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12.客観的に見てみたら…?

総司が口にしたように、荷物の紛失等で問題が起きないよう、宿直室の鍵は全員揃って校長先生に手渡した。

ついでに『検証』開始を伝えたところ、総司も言ったような内容を、大人ならではな表現で嫌味まじりに邪揄され、希の機嫌は急降下するし、残りの三人は気まずそうに視線を逸らすしで反省の色は見えない。

女子四人に気づかれないよう、総司が短く浅く溜め息を吐いてたが、彼女たちを挟んで真向かいにいた校長にはモロバレだったようだ。


………視線が痛い。


……止めろ。……ちゃんと手綱とっとけ。……同類がなにしてる?


そんな感じのことを思われてそうだ。

慌てて居住まいを正さざるを得なかった。

何故なら冬島総司自身も、校長から言えば面倒ごと遣る方無い連中の一員かつ、現在進行形で、迷惑極まりない筈だからだ。


(……コイツらに張り合われた所為で巻き込まれた奴って、もっと前にココ来てんだよな?

聞いた限りじゃ一人みたいだったけど、この校長相手にしてどんだけボロカス言われたんだろ??)


冬島総司が思い浮かべたのは、荒垣希が事あるごとにグチる中に出てくる、多分、女子?

名前よりも、『アイツ』とか、『クソ女』とか、こちらに聞こえないようにしてるつもりだろうけど、回数多いし、内容エグいしで、名前わかんなくても、色々詳しくなってしまった。

い、何とかさん?

同じクラスで、数Ⅰだか、数Aだかが荒垣希より成績良くてムカついた?

……そんなくだらん話をしてた気がする。


………いるよな、そういうヤツ。


相手関係無く、勝手に勝ち負けの判定出して、ライバル認定ならまだしも、敵視して全力で足引っ張りに精を出すヤツ……。


・・・うわ〜〜!ほんとメンドクセーのに関わっちまった。


せめて自分がもっと努力して、成績追い抜いて、そこでまた勝手に勝ち誇ってれば害が無いのに。


相手を気に入らんのは、別に人の勝手だからどうこう言わんし放っておくのに。

今回はこちらも自業自得の部分もあって偉そうなこと言えんけど、周囲巻き込まずに自分だけで完結してれば、こんな面倒なことにならんのに!


とか、明後日の方角見ながら考える。


校長はそんな男を目を細めて見ていたが、目の前にいるやる気皆無な他校生たちに、速やかにすべきことを完遂させろと告げて送り出した。


冬島総司の言うところの巻き込まれ女子、茨木那和が、監視の名目で付き添った香月翔と、面倒臭がりながらもそれなりに和気藹々と『検証』を終えたうえ、この学校の校長先生からマイナス印象を払拭して帰っていたことを、彼や彼女どころか、本人たちも知らなかったが?


***


ちょっとしたミスからグループ内の標的にされてしまった山南穂花は、明かりの少ない校舎の外側をトボトボと歩いていた。


向かう先は体育館。


密かに頼りにしていた先輩は、そんな彼女の様子には少しも気付かず、冷たい口調で突き放した。

言いたいことはハッキリと口に出すが、少々自分本位が目立つ荒垣希のせいで、無理矢理参加させられている自分もその被害に遭っている。

それでも普段の希の発言は的を得ていることも多く、畳み掛けるように相手を押し切ってしまうから、彼女のそばにいれば有利なこともあって、偉そうに指図してくるのにも我慢して一緒にいたのだ。

