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6.次はあなたの番

学園に提出する報告書も滞りなく作り終え、那和は残りの休日を波乱なく過ごすことが出来た。



十分とは言えないものの、それなりの休養を取り、月曜日。

本日は一日を通して実力テストがある。

テスト科目は主要五教科。

まだ一年なので全員共通、選択問題は無い。

定期考査ではなく、何処かの予備校やら何やらが行う全国共通テストなどでもない。

特進進学科を謳う学校が用意した、特進科だけに課せられた独自の実力テストであった。


素知らぬ顔で報告書という紙切れを提出し、教室に入れば、みんなテスト直前のおさらいに余念がない。

それでも流石は特進クラスと言えばいいのか?

直前に慌てだして必死の形相で詰め込み勉強……といった輩はいないようだ。

予鈴が鳴った時点で机の上を整理し始めるくらいにはみんな余裕があった。


人のことより目前のテストが大事!


少しは絡まれるか?と身構えてたのは杞憂に終わって、無事半日が終了した。



(…まあまあの出来かな?

とりあえず理数は大丈夫として、古典漢文をもうちょっと根詰めてやらないと駄目かも。帰りに書店へ寄ろうか……、それとも翔に相談したほうが早いかな?)


理由あって実力テスト直前の休みに、覚悟を決めたとはいえ行きたくもないし、したくも無い現場検証のため、態々遠出までしたのだが、だからといってテスト勉強を疎かにした訳ではない。

那和はどちらかというと、答えの決まっていないかも知れない事柄を考えるのが好きである。

数学の証明問題、理科・生物の遺伝法則、

たかだが高等学校程度の授業内容では、答えの無い問題を提示されることなど決してないが、事故というか、特に生物などでは数字で出した予測など、ちょっとしたことが簡単に覆ってしまうところが面白いらしい。


ほら、あれだ。


朝顔は双葉が出て本葉が出るが、暖冬などで冬の気まぐれ暖かい日に、夏の終わり収穫し忘れた種が、ぽかぽか陽気に勘違いして芽を出したりすんだけど、次の日から元の寒さに戻っちゃって、それでも芽を出した責任でも感じてるのか?子孫を残そうとする本能か!?

どうにか種を残そうと、双葉の間から直で蕾が生えたりする。


本葉どこ!?


結局どうにもならなくて最後枯れちゃうんだけど、一週間くらい滅茶苦茶粘って頑張るんだ!!

生命の神秘!

寒風吹き荒ぶ中での必死な営み!!


狂い桜とかあるじゃない?

それ!


そんなの、授業じゃ絶対習わない!


そういうところが好き。

数学も、まだ誰も解いたことのない問題とかあるらしいし?

考えただけでワクワクするよね??

自分がそれを目にできるかどうかは別として。


で、反対に古典漢文は、まず昔言葉という単語の意味を暗記するところから。


古典=外国語?


……なんて、そんなこと言われたりもするけれど、言い回しが独特で、読み方も一定の法則があるだけなんだけど、文字の読める日本語の意味を訳すまではさっぱり理解出来ないことが那和にとっては苦しいらしい。

むしろ本は読むし、小説なんかも嫌いじゃない。

文章が苦痛という訳ではないのだ。

外国語はまず文字から覚えないと駄目だけど、文字はわかるのに何書いてるのか読めない。そういうのが嫌。


なして読める文字を二重に訳さないといけないんだ!?


そんな心持ちなものだから、古典漢文が苦手になってしまった。


…まあ、

……要は、嗜好の問題、なのである。


因みに、


『訳せちゃえば那和も好きな小説と同じだよ?大体恋愛もの多いけど??』


と、友人たちには呆れられている。


かといって、将来役にたつかどうかはわからなくても、授業はあるしテストにも出る。

ならば色んなことを制限されないためには、最低限の成績は必要で、苦手だろうが何だろうがある程度の勉強は仕方ないのだった。


これが定期考査になると、学期丸々古典漢文そのままテスト、なんてことも無きにしも非ず?

