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異世界転職: 『流者はつらいよ』  作者: 息忌忠心
【王都編】Ⅲ 百花繚乱の流者 と メグと
29/51

偏っててつらいよ

「毎度あり~」

 ……。

 商工会から受け取ったストリング・フェスミーダの討伐報酬は、たったの5千Gだった。

 募集時点での傭兵報酬は1万Gだと聞いていたのだが、輸送費、昼食代、保険料もろもろをバッチリ差し引かれていたのだ。


 残念ながらゴブリン達との戦いへの、追加報酬は無かった。

 奴らはフェスミーダに縄張りを荒らされ森を彷徨っていただけで、討伐対象にはなっていなかったからだという。

 この報酬の少なさを考えると、勢いで蹴球師の職人武具を決めたことに、後悔が沸いてこないでもない。


「お給料よかったねー。今日はメグより多いよ!」

 メグがキャンディーを舐めながら、嬉しそうに俺を祝福してくれた。

 まぁ、今日も生き延びてプラス収支で終わったからよしとするか。



 まっすぐ通り抜けるつもりだった広場の掲示板に、人だかりができている。

 もしかしたら、今日の俺たちの大活躍が早速ニュースになったか?


『号外』

●イスタンベール王国に留学中のグロリオサ王子が、悪夢の卵討伐に向けて帰国する予定。それにともない『ガザニア親衛騎士団』が再編成される模様。

●勇者選抜の儀・パーティー登録費用が2000万Gに決定。


 に・せ・ん・まん???

 あー。ぜんぜん俺にチャンスないわー。

 なにせ本日のハント報酬が5千Gですよ?

 ないわー。お金。


 メグ母の今日の夜の仕事は、お休み。

 俺とメグと美人母の三人でのんびり食卓を囲んでいると、一日の緊張がほどけてホッとしてくる。


 今夜の晩飯も、腹いっぱいの美食を食べることができた。

 なんでも昼の仕事で『菓子師』マスターになったお祝いも兼ねているのだという。

 メグの嬉しそうな顔が、デザートのクリームパフェにほころぶ。



 その食後の出来事。

 ブルンと震えた冒険の履歴書を開いて眺めていると、メグ母が覗いてきた。


○就業ジョブ一覧(CAP999)

 花葉装飾師LV24(マスター)

 軽業師 LV24(マスター)

 蹴球師 LV24(マスター)

 脱捨師 LV24(マスター)

 狩猟士 LV16 (↑↑4)

 警備士 LV12 (↑↑3)

 裁縫士 LV10 (↑2)

 薬毒士 LV10 (↑2)

 配達士 LV8 (↑1)

 洗濯士 LV8 (↑1)

 皿洗士 LV7 (↑1)

 曲芸士 LV7 (↑↑3)

 地図士 LV6 (↑2)

 占い士(ギャンブラー)LV6 (↑2)

 浮流士(フローター) LV5

 保育士 LV5 (↑1)

 人形士 LV3 (↑1)

 魔術師 LV3 (↑2)

 物語士 LV2

 香具士 LV2

 養蝶士 LV1


・予備職

 暴食士 LV2

 指揮士 LV1 (new)


『トピックス:指揮士LV1を獲得しました』

『トピックス:多数のジョブがレベルアップしました』

『トピックス:脱捨士がLV24(マスター)になりました。職人武具(マスターウェポン)と付加スキルを選択できます』


「タイガ君、訳ありとは思っていたけど、もしかして流者?」

 メグ母が、晩飯の味の感想でも聞くようなノリで、さらりと『流者』と口にする。

「えぇ……実はそうなんです。黙っててすみません」

 …………。ん?それだけ?


「なんていうか。ものすごく偏ってるわね、キミ」

「そうですか?むしろ色々とりすぎて、幅広過ぎな気が自分ではしてるんですが」

「ジョブの話じゃなくて……『お花畑』って二つ名のからみよ」

 ???


 メグ母の顔をまじまじと見てしまう。

 ……が、待っても話が弾んでこない。

 ふぅ、と小さく息を吐いて彼女が話はじめる。

「なんていうかな。志向性の偏りに自分で気づいていないというか……」

 ???


「親しくなりつつある人との距離感というか親密さ。簡単にウチに来たりするけれど、ふっ、と引いてそれ以上深くは入って来ないわよね? 私が夜に何の仕事をしているのか?とか聞いてこないし」

「……そうですね。こっちに来る前に色々あって……人と深くかかわるのが怖くなってるのかも知れません」

「わたしもタイガ君の『色々』を無理に聞き出すつもりはないけど。流者ってみんな訳ありらしいから」

「そうでしたか……」


 物語本に飽きたのか、こちらの話に興味が沸いたのか、天然隠密のメグが脇に立って母を見上げている。

 それでもメグ母は、向こうに行ってなさいと追い払うでなく、膝の上に乗せて一緒に聞かせる態勢に入る。


「対策準備が整ってないってのはあるのだろうけれど……流者は王宮か賢者会に抱えられるのが通常らしいのに、タイガ君が放置されているのも妙だし。そんな奥手なタイガ君が『脱捨師』のマスターってのも不思議よね」

「脱捨士は貰いものなので……」

 LV減衰なしでの受領能力を伝えた後も、メグ母は何かが引っかかっている様子。


「それをくれたのが、あのジミュコーネって娘?ますます分からないわね」

「脱捨士は今日のゴブリン戦ですごく役に立ったし、悪意があるとは思えないんですが」

「お花畑なんて言われるほど一面には咲いてないけど、やっぱりちょっと心配」

「そういえばランの花と幼虫、どうなったか忘れてました!」


 ランは花盛り真っ只中。淡いピンクの白い花が咲き誇り、濃密な香りを漂わせている。

 ……俺が慌てて活力発奮剤(バーニングスピリッツ)なんかやったから、一気に咲いてしまったのだ。

 その植木鉢で幼虫は、暴食士でも獲得したかのようにランの葉を貪っている。


「まずいわね。葉っぱを通して虫も中毒を起こしかけているのかも」

 メグ母がシャープな頬に指を当てて小首をかしげた。

 メグも母の仕草を真似て、眉をひそめる。


 幼虫をランから別の入れ物に移し、花葉装飾師の具象化スキルで葉っぱを与えてみたのだが、美味しそうには食べてくれない。

 具象化した葉は造花のようなものだから、という理由らしい。



 俺とメグ母は心配顔のメグを連れ、夜の王都に繰り出した。

 洗濯場のある水路で、新鮮な葉っぱを何枚か頂戴する。

「ちゃんと食べてるねー」

 幼虫は、食べたり休んだりしながら、落ち着きを取り戻している。


 管理小屋の街灯の下にメグを座らせ、メグ母は冒険の職歴書を開いた。

「少し手合わせしてみましょう?タイガ君も武具を出して」


 メグ母はフサのついた『扇』を二枚具象化し、挑発的なウインクをしてみせた。

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