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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

燃えよゾンビ

作者: 佐倉じゅうがつ
掲載日:2022/01/29

〈今日の新規感染者は三万人を超える見込みです。総理大臣は午後の会見で――〉


 新型のウィルスによる世界的パンデミックから二年。


〈――このウィルスは、発症しますと、たちまち『ゾンビ化』し、また『武術の達人化』して闘争本能のままに、強者との戦いを求めてしまう。人間社会において、たいへん、憂慮すべき、もので、あります。しかしながら、この強者とは、たとえば、世界チャンピオンのような、実力の持ち主を、指します。つまり、ゾンビが、ほとんどの国民に対し、直接危害を、加える可能性は、低いと、考えられます。ゾンビ同士で、戦う傾向が、強く――〉


 それまでニュースに興味のなかった僕も、いまやスマホで新型ウィルスのニュースを見るのが習慣になってしまった。


『――国民の皆様には、引き続き、感染拡大防止に向けて協力を、お願いしたく――』


 偉い人たちは症状の説明とかウィルスの拡大を防ごうとか、そんなことばっかりだ。


「おっす」

「遅いぞー田中」

「わるいわるい。ちょっと駅前で面白いのがやってたからつい見ちまったたよ」

「えー呼んでくれれば僕も見に行ったのにー」

「いやすぐ終わりそうだったからさ。結局最後まで見たけどほら、五分しか遅れてないじゃん?」


 田中が腕時計を見せてくる。うん、十五分遅れじゃん? 相変わらずテキトーなやつ。


「で、どう? 今日も来そう? 感染者」

「来る来る。絶対来るよ」


 このご時世で僕たちがたしなむ娯楽が、感染者の観戦会だ。パンデミック以来、子供とか不良は公園みたいな場所には寄り付かなくなった。感染防止のためだって。

 おかげでいつも貸し切り状態だ。ゾンビもやって来る。


「お! 来たぞ!」


 二体のゾンビが公園に入ってきた。どちらも男。一人は上半身裸で、もう一人は下半身裸だ。


「命名。フルパイゾンビとフルチンゾンビ」

 思わず吹きだした!


「ひどい名前!」

「わかりやすいだろー。で、どっちが勝つほうに賭ける?」


 フルパイゾンビは全身がすごく毛深くゴリラのようだ。いかにもパワー型といった感じで強そうに見える。フルチンゾンビは引き締まった筋肉だけど、相手と比べるとちょっと地味な印象を受けた。


「僕はフルパイゾンビで!」

「じゃあ俺はフルチンゾンビ!」


 ゾンビたちが公園の中央で向き合った。首や拳をゴキゴキとならす、トントンと軽くステップを踏む。体中からオーラがにじみ出ている気がしてワクワクが止まらない。


「構えた……」

「始まるぜ……!」


 両者、間合いを保ったまま円を描くようにジリジリと機をうかがっている。そして――


「アアァァァァイ!!」


 フルチンが電光石火のミドルキック。フルパイが掌で打って防ぐ。一瞬のやり取りだった。だがこれは挨拶代わりのようなものだ。


「ホワッ!」

 続けて顔面へまっすぐ拳をくりだす。フルパイは腕を曲げて拳を挟み込んだ。動きがとまったフルチンの顔に裏拳、つづけて右の上段回し蹴り!


「ハイ! ハイ! ハイーアァ!」

 そのまま右足を一回、二回、三回とたたきこむ! フルチンは勢いよくのけぞって倒れた。よし!


「フルパイのやつパワーだけだと思ったけどやるじゃん。今のはうまい蹴りだったぜ」

「僕の勝ちかな?」

「まだまだ。見てろ? フルチンがふっとんだのは技の威力じゃない。自分から後ろに下がってダメージをやわらげたんだ」


 起きあがったフルチンは口元の血を指ではらい、ステップを踏み始めた。一方フルパイは腰を落としてにじり寄る。


「アタァッ!」

「チャア!」


 両者の掛け声で一進一退の攻防が始まった! 蹴りをいなし、蹴りを返す。一歩間合いを取った瞬間に中段突きが一直線に追う。しかし踏み込んだ膝元に鋭いローキック、体勢が崩れた脇腹に鉄拳、苦痛にゆがむ顔に天を衝くような二起脚が決まった! ってフルパイめっちゃやられてるじゃん! フラフラパイパイじゃん!


「ホワッチャアアァァァァァァァッッッッ!!!!!!」


 フルチンの崩拳が無防備なみぞおちに突き刺さった!


「うわー痛そう!」

「あれだけ強烈なのにフルパイの体はほとんど後退してない。打撃のインパクトのほとんどが内臓にキてるっぽいな」


 口から何か……あまり言いたくないものを噴き出しながら、フルパイは倒れて動かない。勝負あり、か。


「カウント、ワン・ツー・スリー。カンカンカンカン! フルチンの勝ちー!」

「ああー……最初はいけると思ったんだけどな」


 フルチンは滑らかな動作で両手を合わせ、好敵手に礼をしている。


「じゃ、罰ゲームね。あいつに一発かまして、よろしく!」

「ほんとにやらなきゃダメ?」

「昨日そういう約束したろー?」

「あーあ、無事でいられるかなあ僕。ちょっとカバンとスマホ持っててね」


「おうおう。がんばれー」

「気楽に言ってくれるなーもう」


 持ち物を田中に預ける。そういえばスマホのニュース動画つけっぱなしだった……まあいいか。ちょっと小突くだけだし、すぐ終わる。

 さて、フルチンゾンビの前に来たぞ。


「あちょっ」

 僕はフルチンの肩にささやかなパンチを当てた。目と目が合う。

 するとフルチンは自分のチンチン……すごいデカい……えっ、サンジュッセンチ? ……を、もぎとるとヌンチャクのように振り回しはじめた!!


「ホォォォーッ! ホアッ! ホッ! ホッ! ホアアアーーッ!!」


 すごいスピードだ! けど僕だってホオォォォォ!!!!


〈――繰り返しますが、新型ウィルスの感染経路は、『戦い』であります。戦うことによって、ウィルスに感染し、ゾンビになって、しまいます。ですので、国民の皆様には、ゾンビに手を出さず、無視の徹底を、重ねて、お願い申し上げます――〉


 アチョォォォォォォーーーー! ホワァッ! ホッ! ホッ! ホアーッ!

 ハァーッ! ホアチャアアアアァァァァァァァァ!!

 

〈――私は、私たちは、総理大臣として、政府として、この未曾有の危機に対し、毅然と戦っアチョーーーーッ! アタタタタァァァァ!! フォウ! ホアアアアーーーーーーッ!! エェェェェイ! チャァァァァァァァァァァァァァァーーーーッ!!〉


 ハィ!! ヤーーーーッ!! フゥ! ホーーーーォォォォオウオゥ!! 

 フッ! オォウ! オワタァァァァァァァ!!!!

――終劇――

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― 新着の感想 ―
[良い点] 恐ろしいウイルスです。これ以上感染拡大しないことを祈ります。ゾンビの割には相手に合わせて冷静に戦ってますね。とても読みやすいですし面白かったです。 [一言] 拝読させて頂きありがとうござ…
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