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サクッと読める短編集

わたしへのアドバイスはゴミ箱を置くことだった

作者: かずぺあ

なんにも上手くいかない。一つのことが上手くいかないとそう思えてくる。朝の貴重な時間を犠牲にして髪にヘアアイロンを充てている。睡眠時間よりも髪を真っ直ぐに伸ばし、前髪を固めることを優先するのが私。学校に行くのに化粧はしないが、眼鏡を外しコンタクトをいれる。それが一つでも狂うとその日は一日中憂鬱な気持ちになる。


高校生になった私は今までと変わらず、周りに同調しつつもそれなりに楽しく毎日を過ごしていた。個性的なキャラクターに憧れていた時期もあったけど、今はそんな子達を見ていると私は冷静になれる。


目まぐるしく変わる流行に置いてかれまいと必死になっているクラスのインフルエンサー。ずば抜けた個人の能力を発揮し将来を期待されている運動部のエース。整った顔には必要あるのかと思うほど化粧をし、お洒落に制服を気崩すギャル。

そんなクラスメイトはいないのだけれど、それがまた私に現実を見せ、今の私を正当化させてくれる。


「ゆうかー、今日学校終わったらあおぞら寄ってかない?」


スマホにこっこからのメッセージが届く。こっこは小学生の時から仲良くなり、別々の高校になった今でももちろんその仲は変わっていない。

こっこは私が付けたあだ名で、中川琴子というのが彼女の名前。SNSアプリの登録名でその名前が出るたびに少しだけ、他人行儀になってしまうのは私が付けたあだ名に愛着心があるせいかも知れない。


「オッケー」


可愛げの無い短い返信だが、気の合う友達との現実のやりとりはこんなもんだ。可愛い絵文字だとか、スタンプだとかはもう卒業してしまった。


あおぞらは私達お気に入りの喫茶店。といっても淹れたコーヒーの味が解るわけでもないし、店内に流れてるジャズに心地よさを感じるわけでもない。ただ、幼かった私達にも読めた平仮名で書いたあおぞらっていう店名が目にとまり立ち止まらせただけだった。


こっこは先にあおぞらに到着し、わたしを待っていた。テーブルにはクリームソーダが置いてあり、アイスが半分ほど失くなっている。


「ごめん待った?てか着くの早かったね」


予想より早いこっこの到着に軽いお詫びをいれながら席に座った。


「ううん、大丈夫 ちょっとだけ早くついただけだから」


「そっか、あっおじちゃん 私もクリームソーダね」


カウンターにいるマスターに気軽に話しかける私。

常連客っていうには店に対してのリスペクトはかけているかも知れないが、おじちゃんは優しい笑顔で頷いてくれる。


「ゆうかー、さっそくだけど聞いてよー」


こっこはそういうが、私にとってはさっそくでもなんでもなくきっと私に話したいことがあるのはここに着く前からわかっていた。


「はいはい、なんでも聞くよー」


こっこは起承転結を無視し、色々なレールを敷きながら話続けていく。まぁ一言でいえば恋バナだ。

その話しは喜怒哀楽を織り混ぜ、こっこ劇場が完成されていく。


「はぁー、ゆうかがいて良かった 聞いてくれてありがとう」


ひととおり話終わると、アイスが溶けて混ざり綺麗なグラーデーションを彩るソーダをチューっと吸い込む。


「それなら良かった こっこはいつも考えすぎなんだからさ」


私はこっこの横の席に移動すると、包帯の巻かれた左腕にそっと手を添える。


「うん、ありがとう」


添えた私の手の上にこっこも手を添える。そうすると私は思い出す。あおぞらの前に立ち止まった日のこと。私がこっこのゴミ箱になってあげようと思った日のことを。


「部屋を綺麗にするにはどうしたらいい?」


「まずはゴミ箱を置けばいいんじゃない?」


「ゴミ箱がないとゴミが捨てられないから」


そんな会話。


幼いあの時はよくわからなかったけど、帰りたくないと泣いているこっこの手を繋いでの帰り道。泣いてるこっこを励まそうとあおぞらのキラキラした綺麗な看板を指差し立ち止まった私達。気付いたおじちゃんが扉を開けて、こっこのアザをみたおじちゃんは優しく私達を包んでくれた。



ほんとなんにも上手くいかない。一つのことが上手くいかないとそう思う。朝の貴重な時間を犠牲にして髪にヘアアイロンを充てていること。睡眠時間よりも髪を真っ直ぐに伸ばし、前髪を固めることを優先すること。学校に行くのに化粧はしないが、眼鏡を外しコンタクトをいれること。それが一つでも狂うとその日は一日中憂鬱な気持ちになること。



でも、ほんとはそれも全部ゴミ箱にいれちゃえばいいんだよね。


私はゴミ箱を置くことを知っているし、ゴミ箱を片付けてくれる人がいることも知っているのだから。




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