しかしながら実力テストの点数配分は、現代文:古典漢文で、大体8:2もしくは7:3。


現代文がそれなりに得意な那和は、古典漢文に割かれた二割ないし三割が振るわなかったところで、そんなに焦る必要もなかった訳だ。


幼馴染みの香月翔も、そんなに古典漢文が得意ではなかった筈。


『アレはひたすら暗記と勉強方法。マシなやり方で手早くカタをつける』


そうで、専用、というか、これやっとけばまあ大丈夫じゃない?な参考書を買ったと聞いた覚えがあった。

試行錯誤して好きじゃないものに手間を掛けたくなかった那和は、自分で頑張ることを最初から諦めて要領良く終わらせようと、幼馴染みを頼ることをあっさり決めたのだ。


***


「テストお疲れさま。これで暫くはゆっくり出来るわね?

……それで?制度申請から随分日が経ったけど、茨木さんはいつ検証とやらに行くのかしら?」


考査までは時間があるし、もう理由付けても逃げられないわよ?


………と言いたげな目。


それに対して、表情は変えないものの、那和の心情は、


そういうアンタは終わったのかよ……。


だった。

今朝報告書を提出した際に担任が呟いた台詞が、


『おいおい、申請者より早いぞ』


だったからだ。


えっらそうに踏ん反り返ってるお前がはよ行け!!


………多分こっちの予定に合わせて何かしらの企みが発動する予定だったんだろうから、自分たちがまだなことは棚上げしてるんだろうけど。


もう終わった!

ついでに報告書も出して終了!!

後はそっち待ち。もしくは期日待ち!


……ということを、何重もオブラートに包みに包んで何を言ってんのかわからない?って顔でしれっと突き返したら?


「!何で!?今日のテストが終わってからだって言ってたじゃない!!」


と大絶叫?

うん。言ったね?予定だって。聞かれたから?

でもあくまで予定は未定。未定なんですよ?

でもそれにあなたの予定は関係無いので、予定が変わったところで態々連絡しませんよ。


「……そのつもりだったんだけど、不正とかのチェックで向こうに同行してくれるOBの予定が今日より後、期日まで空かなくなったとかで、早めただけなんだけど?

私たちはまあ仕方ないけど、OBOGでも無償ボランティアだから、巻き込んでるこっちの予定に合わせろ!なんてこと言えなくて」


こちらの我を通して、相手が必須単位落としたり、降格されたり、首切られたりとかになったら大問題だから。

学校からもお叱り受けそうだったし?

急だったから謝られたし?


と追加で言えば黙った。

流石に文句言えないでしょ?

あなたたちに着いてく人のことまでは知らないけど。


まあ…、そういうことにしとけ。って言われたんだけど。翔に。

不測の事態というのは何処でも起こるものだから?

ブルブルしてますね。怒りですか悔しさですか?


……だからそういう労力はもっと別のとこに使えばいいのですよ。


嫌がらせとかしてないで。

意地も張らないで。

青春できる時間は短く有限だって色んな人が言ってんじゃん!

もっとも〜〜っと、有意義なこと、あんでしょうが。


聞き耳持って貰えるとはこれっぽっちも思わないので言いませんがね?


で。


「………それなら仕方ないけど、今度からはちゃんと言いなさいよ!

全く…、どうしてホウレンソウが出来ないの?

そんなんじゃこれから苦労するんじゃない?私と違って??」



……………、?・・・なんでやねん!!


「…えっ!?まだ怪談検証とかする予定あるの?何処で!?

もう二箇所もしたのに?向こうの学校にも迷惑掛けてるのに??

私の進学希望、超常現象系の学科じゃないから、これで終わりのつもりだったんだけど?……えと、いつまでする予定なの?

もし本格的にするんなら、真剣にそっちの方面考えてる人誘ったほうが良いと思うよ?」


だって予定把握しあって長期に渡って比較検証していくつもりでいたんだよね?

私は今回限りで終わりのつもりだから。


荒垣希の、何処までも自分本位な上から目線に驚愕!