今回は標的にされた子が上手く立ち回ってしまったので、希が八ツ当たりする相手がいなくて仲間内にソレが来た。


……運が無かったのだ。


由利恵はそもそも希の太鼓持ちだし、園子も希が言ったことに噛み付いたりはしない。

冬島先輩も希の言うことは聞かなくても、穂花の味方では無かった。

最初からイニシアチブを取ることも、その気も無いので、誰かが決めてくれる方が楽ではある。

だから時々、損にしかならない役も回ってくるけど、それは、そのときだけのこと。

また次は、他の人よりも楽が出来る筈なのだ。



主電源は落としていても人が中にいる校舎と違って、離れた場所にある体育館は、非常口の場所を教える緑以外の光は無い。

当然、全ての扉は施錠されていて、外から見ると完全な真っ暗闇だ。

渡された鍵は正面入口のもののみで、校長室から向かうと裏側に突き当たってしまうので、砂利や伸びた草も踏みながら回り込むしかなかった。

ベタつくような暑い空気を纏って、冷えもせず伝い落ちる汗の感触にすらビクついてソロソロ歩く。


聞こえる音は、緊張からか普段より早くて上がった呼吸音と、地面を踏みしめる足音だけ。どんなに気を付けていても、靴裏が擦れる音は無くならない。

明かりの届かない暗闇の中から、時々、風で木々の葉っぱが擦れたり、虫の鳴き声なんかが聞こえてきて、その度にドキッと鼓動を跳ね上げた。


そっと鍵を回しても、カチッと鳴る音は消えず、迷信と言うか、冗談にしか思ってない『怪談』の確認とわかってても、それを夜暗い中一人ですることになるなら、はっきり言わなくても心細いどころか、怖い。

音が少ないのが怖いのに、自分が出す音以外が聞こえることも怖い。

体育館に入るまでは、気が引けすぎてどんどん歩みが遅くなっていったのに、いざ中に入ると、今度は早く終わらせたくて足早になる。

外から音だけ聞けばいいのかも知れなかったが、『何も無かった』ことを、『ちゃんと確認したんでしょうね?』と怪しまれる方が嫌で、キチンと見て回りました!と証明するため、何枚か証拠の写メでも撮っておこうと思ったのだ。


何処も締め切られてるせいで、穂花が動き回る以外に空気の揺らがない体育館の内側は、床面の木材に塗られたニスかワックスの艶に反射する光で様相が浮かび上がって薄気味悪い。

閉めた扉から離れるごとに、外で聞こえていた音の数々が遠ざかり、不安を徐々に駆り立ててくる。

体育館シューズどころか上履きすらも持参してはこなかったから、何気無く振り返った視界には、靴下を履いた足裏から漏れた、蒸れて湿気た足跡が、緑の電灯に照らされた下で少しずつ消えて行くごとに、『何』かが後を追ってきているように思えて、自らより暗い場所へと近づいてしまう。


すると、


タンッ


と、軽くボールの跳ねる音がした。

ダンッ

と叩きつけるような感じではなく、持っていたボールを落としたような?

……耳に届いた音は少し遠かったので、反響しつつも『聞こえた』方向に目をやると、黒く細いシルエットが、舞台幕の開けられたままのステージを降りてすぐのところに、あった。


「!!」


幻聴と思えるほどに大きく、心臓の音がドキリと跳ねた。



ヒュッ バッ タン


黒いシルエットから丸いボールらしきものが飛び出し、一番近くにあったバスケットゴールに見事なシュートが入る。

聞こえた音は、ボールがゴールネットを通り抜けた音と、フローリングの床を跳ねた音。

ワンバウンドしたボールは、狙いすましたかのようにシルエットの胸があるだろう場所へと、吸い込まれるように戻っていった。

棒のような腕が上がる。


ヒュッ バッ タン


同じ動作で同じことが繰り返されたのを見て、やっと我に返った。


(…人、だ。人がいる!)


