何者でもなくてつらいよ
今朝も楽しく花屋のバイト。
『花葉装飾師』のセンスも少しずつ磨かれてきたから、そろそろバイト代が上がらないだろうか。
俺はいつもの1,000Gを受け取り、強く握りしめ広場へ向かった。
掲示板はグロリオサ王子の帰国のニュースで賑わっている。
記事の内容が王子を褒めちぎっているのは、人気と人徳によるものなのか、王子派の印象操作なのかは分からない。
…………俺だって5人も盗賊を倒したんだけどな。
王子の半分くらい人気が出たってよさそうなんだがな。
配達のバイトまで時間があったので、公園で冒険の履歴書を開いた。
新規獲得スキルを熟知しておかないと、いざという時に使えないからだ。
まずはパーピリアさんから貰った舞踏師のアクティブ・スキルを確認。
『扇』『ナイフ』『魅了眼』『誘眠の舞』『絹の鞭』『足踏み』『投擲命中』『煙幕の舞』『火炎噴爆』『急所隠防』『急所蹴撃』『金縛眼』
防御志向の妹・脱捨師に比べて確かに攻撃的なのだが。
彼女がなぜ職人武具を『急所隠防』の『扇』に設定したのか、想像が及ばない。
パーピリアさんともう少し話しておけば良かった。
狩猟士で『弓矢』を獲得したのだが、『急所』系のスキルが乗ってくれればそこそこには使えるだろうか?
ただし矢ジリに組み合わせたい貴金士の具象化は『アルミニウム』『銅』『パラジウム』と柔らかすぎて泣きたくなる。
……欲をかかずに鉄鉱士にすれば良かったのか。
それに比べて曲芸士でも具象化を獲得した『扇』がシナジー乗りまくりで、セカンド・ウェポンの筆頭だ。
『ナイフ』は舞踏師・狩猟士・曲芸士で獲得済とはいえ、戦う練習をまだ一度もしたことがない。
警備士では『足跡鑑定』と『雨合羽』を獲得した。配達士でも『雨合羽』、さらには曲芸士で『傘』が獲得されたから、これでもう雨は怖くない。
…………よし、警備士と配達士はシナジーの養分にしよう。
『手荒れ防止』『注水』『洗剤』と、LV6まで共通していた洗濯士と皿洗士が、ここにきてようやく個性を発揮した。LV8が、かたや『籠』かたや『皿掴み』。
…………いや、そのうち家政士の成長加速で役に立つだろう。
保育士・人形士・香具士で同時に『語り上手』を獲得したが、物語士も含めたシナジー★★の恩恵は予想ほど大きくなかった。
…………シナジーはあくまで補助にすぎないって師匠も言ってたな。
冒険の歴書がまっさらだった頃は何にでもなれるような気がしていたけれど、道化士系や香具士系に偏りすぎててつらい。
このままでは結局、リリベル姫の親衛騎士になる!という夢も叶わず、何だかわけのわからない者になってお終い……なんてことになりそうで怖い。
突然、何の気配もないまま後ろから肩を強く掴まれた。
いつの間にか、見知らぬ男二人に前後を囲まれている。
「流者のタイガだな。ちょっと一緒に来てもらおうか」
「ん? どこにですか? 衛兵隊本部なら嫌ですよ?」
とは言ったものの、衛兵ならそれほど問題ではない。一番まずいのはコイツらが昨日の盗賊の仲間だった場合だ。
『ドナの手』で『煙幕の舞』でも試そうかと思案する間に、意外な返答が返って来た。
「……行き先はチグリガルド城。国王陛下がお前をお呼びだ」
目立たぬよう馬車に乗せられ、ガタゴトと新王通りを北上してゆく。
俺の両脇を固めている男は、私服の親衛騎士団なのか、もっと別の部署があるものなのか。かすかに、どこかで見かけたような気がしないでもない。
パーピリアさんが、流者は王室で召し抱えられることもある、と言っていたので食客になれたら大チャンス。
一方で流者と知れ渡ったためか最近は下火らしいが、『国王の隠し子』疑惑も完全に払しょくされたわけではない。
残り火を種ごと消し去るために、こうして馬車に隠れて運ばれているという可能性もある。
チグリガルド城の堀を越え正門をぬけたが、そのまま真っすぐには進まず脇にそれ、裏の搬入口から城へと入った。
簡単なボディ・チェックを受けるが、冒険の歴書を持ったままの謁見ってどうなのだろう? この中には武器が満載されているというのに。
いきなり暗殺される雰囲気でないのは有難いことなのだが。
王宮で生まれて初めて赤い絨毯の上を歩いた。
そして怒られた。。。
チグリガルドでこの王城の赤絨毯の上を歩いて良いのは、王族だけ。
貴族でさえも脇の石床を行かねばならないのだという。
庶民なのだから知らないのも無理はないと、案内人の一人が取りなしてくれたが、それはそれで少しムカつく。田舎者の庶民で悪かったな。
王との謁見が迫り、緊張でのどが渇いてくる。
いっぽうで本当に王が、16年前にいなくなった親父だったりしないか?
という疑惑を消すものが目に映った。
『チグリガルド王家訓 惜しみなく収税し、惜しみなく施せ』
我が家の家訓は 『借りは作るな』だからである。
階段を昇りきって再度のボディチェックを受けると、いよいよ国王と対面だ。
呼吸が乱れてくる中、謁見の間の扉がゆっくりと開かれた。




