変異体
あらすじ
パフロフ村に着くや否や、試験として複数の男と戦わされた。難なく勝利したシェリルは村の長の案内のもと、今回の仕事の依頼人である巫女と対面する。
巫女は不思議な力【星云法】を見せ、自身が星を読み解く星見の巫女である事を明かした。
そんな巫女からお願いされた依頼は、自身の娘であるミユという少女が巫女の儀式を終えるまで護衛してほしいというものだった。
村の巫女からの依頼を受けたシェリルは、巫女の娘であるミユを連れて村の後ろにある暗い森の中を歩いていた。ランタンを持っているとはいえ、暗闇に包まれた森の中では心もとなく、ミユが何度かつまづく場面があった。
その度に立たせようと手を差し伸べるが、ミユは頑なにシェリルの手を借りずに立ち上がり、前へと進んでいく。
しばらく進んでいくと、またミユがつまづいてしまい、見かねたシェリルは強引にミユの体を引っ張り起こす。
「触るな!よそ者が!大体、何故お前はつまづいたりしないんだ!」
「職業柄、暗闇の中でも多少は見えるようになったんだよ。」
「・・・厄介屋と言ったか?どんな仕事をしているんだ?まぁ、お前のような野蛮で無礼な奴がする仕事など、碌な仕事ではないだろうがな。」
「厄介事を片付ける。読んで字のごとくの仕事さ。」
「お前!私を厄介者だと思っているのか?」
「いちいち喧嘩を売るな。お前こそ、礼儀作法がなってないんじゃないのか?」
「馬鹿にするな。お前以外の者には礼儀正しく振舞っている。」
「つまり、今のお前が本当のお前なんだな。」
このように、ミユはやたらとシェリルに対して高圧的に接しているが、シェリルはそれをあまり気にせず、常に周囲を警戒しながらミユと一定の距離を保って進んでいた。
巫女が言っていた道中あらゆる危険があるという言葉は間違いではないようで、周囲のどこからか誰かに見られている気配を感じ取っていた。
(野生の動物とは違う。常に私達を監視している。探りを入れるか?・・・いや、この子が襲われる危険性もある。あまりリスクが高い事は出来ない。)
暗闇のどこかにいる誰かを警戒し続けるシェリル。そうとは知らず、ミユは相も変わらずシェリルに悪態をつきながら先へ先へと進んでいく。
すると、近くの茂みから物音が聴こえ、驚いたミユは声をげてしまう。
「ひぃ!?」
さっきまでの言動から反転し、シェリルのコートを掴みながらその場から動けずにいた。
「何の音?」
「あれは違う・・・。」
「え?」
シェリルは茂みから聴こえてきた物音には目もくれず、依然としてどこかから感じる視線に警戒を続けていた。
二人がその場に立ち止まっていると、また茂みから物音が鳴り、暗闇の中で二つの小さな青い光が現れた。その光はゆらりゆらりと二人の方へと近づいていき、その光が近づくにつれ、ミユの震えは激しくなっていく。
「ねぇ!あれは何なの!?」
「少し静かにしてろ・・・。」
「静かにって・・・あんたは私を守るために母上から頼まれてるのよ!」
ミユの必死な訴えに聞く耳を持たず、シェリルは近づいてくる光を気にせず、視線の居場所を探り続ける。
すると、感じていた視線の気配がどんどんこちらへと近づいてくるのを感じ取り、シェリルはその方向に目を向けた。近づいてくる光とは別方向に目を向けているシェリルを見て、ミユは怯えながらも怒った口調でシェリルに怒鳴りつけた。
「どこ見てるのよ!あいつは私達の目の前にいるのよ!?」
「・・・来た!」
シェリルは背中に隠していた剣を引き抜くと同じタイミングで、暗闇から人の形をした化け物が現れた。
化け物はカマキリの刃のような両腕を素早く振り下ろし、シェリルは剣で防ぐ。シェリルは剣を引き抜こうとしたが、剣が両腕の刃のギザギザに食い込んでいて引き抜けない。
「ひっ・・・!?」
ランタンの明かりに照らされた化け物の顔がゆっくりとミユの方に向く。赤く大きな目で睨まれながら、虫のような口がカクカクと動いてる。
この世の者とは思えぬ化け物の姿にミユは腰が抜けてしまい、座り込んでしまう。
「ぁ・・・ぁ・・・。」
「珍しい物を連れてるな、厄介屋!」
「しゃ、喋った・・・!」
「少し待ってろミユ!すぐに終わらせる!」
シェリルは剣から手を離し、腹部にパンチを当て、化け物が怯んだところで再び剣を握り、そのまま化け物を木まで押していく。化け物はシェリルを押し返そうとするが、力比べはシェリルが勝ち、剣を化け物の首にまで押し出し、化け物の頭を掴んで無理矢理剣を首に食い込ませて首を斬り取った。
ドサリと倒れた首の無い化け物の姿に吐き気を催したミユは何とか堪えるが、シェリルが持っている化け物の頭部を見て、吐いてしまった。
「おぇ・・・うぇぇ・・・!」
「変異体が出る森とはな。ミユ、お前知ってたか?」
「うぅ・・・知らない・・・私はただ、山の頂上に行く道しか教えられてない。」
「そうか・・・。」
化け物の腕に食い込んだままの剣を引き抜き、再び剣を鞘に戻すと、ミユを抱きかかえ再び進み始めた。
「ねぇ・・・変異体って何なの・・・?」
「人に擬態する化け物さ。今見たのが本来の姿。私達厄介屋の仕事のほとんどは奴らを狩る事だ。」
「みんな、シェリルみたいに簡単に倒しちゃうの?」
「いや、そうとは限らない。厄介屋だからって変異体に殺される事もある。さっきの奴はまだ弱い方だ。」
「あれよりもっと恐ろしいのが・・・?」
「ああ。どこか休める場所を探して少し休もう。お前にも聞きたい事があるしな。」
随時続きを投稿していきます。