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4.そう言われればそんな気もしてしまう説得力

続いての検証場所は、怪談トイレのすぐ近くにあって、校舎の最北に位置する階段。


……人気がなく照明も暗いので、あまり、と言うか、ほぼ使用する生徒は皆無らしいが?


とにかくそんな場所。



学校の七不思議・その2『一段増える階段』


………またかよ!?


那和がこれを聞いて最初に思ったことである。

だが検証。色んな意味で『仕事』と言えなくもない。

非常に不本意で馬鹿らしいが、適当にすれば何処かで変な恥を晒す。

この検証自体が恥っぽいのはスルー。

真面目にする。


学園でしたときと同様。

測定を開始するも、二度目になるので手際良く進んだ。

『増える』とのことなので、最低二回は数えなければならないが、ミスを防ぐために取った方法は、測定前と後に、それぞれ階段の左右に何段目か記したテープを貼ることだった。

万が一傷をつけては駄目なので、前もって連絡して、校長先生から養生テープを借り受けている。

油性ペンは自前だ。


段数は測定二回とも十二段。

段ごとの誤差も許容範囲内で収まっていた。

建築年数は長くても、手抜き工事がされてない校舎はまだ現役。多少の修繕は必要だろうが、職人さんたちの腕は素晴らしい!


「…あー、無事終わった、か?」

「……終わったね。思ったより短時間で済んで良かった」

「そうだな。でも、何にも無さすぎるのも考えものだな。…飽きてくる」

「早く帰りたいから有難いけど?

迷信が一番良いけど、世の中には説明出来ないこともたくさんあるだろうし。

問題は私がいないときに起きて欲しい。

怪談が『増える』方で良かったわ。翔もいるから二人で確認できるし、対処もできた」

「……因みに、『増える』方じゃないのはどんなのがあるんだ?」


「?ああ、『転ける』かな?

登っていく何段目かで、殆どの人が足引っ掛けてコケる、もしくはコケかける?

海外の観光地の階段に実際あるんだけど、階段の中で一段だけ他の段より十センチ近く高いの。だから登り始めの感覚で足を上げると、その高い段のところで躓いてしまうっていう建築ミス?そんな感じ。

測ったらすぐに原因が判明するから、怪談でも何でも無いのよ!

……そうね。こちらの怪談も『増える』と『転ける』が合わさってたら面倒だったかも。測定はするけど、私がコケたりしたら測定結果次第じゃ笑いものになるじゃない?」


「まあ、そうだな。疲労とか注意散漫なんか、面白がる連中が加味してくれる筈ないし。

そう考えれば、何も無い方が平和でいいな」

「数えて増えててそこに動揺してコケて、手をついたら濡れた感触があるのに拭こうとしたら濡れてなくて、ってなったら流石にビビるけど」

「手は濡れてんのに何処見ても水落ちてないとか?」

「…それドキッとするわね。

まあとにかく、ここの検証はこれで終わり!

テープ剥がして拭きあげてから次行きましょう」

「えっ!?掃除するのか?」

「当然よ!日頃はあまり利用されてないとはいえ、久々の活躍がコレとか、私なら速攻でキレる。人ではないと言っても、こんなしょうもないことに付き合って貰ったんだから、せめて下らないことに付き合わせたお詫びを兼ねて、お礼にピカピカに磨いて帰るわ!大丈夫!ゴミは最初に取り除いたから、後は雑巾掛けだけよ!」