よく目を凝らすと、体操服の上にユニフォームらしきものを着た人が、暗闇の中でシュートの練習をしていた。

ユニフォームの色も黒だったから、余計に驚かされたのだ。


(な〜んだ。バスケ部の生徒がこっそり練習してただけか)


バスケは一チーム五人。

プロは知らないけど、うちの学園でもシュートが決まらない子や、パスミスが多い部員は、みんなから慰められるけど、練習試合とかでも負けたりしたら、揶揄られるし嫌みを言われることも珍しくない。

みんなで力を合わせて頑張りましょう。

ってのは建前で、勝ったらそれで済むけど、負けたら上手い子から文句を言われる。そういう子は人気者なことも多いから、周りの子も一緒になって囃し立てるんだ。

下手な子は練習時間を増やしたりして頑張るから、文句言ってた相手も一生懸命努力してるの見て、とりあえずは納得する。だから長くは続かないけど、そのための練習をこっそりして、先生に叱られる子も時々出るよ?

窓かどっかの鍵、態と開けといて、電気も付けずに練習。

やっぱりバスケとかだとちゃんとした高さのゴールって、学校のヤツ使うのが一番いいから。

体育館だと電気なんかつけたらバレバレだから、つけない。

でもやっぱり気を付けてても音でバレて、『防犯』を理由に叱られるんだ。


……多分、あの子もそうなんだろうな。って思った。



「あっ!ヤバっ!!」


怪談じゃなくて只の生徒だと思ったら安心しちゃって、しばらく練習を見ていたら、相手もこっちに気付いて焦りの声を上げている。


「…すみません、もうちょっとシュートの練習したくって」


そう言って近付いてきた子は、声でわかってたけど女子。

学年は知らないけど、バスケやってるだけあって背は高かった。

結構長い髪の毛を括りもせずにいたみたいで、ボールを抱えてる腕の肘くらいまであるのが見える。


「……あれ?先生じゃないの?私服??」

「…えっと、私はこの学校の生徒じゃ無くて」

「ああ!もしかしてうちの『学校の七不思議』とかいうバッタもんの検証しに来た人?」

「え…」

「すっごい噂になってるよ?今どきそんなこと真面目にする奴なんかいないって、普段は注意する側の先生たちまで呆れてたもん!

精々漫画小説見るくらいだろ?小学生かよ!ってさ。

みんなも興味津々、色々好き勝手言ってるけど、あなたはイジメてるほう?イジメられてるほう?どっちなの??」

「………」


先生じゃないとわかった途端、ウキウキした様子で話し掛けてくる女。

ちょっとどころか馴れ馴れしい。

しかも荒垣の所為とはいえ、『イジメ』る側になってしまってるこちらとしては、好奇心ありありで来られると、ハッキリ言って、なんかムカつく。


何も言えないで黙っていたら、覗き込んできた相手が気まずそうな顔をして謝ってきた。


「…あっ、ゴメンやっぱ言わなくていいわ。

その代わり、あたしがココにいたこと黙っといてね?」

「!あっ、あの、でも、怪談が…」

「ああ『検証』ね?大丈夫大丈夫!あたしだってバレなけりゃそれでいいから。

あなたが入ってきたのに慌てて逃げたって言ってくれればいいよ?

それで辻褄合うでしょ?いいよね??」

「えっ、あっ、でも…」

「いいよね?」

「………うん、わかった…」

「ありがと♪……約束、ね?」

「………」


後で先生来るよね?

じゃあ今のうちに帰っちゃおう!


そう言うと慌ただしく後片付けを始める。

といっても、バスケットボールを倉庫に仕舞うだけだったけど。


「付いてこないでね?抜け道知られて次から使えなくなったら大変だから!」


まあ頑張って〜〜

と無責任に言い捨てて、ステージ裏へ消えてしまった。

拍子抜けはしたけど何も無かったことに安心はして、気を取り直して写メを撮ってたら、


『あ〜〜そうだ!外にあるトイレ!アレ、場所的にイジメの現場になりまくってたとこだから気を付けて?

ホントのとこは知んないけど、強姦とかもあったらしいよ〜〜』


って声だけ聞こえてきて、ちょっと軽くなってた気が、どーんとまた重くなってしまった。

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