表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転職: 『流者はつらいよ』  作者: 息忌忠心
【王都編】Ⅳ 一花心の流者 と リリベル姫
38/51

闇の道化士はつらいよ

 今晩はチグリガルドの王都立サーカスの興行がある日。

 建てっぱなしのテントはかなり大型で、100人くらいの観客が入れそうなほどのシロモノだ。

 俺の『道化士』はまだLV1だが大丈夫だろうか? いや『軽業師』ならすでにマスターだ。

 それなら何とか…………。


 結果。これっぽっちの問題もなかった。


「はいはい、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。座席は早い者勝ちだよー!」

 芸人たちに飲み水や衣装を運び、見慣れない猛獣たちに餌をやり、チンチクリンの煌びやかな服に着替えさせられると、俺は客の呼び込みに回された。

 開演したら開演したで、棒を持って突っ立つ裏口の警備だ。


 うん。『警備士』の各種スキルでお役に立てて光栄でした。


 時給1000(ガルド)で四時間、片付け終えて日当を受け取ると、すきにすきまくった腹を抱えて師匠の部屋へ向かった。




「へ、れんいんは、わはりそうへぷは?」

「わかりません。食べ終わったら幾つか試してみましょうか」

 師匠は水を差しだしながら、俺が口からこぼしたナバリナ・チキンとハーブのかすを眼鏡の奥から睨んだ。



 まずは歴書を直結させての確認から。何日かぶりで師匠の歴書と俺のものをすり合わせる。


 くうっ。トントンとして、いい匂いがした。

『トピックス:調理士LV2を受領しました』


「…………(ナンデスカ)。」


「…………(ナニモイッテマセンヨ)。」


 ジミュコ師匠は冒険の歴書を、ぶっきらぼうに離して首を捻った。


「あれ?師匠。調理師はLV減衰してませんね?」


「そうですね。次いきますよ、次」

 師匠は『乗獣士LV3』のリーフを俺に手渡し、固唾を呑んだ。


『乗獣士LV1を導入しました』


 んんんんんん。駄目だー。リーフからだと1/3に減衰してしまう。


「師匠、もしかして俺に双子の家族でもいるんでしょうか?」


「ちょっと待ってて下さい……もう少しで何か()そう」


 俺は簡素な部屋をグルグルぐるぐる回る師匠を、ソファから黙して見守った。

 

 あっ。と口を半開きにして師匠が俺の歴書を手に取った。

 そして、いつものバグだらけの履歴ページを確認して頭を抱える。


「ねぇ……タイガさん……」


 意を決したようにストンと、細い腰を俺の隣にねじ込みジミュコーネ師匠が俺の目を覗き込んだ。

 なんとなくドキドキして思わず顔の火照りを抑えられずにいると、師匠から軽い拳が飛んでくる。

 条件反射で咄嗟に、開いたままの歴書から『金縛眼』を発動させると、師匠は驚いたように目を見開いたが、その結果として金縛りにあったのは俺の方だった。

 ……なんで!! 底が知れなすぎますよ、師匠!


「それはそうとタイガさん……」

 師匠がさらりと話を元に戻し、人差し指で俺の頬を小突いた。

「……アナタ、向こうの世界で『蹴球』をしてませんでしたか?」


「あっ。あぁあぁあぁあぁ!」


「そういうことです」


 つまり、蹴球士LV20は元々俺のものだった可能性が高い、ということなのだ。

「じゃあ、やっぱり違法歴書士が抜き取っていたんですね!?」


「うーん。闇市場は闇市場、陽の当たる店には出てこないのが通例なのですが……明日、ジョブ屋の売買履歴を確認してみます」


 それで裏が取れなければ、俺のチート能力が一つ減ったということになる。

 会ったこともないサッカー好きの双子の妹が、こちらの世界に流されたという可能性は限りなく0に近いからだ。


 ……俺が漂泊の歴書で持ち込むはずだったジョブは、他にいくつあったのだろうか?

 それがあれば……悪夢の卵の眷属にも楽に勝てたんじゃないのか??

 マリアンナが大怪我をすることもなかったんじゃないのか?

 考えないようにしても、満たしたばかりの腹がムカムカしてくる。




「タイガさん……」

 仄暗い部屋のベッドから、ジミュコーネ師匠の声がこぼれてきた。

「タイガさん……」


 ちょっと耳の奥がくすぐったくなり、思わず床の上を転がってしまう。


「起きてるんなら返事くらいしてくださいよ」


 ……なんだ。寝言じゃなかったんですか。可愛くない。


「そのうちどこかのサーカスで芸を磨いてみませんか?」


「魅了眼を使ってしまう前、子ども達にはけっこうウケてましたけど」


「『見えない糸』を張ってジャグリングを真似てみせても、しょせん子ども騙しでしかありません。芸を舐めずに実力をつけて欲しいのです」


 今の実力が子ども騙し程度なのは、自分でも痛いほど良くわかっている。

 ……わかっているんだけどな。


「師匠はちょっと俺に期待しすぎですよ。どこを買って、なんの得があって、『詐欺士』を獲得しちゃうような奴に優しくしてくれるんですか?」


 闇に呑まれそうになりながら待ち続けたが、師匠からの返事はなかった。

 最近は師匠の優しさの背後に、薄っすらと罪悪感の影のような配慮を感じてしまって、少しだけつらい。

 明日、違法歴書士の存在が明らかになった時点で、いいかげん初期設定不備(おきのどくですが)の罪悪感とは綺麗さっぱりお別れしてもらおう。


 それとも。。。。。。


 俺は床から起き上がってベッドの脇に立ち、師匠の背中を見つめた。

 もちろん鑑定眼も魅了眼も金縛眼も無しでだ。


「…………一緒に寝ていいですか?」


「駄目です。」


 ふぅ。狸寝入りでしたか。


 床に戻ると何かがそうな気配を感じ、振り払うように毛布にもぐったが、眠りの淵はいつになく遠かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