そう言って、用意してあった雑巾で上段を拭き始める。

水拭きしながら、直ぐに乾拭きして磨き上げる。

見ているだけなのも手持ち無沙汰だったので、翔も乾拭きを手伝った。

時間にして約十五分。

一段階明るさの増したように見える階段に満足して、二人は次の場所へと移動していった。



「次は?」


正面玄関に回りながら、翔が次の階段場所を聞く。


「えっ…と、昇降口から入る靴箱を過ぎて直ぐ、階段前に設置されてる『鏡』ね。怪談内容は、……一つに確定してないみたい。

鏡に吸い込まれるとか、未来の姿が映るとか、運命の人が映るとか、色々。

見てみないことにはどうしようもないわ」

「………」



学校の七不思議・その3『鏡に纏わる“何”か』


今更なことだが、夜間の学校校舎に照明の類はあまり点されていない。

トイレは、その位置関係のせいか別電源だったので付けさせてもらったし、階段は途中の踊り場に、アウトドア用のLEDランタンを置いて作業した。

懐中電灯も一人一つずつ持っている。


それでも『鏡』というのは、昔から不思議なことが起こる代名詞の一つにもされていて、原理はわかっていても、映っているだけの景色が、夜なら特に、暗い中こちら側を覗き込まれているような錯覚をもたらしてくる。

男だとか、女だとかは関係無い!

強がろうが、怖いものは怖い。


翔も那和も、非常口の緑色だけが点灯している中で、携帯用の電灯だけを頼りに歩き回らなければならないのが自分一人だけでないのが、心底良かったと思った。


そして到着した鏡前。

余計な装飾のない長方形な鏡だったのは救いだが、自分たちの背景が、 鈍い緑に照らされた周辺以外は闇に包まれ、後は持っているランタンのせいで、男女の姿が幽霊のように浮かび上がっている。

LEDなのも悪かった。

購入する際、明かりさえちゃんと付けばいいという気で、商品入れ替えのため特価になってた安いヤツを買ったのだが、もっとちゃんと選べば良かった。

こちらが好んで選ばなければ、LEDの光の色は『昼光色』が多い。

実は、LEDの照明器具ならではの機能として『調色』というのがあり、これはオレンジ色が強い『電球色』と、青白さを感じさせる『昼光色』を、ライフスタイルに合わせて、明かりの色調を調整するというものである。

主に室内照明に用いられるので、お手軽に持ち運べる安価な商品にはついていない機能なのだ。

よって、購入前に色調を確認しておくのは必須だと言える。

那和がそれを怠ったことにより、ただでさえ薄気味悪さを感じる暗闇の中を、青白い光を伴って歩くという、より、頼みの光が精神へ恐怖を与える仕様と成り果ててしまっていた。

真っ暗な中で浮かび上がる顔色悪い人間たち。

『昼光色』の弊害である。

まさにホラー案件!

………いや、今の事態がホラー検証に他ならないのだが。


とにかく!

大きさ的に全身像が難なく映る鏡は、水拭きした後の水滴が乾いた状態で跡として残っており、若干ながら映る景色を暈せて見せていた。


「………」

「………」


「……無いな」

「『吸い込まれる』とか『引き摺り込まれる』とかは置いとくとしても、こんだけ見えないと、後ろで変わったことが映っててもわからないよね?

映ってる私たちの方が充分怖い感じだし。気持ちの問題として、おかしなものが見えた気になる可能性の方が高いと思う。

……実際は何も無いし起こってないのが当たり前なんだけど」

「……そうだな」


鏡の向こうに映る自分と暫し無言で見つめ合い?


「…折角だから磨いて帰ろう」

「!またか!?」


またしても掃除してから次に行くという結論に達した。


「あんまり左右に力入れて拭かないようにね?大丈夫だとは思うけど、この鏡、嵌め込み式じゃなくてツメ金具にスライドさせてるだけだから、ズレ落ちて割れたら大変なことになる」

「………わかった。気をつける」


まずは鏡上の出っ張りに積もった埃をウエットシートで拭き取り、ついで少量水を含ませた新聞紙でウロコ状汚れを取る。そして乾いた新聞紙で磨き上げた。

柔らかなガーゼタオルで残った埃を取り去ったら、最後に曇り止めリキッドを塗って完成!


「……何でそんなもん持ってきてんだ」

「えっ?『鏡』って聞いたから持ってきたんだけど?

元々検証後はある程度掃除してから帰るつもりだったし。

掃除当番回ってきた生徒の掃除なんて、適当なもんでしょ?

たまにはいいかと思って」

「……………そう」


使用済みの新聞紙は、ゴミと一緒にビニール袋に纏めて入れた。

これは帰ってから捨てる。


後始末を全て終わらせてから去っていく二人の背中を映す鏡は、心なしか淡く輝いているように見えた。



「やっと本格的に校舎内の怪談行くわよ!