自分の吐いた言葉の滑稽さに気づいたほうがいいと思う。

無意識でなく、完全に相手を見下してる故の台詞だけど、今こうなってる経緯とか考えたら失笑もの。

最初から今までずっと、茨木那和は巻き込まれた側の人選なのだ。

彼女の言う通りにする必要は全くない!

しなければならないのは、制度活用に伴い提出された事柄に関することだけなのだから。


教室を凪ぐ、沈黙の視線。

その全てが二人に注がれていた。


ぷっ。


誰かが堪りかねたように吹き出して、それに続くようにクスクスと小さな笑い声が幾つも重なる。


「そっ、そうだよね?

実績作りって言えばそうだけど、進学希望と違うものに延々と労力かけらんないもんね?」

「それに、茨木と荒垣って、最初から別々に検証とかすることになってたんだから、寧ろ相手の事情探るのって御法度になるんじゃないのか?

真似たとか、こっちが先だった、やり方盗んだとか問題起きねえ?」

「…茨木さんは荒垣さんたちの予定とか知らなかったんだよね?

だったら何で、茨木さんだけ一方的に情報開示しなくちゃいけないみたいなことになってんの?

前の制度申請は、初めてで茨木さんのほうに落ち度があったとして、今回はちゃんとわかってて申請してるんでしょ?

書面で取り決め交わしたの?お互いの予定は逐一伝えあう、とか?

そうじゃないなら必要なくない?それとも今度は荒垣さんの申告し忘れ?」

「でもああ言ってるってことは、荒垣ってそっち方面行くのな。

……ってことは、医学部諦めたんだ!」


クラスメイトは言いたい放題。


呆れたように話すもの。

面白そうに煽るもの。

成り行きを黙って見守るものも多かったけど、同じ言葉でも声の抑揚で気持ちは伝わる。


全体的に見れば、『お前何好き勝手言ってんの?』と言ったところ。もちろん荒垣希のほうに。


茨木那和が初耳とばかりに驚いて返答したものだから、荒垣希の主張が『可笑しな主張』になってしまった。


顔を真っ赤に染めて那和を睨む荒垣希に、一人の生徒が冷静に突っ込んだ。


「でもどっちも終わったんなら、帰りのホームルームで発表出来るね。引き摺らなくて丁度良くない?」


そうだな。テスト終わって気も抜けたし?

ガヤガヤ賛成の声が上がる。


「ちょっ!勝手なこと言わないで!私は検証まだなんだから!!」


えっ!?

叫ぶ荒垣希と固まる生徒たち。取り巻きは空気だ。



「おいおい……、茨木に遅いぞ待っててやったみたいな絡みかたして、自分はまだとか…。

独り相撲で周囲振り回すのも大概にしろよ」


静かに落とされた声に怒鳴ろうと振り返った先には、冗談の欠片も見られないくらいに冷たい目。

心底うんざりした表情で、学年トップ(多分)と名高い男子生徒が此方を見ていた。


「わ、私もテストが終わってからの予定だったの!

茨木さんのほうはどうなのか気になって聞いただけよ!!」


自分より総合成績の良い(多分)生徒には強く出れなくて、言い訳を早口に言い捨てて席に戻っていった。

何とも言えない雰囲気が教室に漂ったが、直ぐに担任が現れて、みんな渋々席に着くことに。


休日になる土日までの四日間。

荒垣希率いるグループは、少し前とは違った好奇の視線に晒されながら過ごすこととなってしまった。

茨木那和には荒垣希から苛立ちの視線が常に注がれていたが、特に絡まれることもなく若干ながら居心地の悪い日々を過ごすことに。

一方的に逆恨みな執着ならぬ粘着をされてる那和に対して、友人たちは非常に同情的だった。


そして金曜日、放課後。


「週末明けたら発表だからね!

ああいうのはキチンと準備して行くのが常識なの!大切なテスト前のやっつけ仕事とは違うってことをみんなに見てもらうから!」


……なんて捨て台詞。

正直…、那和からすれば、こんな茶番が終わるなら、どっちでもいい。

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