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異世界転職: 『流者はつらいよ』  作者: 息忌忠心
【王都編】Ⅳ 一花心の流者 と リリベル姫
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大道芸人はつらいよ

 不審な輩を鑑定するような目つきで俺を眺めていた少年が、ボソリと呟いた。

「流者のタイガだこれ」

 おい。『これ』はヤメろ、『これ』は。


 ……って少年。今、『流者』って言ったか?


 が、聞き返す前に子どもらの眼差しが興味深々に輝いた。

「魔王やっつける人?」

「こんな人で勝てるかなー」

「このおじさん、メグちゃんのパパじゃなかった?」

「なんか技をみせてみてよ。万年樹を切れるぐらいのやつー」

「ねぇねぇ、異世界のお家に帰りたい?」

「もう一回たくさんお花だしてみてー」


 あわわわわわ。

 流者がバレてもうたーーー!


 子どもを迎えに来た買い物帰りのオバハンが、不意に果物を一つ投げてよこした。

 あまりにも意外だったので、『手技』のパッシブありでも落としそうになる。

「パーピリアさんから聞いたわよ! あんた、流者だったんだね。チグリガルドを頼むわよ!」

「あっ、おっ、ありがとうござーーーい!」

 …………流者、なんていうか別に普通だこれ。


 あんなに信じてもらえず、隠していた『流者』だったのに。

 街の人々は案外スルリと信じてくれている。

 オバハンの口ぶりからすると、パーピリアさんの口利きも大きそうだが。


「よう、タイガ。元気にしてたか?」

「えぇ。まぁ」

 噂をすれば衛兵隊の髭もじゃ副隊長が、暇そうにブラブラとお出ましだ。

 ……その途端、子ども達の視線が不信の色を帯び、囲んでいた輪が遠ざかってゆく。

 せっかく集まってきたのに、さすがは泣く子も黙る副隊長だ。


「それよりお前さん、本当に流者だったんだな」

「なにを今さら。信じてくれなかったくせに」

「お前さん、自分が流者だって必死に力説しなかっただろ?それにオレ、疑うのが仕事の衛兵だよ?親みたいな優しさを求められても困るぜ」

 ん。まぁ、たしかにそうだ。

 ……俺、ちょっと甘えてた。


「で、話はそれだけですか?」

「まぁな。お前さんがまたもやお花畑満開にして、違法な商売でも始めたんじゃないかと思って、覗きにきただけだ」

 まったく、いつもいつも大きなお世話だ!


 とはいえ。しかし。この人だって衛兵隊本部の副隊長だ。暇を持て余してやってきたのではないのかも知れない。

「あの……副隊長。お名前は?」

「あぁん?何を今さら。髭の副隊長こと『ブロサラブ』だ」

「うわっ。『髭』って、まんまな二つ名ですね」

「うるせぇ。お花畑に言われたかないよ」


 俺の尻を棒で小突き、ブロサラブ副隊長は公園をブラブラと警ら(・・)し始めた。

「おっと忘れてた。午後から昨日の事情聴取に来てくれ!」

 あー。面倒だなこれ。

「正式決定じゃないが、盗賊団捕縛の報奨金が出るかも知れんぞ!」

 あ、それなら行きます。

 てか忘れないで下さい。財布が寂しくなったばかりなので。



 ブロサラブ副隊長が行ってしまったあと、改めて花芸を披露した。

 が、もう見飽きてしまったのか子どもらがあまり集まってこない。

「坊ちゃん嬢ちゃん、見てらっしゃい!あっと驚く空飛ぶ花だよっ!」


 ちらりちらりと人が寄って来た所で、ひとりのオッサンが見物料入れにと空き缶を足元に置いてくれた。

 チャンス到来。俺はゴッド・ハンドで『魅了眼』と『大声』をアクティブにし、さらに花を増やして宙に舞わせた。

 にもかかわらずだ。

 大人たちが子どもの手を引き、蜘蛛の子を散らすように周りからいなくなった。

 ???なぜに? なんでだ!??


 新しい客がやってきたのかと思えば、それは私服のブル姉とスチャラカ、因縁やるかたない衛兵隊コンビだった。

 っていうか、アンタらプライベートで付き合ってたりするんですか?

「なんですか?商売の邪魔をしないでくださいよ」

「…………タイガ君~、ちょっと本部まで来てもらおうか?」

「あっ、昨日の報奨金が正式決定しましたか?」

「……………………。」

 ん?

 スチャラカの眼光がいつになく鋭く冷たい。



 あぁああ。

 しばらくぶりの衛兵隊本部です、お久しぶりです。。。。

 取調室ではブロサラブ副隊長が、樹木の表皮のようにこれでもかと眉間に皺を寄せている。


 …………。魅了眼を使用しての街頭での販売・客引き行為は『違法』でございましたか。

 マジですか。もしかして、お泊りが必要なレベルですか??

 はぁ。



 15刻を過ぎたぐらいだろうか。

 どちらがついでなのか分からなくなってしまった、盗賊団との戦闘についての参考聴取が終わった頃。

 取り調べ室にジミュコ師匠が身柄を引き受けにやってきた。

 残念ながら昨日の報奨金は、保釈金で相殺されてしまった。

 あーぁ。クソッタレ。


 予想できていたのなら、もう少し詳しく法律を教えてくれたら良かったのに副隊長、と軽くボヤきながら衛兵隊本部をあとにした。

 甘えるなと言われそうなので、小声で。

 こりゃ真面目な話し、法律の勉強に時間を割かなきゃだめかな。


「そうですね。そろそろ本気で『外道士』獲得が心配になってきました」

 言いながら師匠が開いてみせた俺の職歴書には。。。


『トピックス:詐欺士LV1を獲得しました』

 窃盗士に続き、またもやヤバげなジョブが表示されていた。


「記憶喪失とか、細かい嘘を重ねてましたからねぇ。その累積かと思います」

 詐欺士を削除しながら、師匠は何かを思案している。

「しかしタイガさん。道化士が獲得できていますから、成果がなかったという訳ではありませんよ。心配いりません。保釈金で減ったぶん夜のバイトでもしますか?」


「はい……面目ないです」

「導入LVの血縁減衰が起こってしまった事については、今晩ゆっくりと調査しましょう」


 陽が傾きかけたチグリガルド王都の片隅の『チグリ・大サーカス』

 赤と緑の大きなテントが、夕刻のバイト先だった。

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