シェリル
既に書いていたルミナスの花を新たに書き直した物です。
夕焼けの陽に当てられながら、ジェイコブは一人の女性客を乗せて人気の無い道を二時間もの間走らせていた。ふと腕に付けている時計を見れば、時刻は5時を指そうとしている。ジェイコブはバックミラーをいじりながら、後部座席で無限にタバコを吸い続けている女性客の姿を確認しながら話しかけた。
「お客さん・・・そろそろタバコ、止めといた方がいいんじゃねぇのかい?」
「・・・ふぅー。」
客はジェイコブの話など聞いていないようで、相も変わらずタバコを吸い続けている。二時間もの間、何度も様々な話題を振ってきたジェイコブだったが、こんな感じで二時間も無視され続けてきて、怒りを通り越して悲しくなってきていた。
「お客さん、あんたどうしてパフロフ村なんて何も無い場所へ?今は夏真っ盛り!そうだな・・・レザードでパレードを見に行くとか!あれは一度見た方が良いですよー!仮装した街の住人が騒ぎながら道を埋め尽くしていくんだ!見知らぬ人物とも酒を飲み交わして交流できるし、楽しいぞー!!!・・・まぁ、次の日は地獄になるがな・・・ほんと・・・。」
「・・・はぁ、悪いがそういう場は嫌いだ。」
二時間無言だった彼女がようやく口を開いた。ジェイコブは思わず笑みを浮かばせながら、ここぞとばかりに話し続けていく。
「ならこれはどうだ!?ガルメダの夜の海!あそこは夏にしか入れなくて、月明かりを映す海面が非常に幻想的だし、運が良ければイルカが見れる!イルカだぞ!?身近で見れるんだぞ!あのイルカを!」
「退屈そうだ・・・。」
「それじゃあそれじゃあ!ミルフォースという村にあるルミナスの花畑はどうだ!?今は禁止区域になっているらしいが、人目を忍んでいけば、月に照らされてより一層綺麗なルミナスの花を―――」
「悪いが、今はそんな気分にはなれない!これから仕事があるんだ!」
やけに苛ついている声を聞き、ジェイコブは出しかけていた言葉を飲み込んだ。彼は一度、イライラしている客に今日の様な感じで話し続けて、痛い目にあっている。そのトラウマが頭をよぎったジェイコブは、震える手で流れている汗を拭う。
しばらくの間、また無言の時間が続き、長時間の運転の影響か、唐突に眠気が襲ってきていた。このままでは眠ってしまうと考えたジェイコブは、彼女が最後に言っていた仕事の話で何とか眠気を紛らわせようと考え、恐る恐る彼女に尋ねてみた。
「・・・あの、お客さん?」
「なんだ。」
「さっき、仕事って言ってましたけど、一体何のお仕事で?」
「害獣駆除だ。普段はな・・・。」
「普段は・・・というと、今回は違うんですか?」
「ああ・・・少女のお守りだ。」
そう言いながら、女性客はまたタバコを吸い始めた。
「ベビーシッターってやつですかい?」
「ああ・・・まぁそんな所だろ。」
「うあー、俺そういうのは苦手なんですよねー。」
「私もだよ。子供の世話なんか知らないし、大体何で私が知りもしない子供の世話なんか・・・!」
「子供は喚くわ言うこと聞かないわで、もうおかしくなっちまう。俺の友人の話なんですがね、一時間面倒を見ていてくれって言われて、一時間後に母親が帰ってきた頃には友人も部屋も滅茶苦茶!やったのは子供なんですけどね、責任を追及されたのは俺の友人なんですよ!」
「そいつは厄日だったな!」
「本当ですよー!」
意外な所で共通点が見つかった二人。
「ただのうるさい奴だと思ったが、なんだ意外と気が合うじゃんか!名前なんて言うんだ?」
「俺、ジェイコブって言います!姐さんは?」
「シェリルだよ。」
シェリルの名を耳にした瞬間、突然ジェイコブはブレーキを命一杯踏み、車を急停止させた。
「おい!どうしたんだいきなり!?」
突然の急停車に少しイラっとしたシェリルだったが、ゆっくりとシェリルの方に振り向いてきたジェイコブの顔に絶句した。ジェイコブは滝のような汗を流し、大きく口を開けたまま、途切れ途切れに声を漏らしていた。
「あ・・・あ・・・シェ、リル・・・?」
「どうしたんだよ?そんな馬鹿みたいな顔して?」
「シェリルって・・・ロンドの厄介屋の・・・?」
「あ?ああ、そうだよ。それがどうした?」
すると、ジェイコブはシェリルに手をバッ伸ばし、強引にシェリルの手を掴んで握手を交わした。
「大ファンだよ!!!俺あんたの!!!」
「あ・・・ああ、そうか・・・。」
「なぁなぁ!あの噂って本当なのかい!?たった一人でギャングの本拠地に殴り込みに行って壊滅させたのは!?」
「あ?・・・あー、あれか。ああ、本当だ。」
「マジかよ!ウヒョーーーー!!!」
「そんな話はどうでもいいから、さっさと車動かせよ。一応七時までには着かないといけないんだ。」
「了解了解!任せてくださいよ姐さん!」
ジェイコブは満面の笑みを浮かべながら、アクセルベタ踏みで車を急発進させ、猛スピードでシェリルの目的地であるパフロフ村へと向かっていく。