焦燥感はなかった。

 ただ、リリーラクシュレイの翼には嫉妬していた。リリーラクシュレイに、ガンナーヒル家に誓った忠誠とはまた別の感情として。

 ザットと出会うまでは、自分の漆黒の体毛も好きになれなかった。リリーラクシュレイの純白の毛並みはもちろん、エマのオーソドックスながらも艶のある栗色や、レッカの燃えるように赤い毛並みも羨んでいた。

 重たい鎧を着たザットを乗せて鍛え上げた四本の脚で、リリーラクシュレイの疾走に追随するカルミア。眼鏡がずれ、その都度中指で位置を直す。

「来たわよ! エマとレッカは左右に散開! カルミアは後方から魔法で援護しつつレジブクローさんの救助!」

「ハッ!」

 リリーラクシュレイの号令により、エマとレッカは左右に広がり、カルミアは蹄を止め、遠方から迫りくる悪霊ポンを見据えながら魔導書を開く。

「ポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポン」

 悪霊ポンが禍々しい波動を放って攻撃してくるが、カルミアは魔導書の防御魔法が封印されているページを開き、魔力を纏わせた指先を滑らせ封印を解除。ページから放たれた魔力の奔流はリリーラクシュレイ、エマ、レッカ、そしてカルミア自身を包み込み、悪霊ポンの攻撃から身を守る。

 すぐさまカルミアは攻撃力上昇の魔法が封印されるページを開き、再び仲間達にかける。

 エマやレッカは大地を踊るように悪霊ポンの攻撃を軽くいなす。そして二人が注意を引きつけている内に、リリーラクシュレイは助走をつけて両翼を広げて飛翔し、空中を飛び回る悪霊ポンに肉薄。ガンナーヒル家の紋章が刻まれたランスで悪霊ポンを貫く。

「ポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポン」

 体を貫かれた悪霊ポンが、怒り狂ったように拳を振りかざして連撃を加えるが、リリーラクシュレイは全てをランスで受け止め、逆に前脚のハイキックで悪霊ポンを後方に蹴り飛ばした。

 その隙に地上からエマとレッカが矢を放つ。二発とも命中するが、悪霊ポンは怯まない。

 カルミアは探索魔法のページが封じられているページを開き、魔力を帯びた指先でなぞる。魔術書から周囲一帯に向けて、サークル状の魔力の波紋が広がっていく。

 リリーラクシュレイや悪霊ポンよりもっと向こう側。そこに一人の反応。魔術書のページに赤く光る点で表現される。

 カルミアがページに示された地点を目指して戦場を走る。悪霊ポンが下降し、リリーラクシュレイが追う。それをエマが矢で迎撃、レッカは腰の鞘から長剣を抜いて迎え撃つ。

 迂回して反応が出た地点へ走る途中で、カルミアも魔術書を持っていない右手から、氷属性の中級魔法を自力で放って仲間を援護。

「ポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポン」

 悪霊ポンは全身が凍り付いて地面に落ちるが、すぐに熱気のようなオーラを放ち、一瞬で氷を溶かしてしまった。

 しかし、その一瞬でリリーラクシュレイ、エマ、レッカが敵を包囲する。この一発だけでも十分貢献はできただろう。

 もちろん、カルミアは魔術書がなければ魔法を使えないなどということはない。寧ろ並の魔法使いよりよほど使える自負はある。

 ただ、自分で詠唱するよりは、魔術書に封印された魔法を解放して戦う方が効率的だからこのスタイルを採用しているだけである。おまけに、先程の探索魔法のように、自分が習得していない魔法もカバーできる。

