Ⅳ-1: 香具士はつらいよ
グロリオサ王子ご一行が捕縛した以外の盗賊は、ほとんど俺が倒した。
けれども商隊の救出報酬は途中で協議した『進む者6:残る者4』に変わりはなく、五人で山分けした俺の取り分は2万Gちょっと。
それでも、俺は満たされた思いで宿屋のベッドに横たわっていた。
空き家で救出した商人から直接20万Gを貰っていたし、何よりパーピリアさんやメグを守ることができた事が、Gには換算できないほど嬉しかった。
……別に抱きついてきたメグに頬ずりされたからではない。。。
メグ一家は家財の荷車を回収しつつ、故郷の東の村へ再出発した。
俺はといえば途中まで見送る気力もなく、倒れ込んだまま爆睡した。
宿屋の女将さんに起こされ、遅い晩飯を掻き込み、風呂に入ってまた眠った。
*
『トピックス:養蜂士LV1を獲得しました』
『トピックス:道化士LV1を獲得しました』
翌朝、目覚めてからようやく冒険の職歴書を確認すると、新ジョブが二つも獲得されていた。
とくに道化士は『上級職』なのでスキルが楽しみだ。うほっ。
○就業ジョブ一覧(CAP999)
・花葉装飾師 LV24
職人武具:拡散の癒水如雨露 EX:百花繚乱
・軽業師 LV24
職人武具:眼力耐性の空間棒 EX:受身即転攻
・蹴球師 LV24
職人武具:戦線掌握の警笛 EX:ドナの手
・脱捨師 LV24
職人武具:未設定 EX:---
・舞踏師 LV24
職人武具:急所隠防の扇 EX:---
主力の5職は攻防のバランスが結果として取れつつあるので、脱捨師の職人武具は未設定のまま保留にしてある。
急所隠防の扇が舞踏師で手に入ったから、『棒』を第一候補にしようか。
・狩猟士LV19(↑1) ・警備士LV17(↑3) ・薬毒士LV12(↑1)
・裁縫士LV12(↑1) ・曲芸士LV11(↑2) ・配達士LV10
・洗濯士LV9 ・皿洗士LV9(↑1) ・占い士LV8(↑1)
中堅どころは道化士の下位職、家政士の下位職、初期から育ててきた4職だ。
これでも家政士が発現しないのは、おそらく『調理士』がないからだろうと推察できる。あるいは『清掃士』も必要なのか。
・地図士LV7 ・浮流士LV5 ・保育士LV5
・魔術士LV4(↑1) ・香具士LV4(↑1) ・人形士LV3
・養蝶士LV3(↑1) ・物語士LV2 ・指揮士LV1
○予備職
暴食士LV2 道化士LV1(new) 養蜂士LV1(new)
保育士は家政士の下位職なので、もう少し上げても無駄ではないのかも知れない。
その他の雑多なジョブは放置してLVが上がるのを待つのがいいのだろう。
戦闘中のスタミナ温存の観点から言えば予備職に落としても良いのだけれど、チートなCAPを生かした『複合武器』は、もはや俺の長所になりつつある。
細かいスキルでも使いようによっては戦術の幅が広がるし、そのおかげで盗賊に勝てたと言っても過言じゃないから難しい。
さて。花屋のバイトの後は、とたんにすることが無くなってしまった。
というのも顔を出したハンターセンターに、ジミュコーネ師匠の姿が見当たらなかったからだ。
バイトさえなかったら、チェックアウトせずに宿屋でゆっくりできたのに。
少しぶりにマリアンナを見舞いに訪ねたが、今日も鉄のカーテンが敷かれていた。
特筆はなし。
空き時間を無駄にしないようジョブ屋に向かい、GJの兄さんと相談しながら『貴金士LV18』を27万Gで購入した。(残金は8万Gちょっと)。
『鉄鉱士』や『鍛冶士』あるいは『調理士』にしようかとも悩んだ末にだ。
理由はストリング・フェスミーダ戦でぼっきり折れた木製の『棒』の強化のため。
金属、しかも貴金属で具象化すれば、棒のしなりは減るかもしれないが、格段に折れにくくなるに違いない。
先端に『鉄球』などを重ね出しすればハンマーにもなりそうだし。
しかも貴金士は上級職『香具士』の下位職、成長加速でLV上げが捗ることうけ合いだ。
「毎度あり~。今後ともごひいきに~」
店から出ると俺は早速『貴金士LV18』のリーフを、冒険の職歴書に挟んだ。
『貴金士LV6を導入しました』
…………ちょっと待てぃ!!
おいおいおいおい!
LV6ってどういうことだよ!!?普通に1/3に減衰してるじゃねぇか!!
チートまがいな『血縁減衰なしの受領能力』に何が起こったのか、訳が分からぬまま俺はジミュコーネ師匠の元へ走った。
……が、こんな時に師匠は、本日ハンターセンターを欠勤とのこと。
自宅にも不在だったので一旦あきらめて中央広場へ引き返す。
緊急性がないとは言え、せっかく買った貴金士の減衰は痛い。
なにせLV6とLV18じゃ、獲得できるアクティブスキルが6つも違う。
しかも序盤のスキルは、各種道具や柔らかい貴金属の造象ばかり……。
ショックを緩和するために市場で特売されていたフェスミーダのサラダサンドを食べながら(あいつら、うまい商売しやがって……)、めばえ公園で師匠宅を再訪する機を伺う。
念のために職歴書を見直したが、昨日パーピリアさんから直結で貰った『舞踏師』はちゃんと減衰なしのLV24だ。
何故、いつから減衰が始まったのか。考えても考えても答えは見つからない。
ベンチに座ったまま考え続けるのも徐々に苦痛となり、じわじわと焦燥感が纏わりついてくる。
しかたなしに俺は『花・具象化』の特訓で気を紛らすことにした。
『魔術士』と『占い士』のLV上げは、道化士や香具士の成長加速にも繋がるから、一粒で何重にも効果的なはず……。
そうこうしているうちに、公園で遊んでいた子どもたちがチラホラ近寄ってきた。
子ども達が集まれば、それに付随して大人も集まって来る。
そこで品物を売るのが香具士の基本だから、ゆくゆくは一石二鳥だ。
いや、保育士のLV上げにもなるだろうから、一石何鳥になるやら期待が膨らむ。
花芸はすぐに飽きられてしまったので、今度は操り人形に挑戦する。
これがまたうまくいった。
『裁縫士』の『不可視糸』で人形を躍らすだけで、子どもらは大喜びなのだ。
さらには不可視糸つきの輪や球を山ほど具象化してジャグリングをすると、だんだん年齢の大きな子らまでが覗きに来るようになってきた。
その中の一人の少年が、じいぃぃぃっと訝しげな視線でこちらを凝視している。
……あまりにもまじまじと見てくるので、何だか嫌な予感がしてくる。