GJはつらいよ
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万年樹の裏で野宿した、翌朝の遅い時間。
情報収集に訪れたジョブ屋『GJ』は客もなくガランとしていた。
「いらっしゃい、勉強しまっせ!」
販売員の兄さんが、手もみしながらリストを提示してくる。
〇入荷しました!
農産師24(8)、畜産師24(8)、釣り師24(8)、魚漁士23(7)、波潮士3(1)、養鳩士12(4)、養蜂士18(6)、養蝶士6(2)、養獣士3(1)、狩猟士17(5)、炭鉱士18(6)、鉄鉱士21(7)、貴金士17(5)、鍛冶士12(4)、建築士3(1)、木工士17(6)、石工士19(6)、貴石士8(3)、鍵士21(7)、乗獣士25(8)、配達士18(6)、家政師24(8)、清掃師24(8)、皿洗師24(8)、調理士18(6)、菓子士12(4)、酒造士23(7)、会計士7(2)、文書士5(2)、記録士18(6)、服飾士11(4)、装飾士21(7)、警備師24(8)、新聞士4(1)、宣伝士15(5)、気象士8(3)、絵本士6(2)、画造士13(4)、人形士8(2)、歌謡士4(1)、楽器士7(2)、曲芸士15(5)、軽業士11(4)、占い士7(2)、剣術士6(2)、槍術士3(1)、拳術士8(3)、体術士11(4)、医術士3(1)、薬毒士14(5)、看護士3(1)、衛生士17(6)、整体士22(7)、保育師24(8)、各種教師士
品揃えのほんの一部です。お気軽にお問合せ下さい。
ジョブの最大LVは『24』か……。
何でもいいから皿洗い・フローター以外のまともなジョブが欲しいのだけれど。
「ちなみにどの辺りがオススメですか?」
「よくぞ聞いてくれました。何を隠そうこの一品、ほとんど市場に出回らない珍品なんでさぁ」
と勧められたのが本日のオススメ、『蹴球士LV20、15万7千G』
……デスヨネ。職歴書だけで5万とかだったし。
もちろんそんな金など持ってはいないが、獲得スキルをざっと覗いてみる。
走力系と空間系?のパッシブの他、『球』『猛疾駆』『大声』『警笛』『石頭』『超跳躍』『監視』『監視剥がし』『戦線掌握』『旗』『急所打撃』『残像』など……これ、たぶんサッカーだよな? 夏場のグラウンドを思い出すだけで汗が出てくる。
「じゃあ、お金作ってまた来ます。勉強になりました」
「冷やかし歓迎、毎度よろしくぅ!」
どのジョブを選ぶか以前に、どうやって金を作るかが問題だ。
GJを出ると衛兵隊の髭モジャとバッタリ出くわした。
「よぉ、お花畑。緊急の狩りが入ったんだが行く気はあるか?」
「お花畑は勘弁ですが、もちろんですとも!」
他のハンターたちと共に荷馬車に揺られ、王都から数時間。
本日のハントは、王都南の『シュッドの森』での貴族の狩りのお伴だ。
荷馬車では強面のハンターたちが真面目な面持ちで、祈りを捧げている。
「ドナ……ドナ……我らに命の加護を」
「ドナ……ドナ……我らに勝利の栄光を」
「ドナ……ドナ……我らに聖なる祝福を」
何のまじないかは知らないがブツブツ、ブツブツと荷台の空気がすごく重い。
集合地点と呼ばれる草原で、俺たちは荷台から降ろされた。
昼下がりの新緑がざわわざわわと風に吹かれる、爽やかな草原で思い切り背伸びする。
荷馬車で食らった神経衰弱を深呼吸で回復しながら、異世界オープンワールドの風景を堪能する。
しばらくすると別のグループが合流してきたのだが年寄りや女の子、まるまるとした若者などあまりハンターらしくない面子も交じっている。
けれども、黙って観察していられる時間は長く続かなかった。
中年衛兵が、少女のスカートを捲って中を覗こうとしていたからだ。
「……やめてください」
「どんなパンツ履いてるのかちょっと見せてみろよ」
衛兵が槍の先で、今にも少女の刺繍入りスカートを捲ろうとしている。
俺は意を決して『お守りのメダル』を握りしめ、二人の間に割って入った。
中年衛兵は槍をブラブラさせて、いけ好かなそうに見返してくる。
「お前も一緒に見たいのか? ほれ、捲ってみせろ」
このクソッタレ。
鞄の中で冒険の履歴書が震えている。
「お前みたいに権力暴力で欲を満たそうとする奴がいるから、助兵衛が迫害されるんだろうが!?」
ふぅ、言った。言ってやったぞ。
高揚、緊張、興奮でもう胸が、っぱいだった。
「あぁん?何者だお前!?」
「………………お花畑のタイガだ!!」
衛兵はキョトンとして思い当たる節を探している。
「帰ったら本部の副隊長に聞いてください」
、苦虫を噛んだような顔をしながらも、諦めて衛兵は持ち場へ帰って行った。
そりゃそうだ。
お花畑のタイガなんて恥ずかしい二つ名の有名人など、存在しないのだから。
美少女がスカートを揺らめかせて俺の前に立った。
「……何だか巻き込んでしまったみたいで、すみません」
「いやいや。俺が勝手にムカついただけだから」
「私はマリアンナ。よろしくね、お花畑のタイガさん」
いたずらっぽく微笑みながら、彼女はスカートの裾をつまんだ。
馴れ初めなんてものは、どこの世界でも理想をはるかに下回って歪で、奇妙なものらしい。