 魔法の使い手によって、色々と賛否両論あるが、カルミアはお手軽で手っ取り早く、リーズナブルで効率的な魔術書を存分に有効活用していた。

 反応があった場所。

 長く伸びた草むらに隠れるように、レジブクローは倒れていた。

 上半身裸の筋骨隆々。魔族タイプで肌は青い。二本の鋭い角が生えるスキンヘッドの大男だ。

 リリーラクシュレイがあれほど己の勢いを過信するなと諫めたのに、図に乗ったレジブクローは独断専行で悪霊ポンに攻撃をしかけ、返り討ちに遭い虫の息だ。

 結果的にリリーラクシュレイの小隊の足を引っ張ることになった。

「ち、畜生……、畜生~……っ! こ、このレジブクロー様があんな雑魚にぃぃ……、悪霊……ポン……如きにぃぃぃ……。ウィーナ様ぁぁぁ……」

 震えながら野晒しになり、息も絶え絶えに悔しがるレジブクロー。

「レジブクローさん!」

 カルミアがすぐに駆け寄る。

「は、はうううぅぅぅ……。カ、カ、カルミアァァッ……、た、助けてくれぇ……っ! し、死ぬうぅぅぅ……」

「もう大丈夫よ!」

 カルミアが魔術書の上級回復魔法が封じられているページを開放し、すぐさまレジブクローを治療する。

「おのれええええっ! よくもやりやがったなぁ! もうさっきのようにはいかないからなぁ!」

「あっ!?」

 カルミアが止める間もなく、レジブクローは顔を真っ赤にして、両腕を振り上げ悪霊ポンやリリーラクシュレイ達が戦う場へと飛び込んでいった。

「ポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポン」

「ぐわああああ!」

 レジブクローが悪霊ポンの攻撃を食らい、カルミアの側に吹き飛ばされてきた。地面をゴロゴロと転がり、仰向けに倒れる。全身ボロボロで虫の息だ。

「あ~ばばばばぁ! ば、馬鹿な、そんな馬鹿なぁぁ……! ちくしょおおお……。カ、カルミア、た、助、助けてくれぇぇぇっ……! ああ~、だ、駄目だぁぁぁ……」

「ええっ!? は、はい」

 あっという間に戦闘不能になったレジブクロー。カルミアは戸惑いながらも再び本を手に、レジブクローを回復させる。

 悪霊ポンがレジブクローを攻撃している最中の隙を、リリーラクシュレイは見逃さなかった。

 リリーラクシュレイが悪霊ポンに向けて魔力を込めた左手をかざす。

「ハァッ!」

 すると、形成された光り輝く魔方陣から、幾つもの光に包まれた楔が放たれ、悪霊ポンに降り注ぐ。

「ポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポン」

 悪霊ポンは数多の楔に貫かれ、地面に打ち付けられた。

「ポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポン」

 激しく抵抗するものの、身動きが取れないようだ。

「ちくしょおおお! やりやがったなああああっ! ぶっ殺してやるううううっ!」

 元気になったレジブクローが両腕を激しく振り回しながら、身動きの取れない悪霊ポンに突撃していく。

「ちょ、ちょっと」

 カルミアが止める暇もない。

「ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン」

「ぐえええええーっ!」

 上空から謎の波動が降り注ぎ、レジブクローに直撃。大爆発を起こす。

 エマは盾で余波を防御し、レッカは四本の脚を躍らせ距離を取る。

「くっ!」

 カルミアは腕で顔を覆い飛び散る粉塵や煙を防ぐが、飛び散った鋭い石の破片が下半身の所々に刺さった。

「つっ……!」

 カルミアは歯を食いしばって痛みを堪える。黒い体毛に幾筋も赤い血が流れていく。

「ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン」

 レジブクローを上空から攻撃したのは悪霊ドンだった。敵がもう一体、追加で現れたのだ。

「悪霊ドン! こっちの方まで来るなんて!」

 そう言ってレッカが青い髪を振り乱しながら、上半身を前のめりにして悪霊ドンに駆け寄り、蹄で地面を蹴り、前脚を折り畳み勢いよく跳躍。

 真っ赤な馬の下半身を宙に躍らせ敵と交錯。すれ違いざまに長剣で切りつける。

「ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン」

 悪霊ドンが着地して背後を見せたレッカに波動を放とうとするが、翼を羽ばたかせ滞空していたリリーラクシュレイが急降下し、悪霊ドンを蹄で踏みつけ、地面に着地する。

「エマ! そちらは任せましたわ!」

 リリーラクシュレイがエマに指示を飛ばす。

「了解!」

 エマが鎮霊石を取り出し、楔に打ち付けられた悪霊ポンの捕獲作業に入る。

「ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン」

 悪霊ドンがリリーラクシュレイに標的を変えて波動を放つ。

 リリーラクシュレイは左右に大きく広がる純白の翼を、黄色く光る魔力で覆い、前方に幕を張るかのように交差させた。

「ハァッ!」

 そして、その光り輝く翼を左右に勢いよく開くことで波動を弾き返し、悪霊ドンに跳ね返した。

「ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン」

 自分の波動を自分で食らい、悲鳴を上げる悪霊ドン。

「ぐふえぇぇ……、駄目だぁぁ……! カ、カルミアァァァ……! 助けちくりいぃぃぃ……。死にたくないぽぉぉぉぉ……!」

 レジブクローが息も絶え絶えに、再びカルミアに助けを求める。

「またしても! 何てことなの!?」

 カルミアが再び魔術書を手に、上級回復魔法をかける。これで貴重な高度な回復魔法を三ページ分使ってしまった。


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