『理科室』の人体模型か、『音楽室』の楽器と肖像画。どっちからがいい?」

「………もう帰りたいわ、俺」



学校の七不思議・その4『踊る人体模型』


結局順番は『理科室』→『音楽室』になった。

理由は理科室の方が近かったから。それだけ。


関係無い場所に入らないこと、余計なものを触らないことを事前に懇々と念を押され、各教室の鍵を借り受けている。

一つ一つの鍵には何処の教室のものかわかるようにタグがつけられているが、逆に束になっていないので一つくらい落としてもすぐには気付かない。

仕方ないので、自前のキーリングから自宅の鍵を外して、纏めて付けておいた。

自宅の鍵は財布に仕舞っておく。これで無くすことは無いだろう。


誰が見たのかはわからないが、勝手に動いて踊るとかいう人体模型があるのは、正確にいうと理科室ではなく、理科準備室だ。

念のため、どちらの鍵も借りた。

理科室から入って、準備室との間を隔てるドアを開ける。準備室には雑多に物が置いてあるので、雰囲気的に理科室より圧迫感があった。

気味も悪いのでドアは開けたままにしておいて、何かで勝手に閉まられて不気味さを増されても嫌なので、しっかり荷物で縫い止めておいた。


「えっと…人体模型は、っと」

「……ああ、あれだな、窓際に置いてあるヤツ!

うわあ。それにしても月明かりに浮かび上がる人体模型って、不安煽るわ」

「埃も大分被ってそうだしね?ついでに乾拭きだけしておこうか。

古いものだし、水で濡らしてごそっと色落ちとかしたら申し訳ない」

「取り外し出来る内臓なんか、かなり外れやすくなってるだろうしな?

校長もそれが時折落ちるから、怪談みたいな噂が出来たって言ってたし」

「?……そうなの?なら、作業用のマスキングテープ持ってきてるから、目立たない裏面に貼って厚み作れば落ちにくくなるかもね?事後承諾になるけど、後で校長先生に伝えとけば大丈夫でしょ?」

「あっ!それいい案だな」


ランタンを近くの作業机に置いて、早速人体模型の埃を払いにかかる。

ふわふわとはとても言えない、使い古したごわごわタオルで軽く表面を拭っていく。

途中、一番手前にある肺と目玉が何度か落ちた。

……はっきり言って心臓に悪い。

その度に模型自体も少なからず揺れるので、踊るとまではいかないが、動いているようには見えるかも知れない。

落ちやすそうな内臓は、正面から見てギリギリ見えない上下にテープを重ね貼りしてしまえば、カチッと嵌るようにはならなくても、グラグラ揺れなくなったので、落ちる回数も減る筈である。


人手は二人だが、ちまちました作業は思いのほか時間が掛かって、気が付けば一時間が経っていた。

独特の匂いが充満する部屋の中で一時間。

ドアを開けてあったので、空気の出入りは多少なりともあったが、こんなにも長居する部屋では無い。

顔を見合わせて苦笑しながら、模型の周囲も軽く拭いて撤収することにする。

報告書には、校長先生から聞いた話と合わせて書いておけばいいだろう。

鍵を締める際、奥にある棚に、昔は何処の高校でもあったらしい『蛙の解剖』標本がホルマリンに漬けられて置かれているのを見つけて、背筋がゾワっと泡立った。


「っはぁ……、何か生き返った感じがする。やっぱああいう部屋って空気淀んでるよな…」

「埃っぽいもんね。けど、ちゃんと整理整頓はされてたよ?あんまり余計な資料とか無さげっぽかったし。……埃は被ってたけど」

「俺、本物はだめだわ〜。ホルマリン漬けとか!ゾッとする」

「……ああ、あったね。でも鍵付きの棚に並べられてたし、割れなければ大丈夫!中身ちゃんと保存するなら、モノによっては薬剤入れ替えとかも必要な筈だけど……、してるのかな?」

「………知りたくもねーよ…」


戸締りを確認して部屋を出た。

次は音楽室とその準備室だ!



