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異世界転職: 『流者はつらいよ』  作者: 息忌忠心
【王都編】Ⅲ 百花繚乱の流者 と メグと
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燃え上がるのもつらいよ

「羽音……聞こえないか?」

 誰かがボソリと呟いた。


 そう言われてみると、かすかにバサバサとした物音が聞こえないでもない。

 ホッとしかけた腰がなかなか上がらないまま、何人かで『望遠』などを用い木々の隙間に目を凝らす。


 いない……違う…………上だ!!

 開けた地で休んでいたのが幸か不幸か、ストリング・フェスミーダは空から直接飛び込んできた。

 探す手間がはぶけたぜ。と言ってる場合じゃない。


 すでに商の字が一人トゲつきの節腕に張り飛ばされ、森のシダの草むらに消えている。

 デカい。今まで倒してきたモンスターの中で一番デカい。


 リーダーが叫ぶより早く、全員で包囲陣形をとりハンマーで迎撃を始める。

 が、節の多い手足だけで5mはあり、リーチで圧倒的に負けているので攻撃は体までは届かない。背後は背後で大きな平べったい巻き尻尾で、ビタンビタンと地面を叩いている。

 フェスミーダの尻尾にいくつかの穴は開けられたが、致命打には程遠い。


『猛疾駆』を使って最速で正面に回り、顔を仰ぎ見る。

 カマキリのようなレンズ眼のついた三角の顔を確認。全体を総合すると「ナナフシ」に近い虫なのかもしれない。


 戦況はどうなってる。間合いを取っているので大ダメージを受けている者はいないが、八本もある三節棍の腕にムチ打たれて苦戦している。

 ただでさえ細い節の腕が、端に行くほど遠心力で加速してくるので、ハンマーの(ヘッド)が全く当たらないのだ。


「眼だ!複眼をやれ!!」

 リーダーの号令に何人かの職人がハンマーを投擲する。同時に多方からハンマーが投げられ、一発が眼の隅に掠める。緑色のレンズに傷はつけたものの角度が浅く、ストリング・フェスミーダは怒り狂って暴れ出す。俺も棒や球を投擲してみたが、今は気にしないでおこう。

 それよりストリング・フェスミーダ??師匠のメモに何か書いてあったような……。


 ワシャワシャと蠢く口から、シュッと白い筋が噴出してくる。

「糸だ!!」

 口から出た白い粘液は、空気に触れてネバネバした糸に変わる。

 細く広範囲の糸は体全体に覆い被さり、太い紐はゴムのように弾力があり、直撃をくらったメンバーが身動きの自由を奪われる。


 冒険の職歴書を開いたが、裁縫士の『ハサミ』具象化にはもう一息レベルが届いていない。花葉装飾師の『剪定鋏★』で何とかなるか?

 ……フェスミーダの糸を全く切れないこともないが、粘着性が強すぎて、仲間の解放にはなかなか及ばない。


 何か。何か策はないか。


 花葉装飾師の『防虫スプレー』を具象化し、吹きかける。

 微かに効いている様子ではあるが、虫の体格に比して噴射の量が全然足りていない。

『百花繚乱!!』


 無数の防虫スプレーを具象化し、数本まとめて吹きかける。

 他にも気づいた仲間が、四方八方からスプレーし、小さな空き地が薬剤で曇ってくる。

「やれ!もっとかけまくれ!」


 効いているのは間違いない。傷口から染みているのか、青い体液の流れる尻尾がジタバタ暴れている。

 シャァァァァア!!

 火の手が上がってストリング・フェスミーダが拒否反応を示した。

 そういえばメモにあった弱点か!?


 ボフン!ゴフォオオオ!

 後ろの方で誰かがスプレーに着火し、即席の火炎放射器に変えていた。

 尻尾の甲殻が焼ける匂いとフェスミーダの咆哮が森にこだまする。


 いつの間にやらスプレー火炎放射器の包囲網が整い、あちらこちらから炎がほとばしる。

 熱い!熱いってば。火は俺も弱点なんだよ!!!


 赤毛の少女剣術士が側面から腕を二本切り落とした。

 チャンス到来か?

『操紐糸!』

 俺はフェスミーダの吐き出す粘着糸を裁縫士のスキルで逸らし、跳躍で腕の一撃をかわして懐に転がり込む。


 すかさず職人武具の棒を出した瞬間、右側面から棘つきの腕が一本俺を狙ってくる。

「うりゃあああ!」

 俺は職人武具の棒を縦に全力で振った。

 腕の直撃はかろうじて阻止したが、ボキンと音を立てて木材の武器が折れる。

 おいっ、この棒☆☆☆(シナジー+3)だぞ!?


 まずった。腕の節の先端が回り込んで俺の背を打つ。一の腕の鋭い先端に貫かれて串刺し……という致命的な展開は避けられたが、二の腕・三の腕に挟まれギリギリと抱きしめられる。

 クソッタレ。体を滑らせて抜け出したいのだが、棘が食い込んでいるので体がズラせない。うまいこと出来てやがるぜ。

 しかも折られた(ポール)じゃリーチが足りない。


 ストリング・フェスミーダと睨み合うこと数秒。

 ここだっ!!


 口の動きが止まった瞬間、『操紐糸』で射出を遮る。

 作戦大成功。フェスミーダの口元で糸が団子になって固まり、もがき苦しみ始める。

『粘着剤』で追い打ちをかけ、完全に塞いでやった。

 が、力任せに腕を締め付けてくるので、ますますこちらも痛めつけられる。


「とりゃああああ!」

 黄色い声がして、挟まれていた腕の力が抜けていく。

 赤毛の剣術士が腕の付け根に切り込み、腱を一本切ってくれたのだ。


 フェスミーダの二の腕三の腕を押し開いて、折れた棒を突き立てる。届くには届いたが殻を貫くには至らない。

 いったん引いて立て直そう。


 足掻き苦しむ怪虫の節腕にハンマーを弾き飛ばされ、メンバーがもう一人横倒しにされる。


 2……4……残り5本。かなり手薄になってきた。

 口の粘糸も封じた。

 次だ……。行くぞ……。


 赤毛の少女が脇から切りつけた瞬間、フェスミーダが腕を広げて薙ぎ払おうとした。

 腹がガラ空きなんだよ!


『猛疾駆』『超跳躍』『眼力耐性の空間棒』

 俺は懐に飛び込んで、最大威力で棒を突き立てた。

 おんどりゃあ!


 フェスミーダの腹の穴から、青い体液がこぼれて固まる。

 もう一丁!


 逃げ出そうとして広げた翅をハンマーが突き破り、燃え上がって溶けた。

 大型怪虫ストリングフェスミーダは声も上げずに、森の肥やしとなった。



『注水』『注水』『注水』……『散水』。

 飛び火した森の木に水をかけて歩く。

 森林火災の可能性を考えてから、火炎放射器を使えよ!

 と言ってもいつものごとく後の祭りだが。


 冷水噴爆??ええい、しゃらくさい。花葉装飾師の職人武具『拡散の癒水如雨露』だ!

 仲間も森の草木もまとめて癒されやがれ!

 さすがに効果はてきめんなのだが、なんだか悪夢の卵眷属戦ほどの範囲も威力もない気がする。


 勝つには勝ったが事後処理に明け暮れ、喜んでいる暇もない。

 しかも、いろいろ話したかったのに、赤毛の剣術士の少女はすでに森からいなくなっていた。

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