表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転職: 『流者はつらいよ』  作者: 息忌忠心
【王都編】Ⅳ 一花心の流者 と リリベル姫
44/51

女子の実家はつらいよ

 爺に言われて急に思いたった、というわけではないのだが。


 いちおうのけじめとしてマリアンナの家を訪ねた。

 が、いまだにカーテンを閉めきったままで、ノックにも応じてもらえない。

 数分ねばって諦めかけた時、ようやくドアに隙間が開いた。


 げっそりと頬のこけた彼女の親父さんが、ぎょろぎょろした目で薄暗い玄関から俺を見ている。

「二度と来ないでくれ。神経に触ってしかたがない」


 背筋に冷たいものが走ったが最後に一言だけ、彼女への感謝の伝言を願った。

 親父さんは聞いているような聞いていないような、虚ろな表情で静かに扉を閉めた。


 ……何度も押しかけるのではなく、手紙にすれば良かった。

 近所の人らの話によると、彼女の家は由緒ある貴族らしいのだが、最近は新興の貴族連合にも足元を見られるほど凋落しているらしい。


 今の俺にできることって、ないよな。

 マリアンナが心配だー心配だーと、逃避している場合でもない。

 自分自身の異世界ライフをどうにもできていないのに、彼女の人生に関わろうだなんて、そもそもおこがましかったのだ。



 ジョブハンター・サポートセンターに着くと、ちょうど12時で勤務を終えたジミュコーネ師匠と鉢合わせた。

「その顔は、行く気になったのですね?」

「はい……よろしくお願いします」


「では、市場で何か買って食べたら出発しましょう」

「このまま行くんですか?」

「明日にする理由は特にありませんから。何か買っておきたい物はありますか?」

「8万Gじゃジョブは買えないでしょうし……当面の生活費に残しておきます」


「そうそう、ジョブ屋に行ってきたのですが」

「何かわかりましたか?」

「いいえ。二週間ほどまえに女が『蹴球士』を売りに来たらしいのだけれど。よりにもよって新人のバイト君だったらしく、売買記録は残っていないそうです」

 なんだよそれ。

「フードにマスクで特徴も分からずじまい。どのみち違法職歴書士の本人なんてことはないでしょうから、これ以上追っても無駄ですね。いちおう王都内のジョブ屋には盗品の手配をかけてもらいましたが、おそらくすでに『履歴洗濯』済みでしょう」