学校の七不思議・その5 と その6

『無人で音楽を奏でるピアノ』と『光る肖像画の目』


「………ピアノも肖像画も音楽室にある。準備室の鍵、要らなかったね…」

「………」


音楽室には、室内で音を奏でるという決まり切った用途があり、その特質上、壁は低・中音域の音に対して大きな防音効果を発揮する有孔ボートになっている。

昼間見れば白い壁に無数の穴が開いているだけの、『ああ、音楽室の壁だね』で済むのたが、これを夜、それも真っ暗な中、音楽室という特殊空間とも言える空気の中で見るとどうなのか?


……穴の向こうから無数の視線を感じる。


などという気の迷いが、引き起こされないこともない。


ピン、と空気が張り詰めたような静かな部屋へ侵入し、窓際に置かれたピアノに歩み寄る途中、


「…ぅわ」


と小さく声があがった。

声の主、香月翔の視線を追えば、その先は部屋の奥、壁の上へと固定されている。


「ぇ…マジ光ってる?」


那和が手を上に伸ばせば届くほどの位置に飾られている、ベートーヴェンの肖像画のポスター。その絵の両目が、鈍く光っていた。


驚いて固まる翔を尻目に、那和がポスターに足取り軽く近づいていく。


「お、おい!」

「平気平気♪」


引き止める声に返る返答は、とても軽い。

後ろで固唾を呑む翔を放ったままポスターを見上げた那和は、すぐに呆れた声を漏らした。


「…あ〜、やっぱり」

「えっ?」

「画鋲よ、画鋲!これ手の悪戯はよく聞く話よ?但し、小学校が殆どだけど。

……誰なんだろう?高校生にもなってこんな幼稚なことするの」

「………」

「肖像画関係で他にパッと思いつくのは、『目から血の涙』と『口角があがって笑われる』って奴だけど、血は水彩絵具垂らされてたとか聞いたことある。後で拭き取れるし?口角は……多分気のせいかも?」

「………」


ランタンと懐中電灯、そして月明かりだけの、怪談雰囲気バリバリの中繰り出される現実的思考。………身も蓋も無い。


もう!っと心底呆れて、教室の隅に置いてあったパイプ椅子を踏み台に、何枚かのポスターに刺されていた目の画鋲を抜き取った。

本来なら四隅を留めている筈が、下の二隅は穴だけ開いていて画鋲が見当たらなかったので、抜き取った分で留めておく。

………数もピッタリだった。

面白がって怪談になっちゃった以外の実害はない(?)が、やることがセコい。

一応、学校がお金出して購入してる備品だ。

……定価購入したら、実質お幾ら何でしょう?


ピアノは、というと?

校舎と一緒で未だ現役。

授業でも日々使用されていると聞いたので、特に怪しいところもないし、埃すら被ってないので、暫し観察して終わり。


「……死蔵されてるわけでなし、どうして怪談にまでなったんだろうな?

いや、ピアノの怪談っての自体が色々有名なのはわかるんだが?」

「最初は他のとこの怪談話に入ってて、それが伝言ゲームされてくうちに根付いたんじゃない?そしたら私たちじゃないけど、こうして好奇心から調べようとする奇特な生徒も出るだろうし、その誰かが態と弾いてみたりして、それを更に他の誰かが聞いてたとか?有りそうな話じゃないかな?」

「…あ〜有りそう」

「でしょ?」


肖像画のポスターは、静電気で表面に付いてた埃を落としただけ。

ピアノは清掃の必要すら無かったので、またしても那和が持参したピアノの鍵盤柄ハンカチを鍵盤蓋の上に置いて帰った。

埃を払うためにでも使って貰えたなら、嬉しい。

これも後で校長先生に報告する。

部屋を出る際、戸締りがされてる筈の窓に掛かったカーテンが揺れていたのは、気のせいだろう。



怪談トイレの物を回収してから校長に報告へ行こうという那和に、


『あれ?まだあるんじゃないか?』


と問い掛けたら、


『ボール音の響く体育館ってのがあったんだけど、二年ほど前に老朽化で建て替えられてて、新しすぎて噂消えちゃったって。

音楽室の怪談も元は一つの話だったんだけど、消えちゃった怪談のせいで別けられたって話よ?

