ゴキブリの長
あらすじ
マリンフォールへと着いたシェリル。だが街の住人の姿は無く、道に並ぶ店はどこもシャッターを閉めて閉じこもっていた。
裏道で開いていたバーで変異体の情報を聞き、シェリルは写真に書いてあった下水道へと降りる。
そこには、写真に写っていたゴキブリの変異体が潜んでいた。
振り下ろした剣は簡単に変異体の体を切り裂いた。斬ったシェリル自身、見た目とは裏腹に柔らかい変異体の脆さに思わず拍子抜けした。
「随分呆気ないな・・・ま、こっから出れるんなら早い事に越した事はない。」
斬り殺した変異体に背を向け、清掃屋に連絡を入れる。清掃屋とは、厄介屋が変異体を殺した際に利用する議会直属の清掃員。防護服に身を包んだ集団が変異体の死体を回収し、議会の研究室にて依頼内容の対象と確認を取ってから厄介屋に連絡を入れ、その後にようやく厄介屋に報酬が入るという仕組みになっている。
清掃屋が電話に出るまでにシェリルはタバコを吸おうとライターを取り出した時、カサカサという音が後ろから聴こえてきたのを耳にした。
後ろを振り向くと、先程斬り殺した変異体の周りに4体の同じ変異体が集まってきており、更に暗闇の奥からも変異体の足音と思わしき音が複数体近づいてきているのを聴き取った。
『はい、こちら清掃屋。』
「悪い間違えた!まだ依頼は終わっていない!後で掛け直す!」
電話を急いで切り、シェリルは変異体がいる方とは逆方向へと走っていく。走り出したシェリルと同じタイミングで、変異体達も動き出した。変異体は床や壁に動き回り、大きく裂かれた口を開き、中に生えている無数の小さな牙をウネウネと動かしながらシェリルの体を今か今かと噛みつこうとしている。
入ってきたマンホールの場所まで来たシェリルは、まだマンホールの蓋が開いているのを見て、上で待っている男に大声で叫んだ。
「蓋を閉めろー!!!早く!!!」
上で待っていた男は、最初こそシェリルが何を焦っているのか分からなかった様子だったが、シェリルが去っていったすぐ後に通り過ぎていった巨大なゴキブリの群れを目にし、慌てて蓋を閉めた。
マンホールの蓋が閉まった音を聴いたシェリルは後ろへ振り向き、迫り来る変異体の群れを待ち構える。不自然に動く変異体の牙に噛まれるとマズい事を直感で察したシェリルは、背中に背負っていた剣の鞘も取り、二刀流で迎え撃つ。
なだれ込んでくる変異体を通り抜けるように斬り進んでいき、剣で斬れなかった変異体の口に鞘を叩き込み、牙を粉々に砕いていく。
我武者羅に斬り進んでいくと、変異体の群れの中を通り過ぎ、20体はいた変異体は残り6体となっていた。残る6体の口には脅威となる牙は無く、シェリルは自分から変異体の方へと突っ込んでいく。
すると、変異体は背中をかっ開いて、中から四つの羽を生やして飛び出した。向かって来る・・・と思いきや、変異体はシェリルを避けるように通り過ぎ、逃げるように飛び去って行った。
「逃がすか!」
シェリルは鞘を背負い、剣を逆手持ちに変えて変異体を追う。しばらく追っていくと、道が二手に分かれており、変異体は半々に分かれて行った。
「面倒な・・・!」
まずは直進していった変異体を殺そうと直進していき、腰に隠していた三本のナイフを3体の変異体に向けて投げ飛ばした。ナイフが刺さった変異体は痛みで動きが止まり、その隙にシェリルは3体まとめて真っ二つに切り裂いた。
ずっと走りっぱなしだった為、流石に息が荒れてきたシェリルは一度息を整えようと壁にもたれかかったが、奥の方から変異体の羽音が聴こえ、休む間もなく再び走り出した。
走った先も二手に分かれており、先程曲がり角を曲がっていた3体の変異体が左の方から姿を現した。シェリルはまとめて切り裂こうとしたが、疲れから1体斬りもらしてしまう。
「くそっ!斬りもらしたか!」
残るは後1体。シェリルは疲れを無視しながら残る1体を追いかけていく。走っていく中、前方にまた二手に分かれる場所があり、変異体が僅かに曲がろうとする体の反応をしているのを目にしたシェリルは、壁を蹴って斜めに飛び、変異体が減速する曲がる瞬間のところで切り裂いた。
「はぁはぁ・・・あぁ~、キッツ。いつまで走らせるつもりだったんだ?」
疲労感に嫌気がさしながらも、最後の1体を殺したので、これでようやく仕事を完了出来たとシェリルは安堵した。
が、その時。
「・・・嘘だろ?」
奥の方から、変異体の羽音がシェリルの耳に入った。それも1体だけではない。先程よりも音が多い。シェリルは吸おうとしていたタバコの箱を嫌々ながらポケットにしまい、体を伸ばしながら疲れを声に漏らした。
「あと何体いるんだよ・・・!くそっ!」
剣を握り直し、音が聴こえる方へとシェリルは走っていく。しばらく走っていくと、広い空間に出た。天井も高く、筒状の建物の中みたいな場所だった。
そして目を疑った。天井に続く壁一杯にゴキブリの変異体がギッシリと集まっており、そのどれもがこの空間に足を踏み入れたシェリルへ牙をウニョウニョと動かして涎を垂らしていた。
「ははは・・・カメラでも持ってくるんだったな。」
シェリルは100体は軽くいる変異体の集合体を見て乾いた笑い声が出た。もちろん、この数をシェリルが対処できないという訳では無いが、100体もの巨大な黒い物体がウネウネと蠢く様は気味が悪かった。
変異体がシェリルへと飛びかかろうとした瞬間、変異体達は何かに怯えるように身を震わせ、一か所だけ妙に集まっていた変異体が散り散りになり、そこから一人の男が姿を現した。
ボロボロのローブを身に纏い、男の頭には二つの黒い触覚を生やしている。
「親玉か。」
「・・・子分どもがうるさくしていると思って目覚めてみれば・・・また懲りずに厄介屋が来たか。」
「そうだ。てめぇら害虫駆除を委託された者だ。」
「前に来た連中と同じで口だけは強そうだな。」
「口だけかどうか、確かめてみたらどうだ?ゴキブリ共の王様さんよ。」
「ロウガンだ!」
ロウガンは張り付いていた壁から飛び出し、シェリルへかかと落としを振り下ろした。それを剣で受け取める際に見えたロウガンの足は黒い鎧のようだった。