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異世界転職: 『流者はつらいよ』  作者: 息忌忠心
【王都編】Ⅳ 一花心の流者 と リリベル姫
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乞いはつらいよ

 脇の扉から入ってきたのは、グロリオサ王子だった。

 髪の色が薄紫色だという違いはあれど、リリベル姫に顔立ちがよく似ている。

 そりゃ、双子だからな。

 もしかしたら半一卵性の兄妹なのかも知れないぐらいに似ている。


 正確には一昨日会っているのだけれど、王子は馬車から降りて来なかったので、初顔合わせということになるのだろうか。

「お前がタイガだったか。腰を抜かしていた一昨日とは印象が違ってビックリだな」

 ……この野郎。王子じゃなかったら叩き切ってやりたい。

 などと妄想に花を咲かせている場合では全然ない。


「ちょっとボクにも見せてくれよ」

 王子は俺の職歴書をひったくり、眺めてフンと鼻を鳴らした。

「万年樹の石碑の剣が抜けたというのは本当か?」

 これはまずい。さりげなくそれとなく話題を変えねば。

「よく覚えておりませぬ。そ、それよりイスタンベールでのご遊学はいかがでしたか」


「おい、流者タイガよ口を慎め。グロリオサもいいかげん邪魔だてするでない」

 国王が髭を振るわせツバをまき散らした。

「別に邪魔なんかしないよ。爺の代わりにボクが『徴収』を使ったほうが効率がいい、ってだけの話だろ?」

「ふむ……確かにそうではあるが」

「グロリオサ、特殊スキルを軽々しく口外するでない」

 チチウエの爺さんが木の杖で床を叩いた。


「へいへい。でもさボクなら3/4の5/6でLV15ぐらいはリリベルに戻せるはずだし。逢魔に差し掛かった現状を考えるなら、リリベルにはボクの花葉装飾師をやるってのもアリじゃない?」

「聞いてなかったのか?リリベルはイスタンベールから縁組の打診が来ておって、もう悪夢の卵戦へは出奔せぬやも知れぬ」

「はぁ!?そんなの聞いてない!?」

 王子が国王に向かって口をへの字にひん曲げた。


 俺も、鏡があったら自分の顔を見てみたいほど頭から血の気が引いてゆく。

 もう完全にどん引きだ。


 けれども王子はそれ以上なにも言わず、俺に再び職歴書を掴ませ、黄金色に輝く履歴書を俺のそれと直結させた。

 ちよっ……まっ……やめっ……おやめください……。


『トピックス:花葉装飾師LV24を譲渡し、剣術師LV24を受領しました』


 はい?

 火照りの残った耳の下、首筋のあたりに冷たい感触が当たっている。

 ……王子が目にも止まらぬ速さで実剣を抜いたのだ。


「この野郎!どうやってボクの『剣術師』を強奪した!?」

「あわわわわ……強奪などとは誤解です……滅相もございません!」

 仲裁に駆け寄った爺が俺の職歴書を見て、腰を抜かしそうなほど仰け反った。


「なんと……LV24とは……もしや花葉装飾師もこうであったのか?」

「はいぃぃぃ。勝手にLV24で入って来たのでございまするる!」

 やべぇ。マジ打首獄門ものの大ピンチ到来だ。


「お返しします……この場ですぐさまお返しいたしますので何とぞご容赦kd……」

「そういう問題じゃないだろ?ボクの能力で取り返しても3/4まで減衰するだろ?どうしてくれるんだ?このまま打ち首か?それともトカゲ山でドラゴンの餌にしてくれようか!?」



 爺さんの取りなしで皮一枚で済んだ首の傷の手当てもされず、俺は通用門から堀へと叩き落された。

 必死に泳いで三本の腕で陸に上がり、今日もめでたく裸スタート。

 くそっ……寒いぃぃいい!


 勝手に直結させておいて……なにが王家だ…………死ぬ所だったじゃねぇかクソッタレ!!!

 すったもんだの挙句に、リリベル姫から受領した花葉装飾師は王家へと帰っていった。

 それは仕方がない。

 もうあきらめるしかない。それよりも。


 CAPが999から127まで激減している事のほうが問題だ。


 原因は分からないが就業キャパを大幅に失い、ジョブがすべて予備職(リザーブ)へ落とされている。

 これじゃあ就業できるジョブがLV24(マスター)で5つ程度。シナジーも成長加速も限定されてしまう。


 それでも。青天井の崩落など今となっては些細な問題に思われた。

 リリベル姫が縁組してしまうなら。

 この先、強くなることに何の意味があるというのか。



 折れる……心が折れる…………今にも折れそう。

 夢も叶えられないまま、ただただ年をとっていくだけなら……いったい何のためにこの世界で再生したってんだよ俺???


 浮流士の『防寒衣』にくるまり、俺は日向で震えていた。

 ………………。

 始めて役に立ったな、このジョブ。。。



 一枚きりの平民服が乾くのを待つうちに、いつの間にかウトウトとしていた。

 くしゃみで目を覚ますと、まだ夢が続いているのだろうか、半開きの瞼の向こうにリリベル姫の姿があった。

 姫は俺の隣に腰かけ、タンポポに似た花の種を風に乗せて遊んでいる。


 夢ではない。

 私服の男女が遠くの物陰から、しっかりとこちらを監視している。


「お疲れのようですね、流者さん」

 リリベル姫がマスケット帽のつばを軽く上げ、優しい声色で俺をねぎらう。

 …………。

「少しうなされていましたよ?」

「……お気遣いありがとうございます」


「就業ジョブが浮流士だけ……なんだか初めてお会いした日を思い出してしまいますね」

 俺に微笑みかけた姫の表情が、なぜだか少し曇った。

 もしかしたら顔に出てしまっているのか、と姫から顔を背けて防寒衣のフードを被った。

「花葉装飾師が予備職にも気配がありませんが……花はお嫌いになったのでしょうか?」

 つい先ほど返上させられた城内での顛末を、姫はまだ知らないのか。


「姫様……もしかして。あの日も『鑑定眼』で俺のジョブを覗いていたのでしょうか?」

「えぇ。浮流士(フローター)が珍しかったので……つい声をかけてしまいました」

 ……………………。

「それで俺を物乞いか何かだと考えて、俺に慈悲を施されたのですね?」

「いえ……そんなつもりじゃ……」

 そんなつもりじゃなかったとしたら、どんなつもりだったというのだろう。


 俺は鞄から濡れたままの『チグリガルド金貨』を出し、姫につき返した。

「使われなかったのですね」

「施しが欲しかったわけじゃないんです……俺は……」

 俺が姫から貰ったのは…………そんなものじゃなくて……。


 柔らかな指先がかすかに触れ、手のひらに乗せた金貨の重みが消えた。

「世俗に無知だったとはいえ、失礼なことをしてしまいました。許して下さい。そして……どうかお励みになって……いつか…………」


 かすれた声で別れを告げ、リリベル姫は小走りに城の裏手へ去っていった。

 

『今後は姫に近づかないように』

 という国王の勅命を知らないのだろう。お咎めもなしに護衛らが姫を慌てて追いかけてゆく。

 もっとも、俺から近づいたわけじゃないから、お咎めはないのだろうけれど。

 じゃあ、いったい、いつ。俺は俺から姫へと近づいたことがあったろうか。


 あーぁ。

 どこで選択をまちがえたのかな、俺。



* * *

いつもお読みいただいて感謝です。

こんな作品を読んでいただいて。嬉しい限りです。

どなたか知りませんが、評価ポイントまでいただいて。。。

相互お気に入りユーザーになっていただけたら、作品を拝見しに伺います!

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