「それがわかっただけでもスッキリしました。もうキッパリ忘れます!」

「ではお昼にしましょうか?」

「肉!ホット・サラマンドルが食べたいです!」

 師匠は少しホッとしたように、市場へ向かって目尻をゆるませた。



 馬に二人乗りして数時間。ときどき『乗獣士』のレベル上げに手綱を代わりながら、シュッドの森を越え、街道沿いの宿屋村を越え、山腹の町・レボートに辿り着いた。


「ただいまです」

 二階建ての大きな木造宿舎を回り込んで、練習場らしき広場。

 サーカス団員らしき男女が、真剣な表情で綱渡りやジャグリングをしている。

「ただいまです」

 ようやく気付いて貰えたようで、銀色のライオンに餌をやっていた男が歩み寄って来る。


「おう、帰ってきたか!!! 元気にしてたか!!」

「はい。おかげで」

「で、何だ?子どもでもできたのか?」

 と男は俺を上から下まで吟味してくる。


 こんなデカイ子どもがいるかよ!と突っ込みかけのギリギリで意味を把握した。

「はっ、はじめましてお義父さん、タイガと申します」

「調子に乗る性格なので、受けずに流してください」

「相変わらずクソ真面目だな。タイガ、本当にうちのジミ子でいいのか?」


 師匠の尻を親父さんが叩くと、瞬時に彼女のこぶしが脇腹を狙った。

 が、反撃をいとも簡単にかわした親父さんは、首に巻いていたタオルを手にすると、スパンスパンと師匠の連撃をいなしてゆく。

「汚いっ……汗臭い……反則!」

 あまりにも汚くて巧みな攻撃に見とれていると、ついに親父さんが師匠に関節技を決められて地に組み敷かれた。

「うおっ、ギブ、ギブアップ」

 ………………何がギブアップだ。嬉しそうな顔しやがって。。。


 実家に寄り付かない娘との滅多にないスキンシップを堪能し、師匠の父親は握手を求めてきた。

「団長のアックルだ。娘が世話になっている」

 こういう基礎体温が高い系の人は、どちらかといえば苦手な範疇に入るが、友だちになりに来たわけではないので強い握手で応えておく。

「いいえ。お世話になっているのは自分のほうです」


「で、タイガとやら。うちに何の用だ?」

「ちょっとの間、稽古をつけてあげて欲しいのです」

「サーカスの稽古なら、お前にだってできるだろう?」

「今、いろいろ立て込んでるのです」

 かぁ~と苦虫を噛んだようにタオルを首に巻きなおしながら、アックルさんは不承不承に俺を受け入れてくれた。


「タイガさんは流者なので、くれぐれも宜しくお願いします」

 ジミュコーネ師匠はアックルさんに頭を下げると、他の団員には声もかけずに訓練場に背を向けた。

「おいっ、泊まっていかないのかよ!?」

「いろいろ立て込んでいると言ったはずです」

「墓参りは??」

「迎えに来る時にします」


 アックルさんが何とか引き留めようとするが、師匠は冷たくあしらって馬に飛び乗る。

「では。日没前に平野まで降りたいので失礼します」

 ジミュコ師匠が職歴書で何かのスキルを使うと、栗毛の馬がありえない速さで滑走してゆく。


 しーん。

 というか、チーンというか。

 もはや墓参りの必要もなさそうなほど、アックルさんが沈痛な顔でうなだれている。娘に引導を渡されて、自分から墓穴にもぐって行きそうな……


「さて、晩飯前にいっちょ汗でも流そうか、タイガ」

 切り替え早いな、このおっさん。

「何から始めようか……ちょっと職歴書を見せてみろ」

 はい。と俺は素直にスキル書を手渡す。


「流者のくせにドラゴン版ってどういう……おい、何だこの滅茶苦茶なスキルの数は」

 俺は現状では直結時のみとなったが導入LVの減衰がないことや、昨日までCAPが999あったせいで成長加速(ブースト)していたことなど、経緯を簡単に伝えた。

「ジミ子のやつ、自分の手に負えなくなって俺にブン投げていきやがったな」

 そこまでお荷物扱いされると、少しだけプライドが傷つくのですが。


「そのジョブ、外せ」

「どれ……ですか?」

 127のCAPに突っ込んだLV上げ用のジョブ群を眺めて、考える。


○就業ジョブ一覧 (CAP127)

 軽業師 LV24(マスター)

 狩猟士 LV19

 警備士 LV18

 曲芸士 LV12

 配達士 LV12 (↑1)

 占い士 LV9 (↑1)

 地図士 LV7 (↑1)

 浮流士 LV6

 魔術士(マジシャン) LV5

 香具士 LV5

 乗獣士 LV2 (↑1)

 道化士 LV1


・予備職

 脱捨師 LV24(マスター) 蹴球師 LV24(マスター) 舞踏師 LV24(マスター) 裁縫士 LV13 薬毒士 LV12 洗濯士 LV9 皿洗士 LV9 貴金士LV6 保育士 LV6 人形士 LV5 養蝶士 LV4 物語士 LV3 暴食士 LV2 調理士 LV2 指揮士 LV2 養蜂士 LV1


「全部だ。実力もない奴がシナジーをかき集めても、振り回されるだけだからな」

 あー。今までの俺の苦労、全否定ですか。

 凹んでる暇もなく職歴書を取り上げられ、代わりに一本の棒を持たされた。

「まずはアレからやってみようか、タイガ」

 

 アックルさんが汗ばんだ顔に満面の笑みを浮かべて指したのは、高さ7~8mはあろう一本の渡り綱だった。

 マジすか。スキルなしで、いきなりアレすか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