もうあんまり聞かないんだけど、歩く二宮銀次郎の話も、学校の創立が古いのもあって当然あったそうだけど、ほら、最近は戦時教育の名残り?労働しながら勉強させるのは虐待だとか、歩きスマホならぬ本でも危ないとか色々あって、像自体が撤去される風潮でしょう?

だから七不思議としての報告の七つめは、「七つめを知ると災いが降りかかる」ということにするつもり。勿論建て替えなんかの背景は参考に書くけど』


だそうだ。

まあ…、あるよな。そういうこと。


トイレに置いてた品物は、聖書二冊以外が無くなってて、二人してびっくり!

那和が、


「校長先生は態々こんなくだらないことにややこしく関わろうとはしないと思うから、私たちが来る理由を聞いた誰かが、怯えさせるために悪戯でもしにきたのかも。……暇人かな?」

「………」

「……報告書は、事実だけを書いとくわ。これだけの物が無くなったことだけ。

さっさと片付けて撤収しましょう」


聖書回収して、長机を外に出して、タイルに接していた脚を拭く。

翔が運びやすいように脚を折りたたんでいる間に、那和が机を置いていた場所で何やらゴソゴソやっていた。


「…まさかココも今から掃除?」

「まさか!こんな時間に水は出さないわよ!

お礼の品を置いてきただけ」

「……………因みに何を?………何処に」

「タイルの上に何重も巻いたトイレットペーパー置いて、その上にラッピングしたシリコンのカラーヘアゴム五十個入りと、こっちも何色か入ってるパイルゴムの三十個入り。を後ろのタイル壁に立て掛けるようにして置いてきた。髪の毛髪の毛言ってたから」

「………マジか」

「……言いたいことはわかる。けどね?気分的な問題?

余所者が学校に許可取ったとはいえ、どかどか遠慮無く入り込んできて無遠慮に家探し状態よ?本当の家主。いるかいないかは別にして、ごめんなさい案件だもの。せめてものお詫びの気持ちは大事。私の気を晴らすという意味でも」

「…あ、そう」

「大丈夫!ちゃんと包装されてるし、ポケットティッシュまで持ってったんなら、きっと無駄にはならないわよ。

後は、校長先生に終了の報告がてらメモコピーして渡して帰ろう。

怪談の検証数的に、夜通し作業も覚悟してたから早く片付いてすごく嬉しい!

ほら、早くしてよ!早く済ませて早く帰ろう!」

「……………そうだな」


校長先生への報告は滞りなく済み、借りていた鍵も返した。

検証に掛かった時間の短さにも驚かれたが、何も問題が出なかったことにも驚かれた。


いやいや物壊さないように慎重に作業しましたから。

怖い怖い言って必要以上に騒がなかっただけですから。



お見送りは校門まで。

訪ねたときより柔らかくなった雰囲気の校長先生が、やっぱり何を考えてるのかわからない笑顔で手を振ってくれた。

外は既に真っ暗で、街灯と家の明かりだけが見えている。

それでも終電には程遠いので、電車で帰るつもりだ。駅までは徒歩で行く。

辺鄙なところではあっても、交通の便はそこまで悪くない。

あくまで都市の中心部と比べれば、という程度だ。

若者が都会に流れるせいで、町としての若返りが出来てないというだけで。


明日も学校は休み。

報告書はさっさと完成させてしまって、邪魔されないうちに知らん振りして提出するつもりである。


いつ行くのか?


って煩く聞いてきたから。

どうしても何かを企んでるようにしか思えなかった。


角を曲がる前に、まだ校門に立っている校長先生にお辞儀をして、やっと終わったと肩の力を抜いて安堵した。



因みに、学校へのお礼というかお詫びとして、ホームセンターで売られていた徳用雑巾二十枚入りセットを寄付したのは、秘密な余談である。

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