パフロフ村
あらすじ
シェリルはとある村の子守を依頼される。子守が苦手なシェリルは、今回の仕事に気怠さを感じながら、目的地のパフロフ村へと辿り着いた。
あれから更に一時間程経ち、ようやく目的地であるパフロフ村へと辿り着く事が出来た。
「ジェイコブ、陽が昇る頃に戻ってこい。いいな?」
「分っかりました姐さん!」
シェリルを降ろすと、陽気にクラクションを鳴らしてジェイコブは戻っていった。
「・・・さて。」
目的地であるパフロフ村に辿り着いたシェリルだったが、そこは家と思わしき建物は存在せず、草に覆われたテントのような物が点々と置かれてあった。
「村・・・というより、集落だな。」
すると、ひとつのテントから髭を長く伸ばした高齢の男が出てきた。男はシェリルを見るや否や、手に持っていた笛を吹くと、他のテントからゾロゾロと他の住人が出てくる。
「お待ちしておりましたぞ、厄介屋の者よ。」
「あんたがこの村の長か?」
「ええ、ギムルと申す。」
ギムルはシェリルに手を差し伸べ、握手を求めたが、シェリルはそれには応じず、仕事の話を進めてしまう。
「悪いが握手は無しだ。さっさと仕事を終わらせたくてね。」
「・・・そうですかい。では・・・。」
「「「「「やぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」」
ギムルが手を上げると、村の若い男達が雄たけびを上げながらシェリルの前に出てくる。
「・・・仕事に取り掛かりたいと言っただろ?こいつらとダンスがしたいなんて言っていない。」
「もちろん仕事の話をしよう。だがまずはお前の力量を確かめる。武器は使わずに彼らを倒してみろ。仕事の話はそれからだ。」
ギムルが後ろに下がっていくと、男達はシェリルを囲むように広がり、シェリルに一礼してから構えをとった。
「こりゃご丁寧に、どうも・・・で?誰から来る?」
余裕の表情で手を広げるシェリルの後ろに立っていた男がシェリルに襲い掛かり、シェリルは後ろ回し蹴りで一蹴する。男が崩れ落ちていくのが合図のように、他の男達も一斉にシェリルに襲い掛かってきた。
一斉に来る男達の猛攻を軽くいなしていきながら、隙が出来た瞬間に素早く掌底や蹴りで倒してしまう。
「これで終わりか?こんなのでどうやって私の力量を計ろうと?」
「安心しろ。そいつらは前座だ。オンス、出番だぞ!」
すると今度は、2mはあろう体格の良い仮面を付けた大男が現れた。大男オンスの手には身の丈と同等の棍棒が握られており、棍棒を振り回しながらシェリルへと迫ってくる。
大振りに迫ってくる棍棒は、当たれば骨という骨が粉々に砕け散ってしまう程の物だ。だが、そんな猛攻を目の前にしてもシェリルは焦る事無く、むしろ少し笑いながら軽い身のこなしで棍棒の猛攻を躱していく。
「ぼぉう!ぼぉう!!!」
不吉な仮面の奥から荒げた声を漏らしながらシェリルを殺そうと棍棒を振り回し続けるが、一向にシェリルに当たらない。
「そろそろ疲れてきたか?なら、休ませてやるよ!」
振り下ろされてきた棍棒をシェリルは腕を振り上げて棍棒を粉砕した。棍棒をパンチで粉砕した所を目の当たりにした村人含め、オンス自身も驚きを隠せず、思わず後ろに後ずさりしてしまう。拳を握り直し、振り放とうとするシェリルを見て、オンスは咄嗟に顔面を守るため手で覆うが、シェリルが狙ったのは顔面ではなく、ガラ空きとなった腹部であった。
オンスの腹部にシェリルのパンチが当たった瞬間、ドゴッという重い音と共に、何かが折れた音が村中に鳴り響いた。数秒の静寂の後、か細い声を漏らしながらオンスはゆっくりと崩れ落ちていった。
「おぉー・・・オンスまでも・・・。」
シェリルの姿に恐怖を覚えていた村人の中、ギムルだけはシェリルの力を前にして満面の笑みを浮かべていた。
「これで終わりか?だったら早速仕事といこうじゃないか。」
「ああ・・・ああ!お前・・・いや、あなたなら仕事を任せられる!さぁ、こちらへ!」
ギムルは何度も頭を下げながら、シェリルを村の奥へと案内していく。シェリルが村人達を通り過ぎる一瞬、誰かが小さく呟くのを耳にした。
「あの方と同じだ・・・。」
(あの方?)
村人の呟きが引っ掛かるシェリルだったが、あまり深く考え込まずにギムルの後をついていく。
ギムルに案内された場所に辿り着くと、そこは他のテントよりも大きく、動物の骨や石などで飾り付けられていた。
テントの中に入ると、そこにはまだ14程と思われる少女が、その少女の母と思わしき女性に抱きしめられながら何かを囁かれていた。
「巫女様、護衛役を連れて参りました!」
「ギムルか。ご苦労だったな、戻ってよい。」
「はい。それでは厄介屋の方、後の事は巫女様に・・・。」
そう言い残し、ギムルは外へと出ていった。
「厄介屋の方、お名前は?」
「シェリル。巫女さん、私の仕事ってのは?」
「無礼だぞ!母上にむかって!」
「いいんです、ミユ。」
「ですが・・・!」
「シェリル様、あなたがここに来られたという事は、ギムルが見込んだ者という事でしょう。ギムルは昔から頼りになる者です、彼が見込んだ者なら安心して我が娘を託せます。」
袖を捲り、巫女が印を組むと、天井に夜空に浮かぶ星々が浮かび上がった。妙な奇術を目の当たりにしたシェリルは、顔をしかめながら天井に浮かび上がった夜空に指で触れてみる。感触も無く、熱さや寒さなどは感じられなかったが、自身の体が宙に浮かび上がる感覚を感じた。
「こいつは・・・どうなってる?」
「魔術、あなた方の感性で言えばそういった物です。我々星見の者は星云法と呼んでいますが。」
「母上、見ず知らずの者に星云法を見せてもよろしいのですか?」
「見せなくてはお仕事のお話が出来ないでしょう?それで、シェリル様。任せたい仕事とは、ここにいる私の娘、ミユを守っていただきたいのです。この子はまだ星云法を知らぬ故、星の法を知らねばなりません。」
「守るって、一体誰から?」
「この村の後ろにある森を通って上る山の頂上で星を知る必要があります。ですが、向かう先には様々な危険が待ち構えています。それらからミユを守っていただきたいのです。」